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【第二部完結•休載中】俺は主人公になれない 〜〝ただの石ころ〟が、誰かの〝特別〟になる物語~  作者: 岩重八八十(いわじゅう はやと)
プロローグ ただの石ころであるとしても
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1話 〝ファルマ〟という人間は、 特別な存在なんかじゃない。

 挿絵(By みてみん)


 昔は、自分が特別な存在だと思っていた。

 いや、引かないで欲しい。本当に昔の、一桁くらいの年齢の頃の話だから。

 当時から俺はアニメやゲームが大好きで、そこに登場する主人公に憧れていた。

そして、なんの疑いもなく自分だってそんな『主人公』の一人なんだと思っていた。

 

 でも。

 

 まぁ、そんな都合の良い現実なんて何処にもないわけで。

 一年、また一年と過ごしていくウチに、気付く。

 

 一つ一つの切っ掛けは本当にたいしたことが無い。

 学級委員に立候補したら、多数決で圧倒的な大差を付けられて落選した、とか。

 教員に冤罪で怒られて、弁明を聞いて貰えなかった、だとか。

 すごく仲が良かった幼馴染みがいて、意を決して告白してみたけどフラれたりとか。

 まぁ、なんていうか。

 俺にとっては一つ一つが絶望の思い出なんだけど。後になって振り返ってみれば五万とある話。

 

 でも、そういったありふれた失敗談の積み重ねは……。

 自分は。


 〝ファルマ〟という人間は、

 特別な存在なんかじゃない。


 ただの石ころみたいな人間だったんだって思い知るには十分だったんだ。


 この街は特別だ。


 世界は魔法と機械を交えて文明が発達し、皆が快適な日常生活を送れる様になっている。街は人と活気に溢れ技術は日々進歩している中で。

 特に栄え特別な才能を持った選ばれし魔導士の卵達が集まる場所なんだ。


 そんな特別な街の特別な学園、私立天導学園に。

 

 特別じゃ無い俺はある恩師のごり押しで思いっきりコネ入学をしてしまった。


 学園は六年制で、1から3年の中等部、4から6年の高等部に別れている。

 

 俺は4年生。筆記成績は下の上か中の下……八人しか居ないクラスの下から三番目だ。

 その下に居る二人のクラスメイトも座学はこの調子だが実技・実戦ではトップクラスの活躍をしている脳筋派なので実質的には俺がクラスで一番劣っているという見解で間違い無い。


 やはり、真に優秀な人間達と比べると俺の実力なんてこの程度のモノだ。


 ……だから。



 本当なら、こんな事するべきでは無かったのかも知れない。


 

 なんてことは無い、いつも通りの放課後だった筈だ。

 俺は件の恩師に使いっ走りを頼まれて学園を離れコンビニへとお使いに行っていた。


 ご飯、スイーツ、日用品から簡単な魔法道具まで手軽に買い物できるから便利だ。

 必要なモノを買いそろえ、綺麗な夕焼け空の下をのんびり歩いていたら。

 

 突然悲鳴が聞こえたのだ。


 気がついたら身体が動いていた。

 駆けつけたのは、なんてことは無いとある公園。


 声の主は尻餅を付いて、動けないで居る灰色の髪をしたメガネの男の子。

 俺はその子の前へ飛び出してマテリアライズという魔力から物質を精製する魔法によって作り出した槍を構えて防御の姿勢を取った。

 

 数秒後、鈍い衝撃を槍で受け止め、俺の身体が宙に舞う。

「ぁっ……!?」

 どさり、と地面に叩き付けられる。脳が揺れ、意識が朦朧とする。

 

 視界に映るのは、二つの影。

 恐怖から、怯えた様子で未だに尻餅を付いたまま動けないで居る子供の姿と。

 黒いもやのようなモノを身に纏った二足歩行の異形。目算三メートル、人型だが明らかに人間では無い異形。

 謎多き化け物……〝イーヴィル〟の姿。


 この世界は特別だ。

 魔法なんていう未だ全容が解き明かされない神秘がある。

 だからこそ魔法の源たる元素、魔力によって時に厄介な事件が起こるのだ。

 

 俺は気力を振り絞って、槍を杖代わりに立ち上がった。

「ぐ、何、してる……」  

 イーヴィルに対して俺は槍を投げ当てた。

 歯は立たずに簡単にはじき返されるが不快と感じたのかイーヴィルの視線がこちらに向く。


「早く、逃げろッ!!」

 イーヴィルからは視線を外さずに、俺は叫ぶ。

 メガネの子は、困惑しながらも立ち上がり走り去っていく。

 ひとまず、当初の目的は達成出来た。


 これからどうするべきか、俺はイーヴィルとにらみ合ったまま思案する。


 未知の魔物、イーヴィル。

 神出鬼没で、人に危害を加える魔物。

 獣の姿や人の様な姿を持つ者など種々存在しその危険度はピンキリなのだが――


 今俺が対峙しているのは明らかに危険な大型イーヴィルだ。

 一人で戦うなんて無謀過ぎる。


 それでも、あそこで黙っているなんて出来なかった。


 イーヴィルから一般市民を守る事は、まだ学生とは言え俺達〝魔法使い〟の役目なのだから。


「『第二火炎魔法(プロミネンス)』!!」

 右手を突き出し、魔法を発動する。右手を軸にポツリと炎が灯り、それはやがて巻き付くヘビのようにうねる奔流へと成長し、伸びるようにイーヴィルに向かっていく! 

 縄のような炎に巻かれてイーヴィルは僅かに怯んだが、強く二、三回腕を振るうと炎は簡単にかき消されてしまった。


「効かない、か……」

 判っていた事だ。

 俺は特別じゃない。

 颯爽と現れて、事件を鮮やかに解決していく、そんな主人公になんかなれない。



 だけど、俺がそんなただの石ころであるとしても!

 


 今、手の届く場所に目の前で傷つこうとしていた人が居て、見て見ぬ振りをするような人間にはなりたくなかった。

 

 凡庸で、ちっぽけで、でも、そんな俺なんかでも信頼してくれる人が居る。

 その想いに恥じるような人間にはなりたくなかった。

 

 俺じゃ無くても良いのかも知れない。

 

 他の誰かなら、もっと綺麗に、もっと簡単に、コイツを倒してしまえるのかもしれない。

 でも、今この場所に居合わせたのは俺だったから。


 だから、俺は〝俺に出来る全てをやる〟んだ。


「――一か八か、アレをやってみるしかないかッ」

 まだ、隠し球はある。 

 俺は走った。そして、転がっている槍を回収する。

 そのまま槍の切っ先を地面に当て、引きずりながら走り続けた。


 イーヴィルは俺を完全に排除対象と見なしたらしいその腕が迫ってくる。

 筋骨隆々なその拳に当たってしまえばひとたまりも無いだろう。


「ッ」

 槍の先端を地面から少し離して攻撃を回避した。

 そしてすぐに体勢を立て直してまた槍を地面にこすりつける。

 さっき俺が放ったのは火属性基礎魔法の第二階級。

 

 学園の生徒なら専攻属性第二階級基礎魔法は三年生までに使えて当然というレベルの魔法だ。それが全く通じなかった。

 ならば、もう一段階上の魔法を試すしか無い。


「『求むるは第三の叡智、制するは炎』――」

 走りながら詠唱を唱える。

 

 第三階級以上の基礎魔法は高等魔導に分類され、専攻の属性なら四年生で習得し詠唱や魔法陣無しでの発動は難しい。学年で言えば六年生となって漸く詠唱や魔法陣を省略して活用できる代物。


 石ころみたいな俺に、詠唱破棄なんて背伸びした事は出来無い。


 右手に神経を集中させる。『第二火炎魔法(プロミネンス)』で発生する水流のような炎をグルグル束ねて球体にするイメージで、


「ゴァアアアア!!」

 刹那、頬に鋭い痛みが走った。


 遅れて状況を理解する。

 詠唱をするという事は隙が生まれるという事。

 魔法に集中するあまり回避行動が杜撰になり、イーヴィルの爪が頬を掠め肉を裂いたのだ。


「うあッ」

 何とかかすり傷で済んだが、まともに喰らったら身体を貫かれかねない。

 

 ――集中しろッ!! カードを切る前に終わるつもりかよッ!!

 自分自身を叱責し、改めて狙いを定める。


「『集いし業火は、煉獄の魔弾』」

 詠唱と共に右手に集う火属性の魔力はごうごうと燃えさかる巨大な火球へと成長して。

 大きく振りかぶって、魔法を発動した。


「『第三火炎魔法(グレン・フレイム)』!!」

 放たれた巨大な火球がイーヴィルへと向かう。

 イーヴィルは回避しようとせず、飛来する火球を真っ向から見つめ力強く拳を繰り出した。

 イーヴィルの拳と火球が激突して、爆発が巻き起こる。 


「嘘だろ!?」


 避けようとしなかったという事は〝避ける必要が無かった〟という事だ。

 炎の柱が立つが、イーヴィルの気配を確かに感じる……!


「なら、ダメ押しでどうだ!?」

 立ち上る炎の柱に向けて、俺は槍を思い切り投擲した。


「『弾けろ、黒鉄の楔』ッ——『ヘビィ・ブラスター』!!」

 槍が炎の柱に到達すると同時に、更なる大爆発を起こした。

 これは俺個人が扱う〝固有魔法〟という代物で槍を触媒にして、金属と炎の反応により爆発を発生させるそこそこ威力のある魔法だ。規模として第二階級と第三階級の基礎魔法の中間程。


 爆風が正面から吹きつけ、髪やローブが激しくはためく。

 それだけ、威力は出た筈だ……!


「やったか……?」

 爆煙に巻かれ、視界が不明瞭になり俺は様子を伺った。


 その、次の瞬間。


「グ、ガ、シャアア!!」

「なっ!?」

 煙を突き破って、イーヴィルが突進してきた。

「ぐぁッ」

 そして俺の首を捕らえ、ギリギリと締め付け吊し上げる。


 呼吸が詰まり、意識が朦朧としていく。

 だが、霞む視界に映るイーヴィルは無傷などでは無かった。

 

 ――あと少しッ……! もう少しだけ食い縛れッ……!!

 途絶えそうな意識を必至に繋ぎ止め、両手でイーヴィルの拘束に抗う。

 本来であれば、この規模のイーヴィル。

 俺なんかが一人で倒すには無理がある。


 だからこそ、無理も無茶も押し通して、俺の全てを懸けて最後まで戦う! 

 例え、ここで燃え尽きようとも構わない。それが〝石ころ〟なりの意地だッ!!


「本当の、切り札……ッ」

 何とか気道を確保し叫ぶ。

「『求めるは第三の叡智、制するは光』!」

 詠唱に呼応して、地面に刻みつけていた紋様が白い輝きを放つ!

「『瞬け閃光、闇を斬り裂く白銀の裁き』!!」


 これが、本命の隠し球。

 詠唱と魔法陣双方を利用して出力を最大限まで高めた大魔導。

 強力なエネルギーを持つ、光属性第三階級基礎魔法。

 

 恩師ルクシエラさんに叩き込まれた、全8属性中最も威力が高い光属性の魔法!!


「『第三閃光魔法(アルギュロス・レイ)』!!」


 輝く魔法陣に向けて、空から幾つもの光の筋が降り立った。

 か細い光が、俺やイーヴィルの身体を照らす。


 やがて、薄く差していた光の柱が強く輝き、

 無数の熱線が魔法陣の中に降り注いだ!!


「ギャアアアアァァァ!!」

「ぐ、うあああああ!!」

 閃光は俺諸共イーヴィルを焼き払っていく。

 幸いにも、俺を捉える為にイーヴィルが接近してくれたお陰で、魔法陣の中心に誘い込む形となった。


 後は根比べだ。


「『エン、チャント・(ブラック)』……!」

 光に反する闇属性の魔力を自身に付与し、なんとか熱線を耐え忍ぶ。

 更に閃光が更にその輝きを増すと、イーヴィルの身体が黒い霧となって少しずつ崩壊していく。

 やがて光の輝きが少しずつ収束してゆき、吊し上げられていた俺は支えを失ってそのまま地面にべしゃりと落下する。


「ぅ、ぁ」

 

 全身ボロボロで、呼吸をするのもやっとの状態ではあるが……。

 それでも、どうにか。


「勝っ……た……」


 俺じゃなかったら。もっと簡単に、もっと鮮やかに倒せたかも知れない。

 それでも、命を懸けてなんとか勝つことが出来た。


 ちっぽけな石ころの、魂を燃やし尽くした全身全霊の全力。


 最後は自らをも巻き込んでの攻撃と泥臭いことこの上ないが。


 確かにこの手で掴み取った勝利に、拳を突き上げ天を仰いで、僅かに笑った。


そのとき。


 夕陽が沈みかけ、紺とオレンジのグラデーションを描いていた空に、強い光の筋が駆けていく。

 流れ星だ。満身創痍の俺は、少しラッキーな気分になって空を眺めていた。


けれど。


「……!?」


 流れ星を観測したその直後、ゾクリと強い寒気を感じた。

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