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【第二部完結】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
第2部 最弱の八天導師

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82話 可愛そうなキータ君

「なっ!?」

 この戦いが始まってからずっと、ふわふわと空中に漂い昏々と眠っていたハルカの姿が、消えている。俺は慌てて周囲の気配を探った。


 そして。


 ドクン、と心臓が強くなる。冷や汗がにじみ出て、バクバク脈拍が加速していく。

 本能が危険を知らせる、強大なプレッシャーを感じ取り。

 俺は恐る恐るそちらへ目をやった。


 立っていたのは、薄めを開けて、眠そうに瞼を擦るハルカの姿。

 ハルカはのんびり、マイペースに。吹き飛ばされたキータの元へ向かっててくてく歩いていた。ただ、それだけなのに。


 恐怖が心と体を支配する。戦慄、とはこの事なのだろうか。

 項垂れるキータの元へたどり着き、手を差し伸べようとしていたハルカに向けて。

 俺は殆ど無意識に、魔法を発動していた。


「『強度N、範囲タイプB』ッ『破魔のルクスエクラ』!!」

『フェア・クリスタル』を右手に握り込み左手を二人に向けて。掌から直線上に光の奔流が放たれた。この光に、破壊的な攻撃力は無い。しかし、この光の中では魔法が魔力へと分解され効力を失う。


 ほんの少しでも、ハルカの力を削げれば御の字。本命は、気を失っているキータだ。

 仮にハルカがこの魔法から逃れても、逃げる事のできないキータには直撃する。


 そうすればキータからイーヴィルの魔力を消し去って、敵を一人減らせる上に、その後気付けに成功すれば味方が増え、一気に形勢逆転となるはずだ。


 そんな青写真は。


「『ダークネス・ディセンション』」

 気だるげにハルカが放った魔法によって、儚く打ち砕かれる。

 紫色の魔力が迸り、壁のようにハルカの前に広がって。

 殺到する光の奔流を堰き止めた。


「馬鹿なッ!?」

 その光景が、信じられない。


「〝原初の魔力〟なんだぞ!? ちっぽけな俺なんかの魔導じゃ無い! 世界に選ばれた、正真正銘特別な人間の力なのにっ!!」


 〝破滅の光〟が防がれる事なんてあってはならない筈だ。いくら希釈しているとはいえ、それでも相当な工夫を凝らさねば魔石にも込められないようなじゃじゃ馬な魔力なのだ。


 物理的に遮光されるならまだしも、『魔法』で防がれる事なんてあり得ないのに。


 『フェア・クリスタル』に蓄積された魔力が無くなり、光の奔流が打ち止めになっても。

 壁のように展開された紫色の魔力は悠々と漂い、ハルカとキータを包んでいた。


 気配は、闇属性の魔力そのもの。〝破滅の光〟が〝原初の魔力〟である事を度外視すれば、光属性と闇属性の魔力は相殺し互いに打ち消し合うのは正しい挙動だが……。こと〝破滅の光〟に関しては、そんな属性相関すらも覆して、闇属性の魔法も無力化する代物だ。それが防がれるなんて……。


 ――まさか、アレも〝原初の魔力〟だって言うのか!?


 そこまで考えて、俺は漸く思い出した。

 そうだ、初めてじゃ無い。〝破滅の光〟が防がれたのは!

 テラ校長の旧友、〝第四の賢者〟カイが確かに〝破滅の光〟を防いでいた!


 俺がこうして、ルクシエラさんから〝破滅の光〟を借りている様に。ハルカもまた、カイから〝原初の魔力〟を譲渡されていると考えれば、辻褄があう。


「やっぱりあいつの仕業かよッ」

 事件の黒幕が見えてきたが、今はそれどころではない。


「可愛そうなキータ君。イジメられちゃたのよ」

 ハルカが口を開いた。

 キータと比べると、普段と変わらない調子だ。


「いっぱい食べて、いっぱい眠るのよ。たったそれだけの〝願い〟を、どうして邪魔するのよ」

 糾弾するようなきつい視線が俺の胸に突き刺さる。非難めいた表情は、どこか切なげで。苦しんでいるようにも見えた。


「違うっ!! こんなの、お前達の願いである筈が無い!!」

「それを決めるのは私たちよ」

 ハルカはそう言うと、キータに手をかざした。


「私たちの幸せを邪魔する人は――許さないのよ」

 キータの身体が紫色の魔力に包まれ、ふわり、と浮かび上がった。


「はぁっ!?」

 風属性の気配は全く感じない。あの紫色の魔力は闇属性である筈なのに、包み込まれたキータは重力を無視して。


「『デッドリー・ドロップ』」

 ハルカの指先が俺を差す。

 浮遊しているキータが蹲った体勢でこちらめがけて飛来する!


「うわっ!?」

 咄嗟に身を躱すと、キータは強い衝撃音を立てて地面に衝突した。


「お前もキータをイジメてるじゃないか!?」

 あまりに酷い攻撃方法に思わず抗議するが、


「私だけはキータ君をイジメていいのよ」

 と真顔で返されてしまった。

「歪んだ愛情だな……ッ!」

 言って、走る。


 既にキータの身体は再び浮かび上がり俺を狙っている。

 攻撃の速度自体はそこまで早くない。回避は可能だが。


 紫色の魔力に包まれたキータの身体は隕石か何かのように地面をえぐり取る程の破壊力を秘めていた。もう俺の手札も殆ど残って居ない。ハルカをどうすれば倒せる?


 ――……俺の手札が無いなら、相手の手札を使ってやる!!

 考えがまとまった俺は、逃げることを辞める。

 そして、ハルベルトを横に構えて飛来するキータの方へ自ら突っ込んだ。


「ウオォォ!!」

 槍を盾代わりに、キータの身体を正面から受け止める!

 甲高い金属音が響く。紫色の魔力は形定まらず漂っているのに、まるで鋼鉄の膜かのような強い抵抗感があった。


 ――これならいけるッ!

 俺は槍を傾け、正面からの重圧をある方向へ逃がす。

 それと同時に、魔法を発動した。


「『リア・スラスター』ッ!!」

 これは、ハルベルトの背後から炎を噴出させて威力を増加させていた魔法だが媒体はハルベルトである必要は無い。何らかの物体の背部から炎を噴出させる魔法だ。


 勢いをいなしたキータの身体は、斜め下に向かって進む。そのままではまた地面に埋まり込むがそこで俺の魔法が発動した。

 強烈な炎の噴射が、キータの身体をもう一度浮上させる。


「えっ――」

 勢いを逃がした先は、ハルカの方向! 本来ならハルカの目の前に落下する所を、落下ベクトルを相殺した形だ。その結果、キータの身体が、まっすぐハルカへ迫る!

キータ君ホントに可愛そう


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