5 パワーショベル、入ります
──────俺は、自分の部屋のベッドに横たわっていた。
目に映ったのは部屋の天井。ここには年上のメイドさんも幼なじみの女の子もカナダ出身のロリロリ少女も居なかった。
「何だよもぉお~・・・・・・」
激しい脱力感に見舞われる俺。
ちなみに一応断っておくが、俺の名前は稲橋聖吾。
この春から隣町の高校に通うことになった十五歳。
この部分だけはさっきの夢と同じなのだ。
あ~、それにしても、夢なら夢でいいから、もう少し続きを見たかったなぁ。
あのままいってたらもしかすると、更にムフフな事になっていたかもしれないのに。
そういえば、夢の最後に聞こえたあの爆発音は何だったんだろう?
あれさえなければもう少し夢の中に浸っていられたのに・・・・・・。
そんな事を思いながら、俺はおもむろに部屋の窓へ顔を向けた。すると、何と、
パワーショベルが俺の部屋の壁を、ブチ壊していた。
「どえええええっ⁉」
もう一度言おう。
パワーショベルが俺の部屋の壁を、ブチ壊していた!
ばごぉおん!
再びパワーショベルのアームの先っちょが、俺の部屋の壁に炸裂した!
今の一撃で壁は丸々なくなり、文字通り外からも中からも丸見えになった。
うわ~、随分見晴らしがよくなったなぁ~。
なんて感心してる場合か!
何だこの状況は⁉
何で朝起きたらいきなり部屋の壁が丸々壊されてるんだよ⁉
これは夢か⁉
さっきの夢が実は現実だったのか⁉
できればそうであってくれ!
そうでなくとも今からシナリオを変更してそのようにしてくれ!
ばごぉおん!
なんて願いが通じる訳なかった!
こっちが現実なんだ!
俺はベッドから飛び起き、パジャマのまま部屋から走り出た。
そして廊下を走り、階段を駆け下り、靴も履かずに玄関から出た。
するとそこに、俺の家を容赦なく破壊するパワーショベルがあった。
何だこの光景は⁉
もしや新手のコソ泥か⁉
それならもっとコソコソしろよ!
そんなツッコミはさておき、俺はパワーショベルの近くに駆け寄り、目一杯の声で叫んだ。
「うぉおい!ヤメろ!何やってんだ一体!」
するとパワーショベルは動きを止め、運転席から、工事用の作業服とヘルメットを身に着けた若い男が、ひょこっと顔を出してこう言った。
「あ、おはぁざぁーっす!」
そのあまりに能天気な物言いに、俺の怒りは爆発し、続けてこう叫んだ。
「おはぁざぁーっす!じゃねぇよ!」
「あ、これは失礼しました。おはようございます」
「言い方で怒ってるんじゃねぇよ!それよりお前は何やってんだよ⁉」
「え?僕ですか?昼間は工事現場で働いて、夜は居酒屋でバイトしてます」
「そういう事訊いてるんじゃねぇよ!よく働くなぁオイ!そうじゃなくて、今この場でお前は何をしてるのかって訊いてんだ!」
「あ、今ですか?ご覧の通り、このショベルでこの家を解体してます」
「そうそうそうだろ⁉何でお前は俺の家を解体しちゃってくれてんだよ⁉一体誰の許しを得てやってんだ⁉」
「誰って、ここの世帯主さんに決まっているじゃないですか」
「何ぃっ⁉ウチの親父がぁっ⁉嘘をつくな!」
「いやいや、本当ですよ。稲橋さんはこの家を売り払って、ハワイに移住するとか何とか」
「はぁっ⁉ハワイだぁ⁉そんな事一言も聞いてねぇぞ⁉」
「もしかして、捨てられたんじゃないですか?」
「馬鹿な事言うな!・・・・・・いや、あの気まぐれ親父なら、やりかねねぇかも・・・・・・そ、そうだ!おふくろ!おふくろは⁉」
「僕の母は、新潟の実家で米屋を営んでいます」
「誰がてめぇの母上の身の上を訊いたよ⁉そうじゃなくて俺のおふくろだよ!」
「さあ?それらしい人は見かけてないですけど」
「くそっ!」