3 金髪少女の寝起き
ちなみにエリムというのは、俺の親父の友人の娘で、国籍はカナダ。
今は日本の中学校に留学していて、ウチでホームステイしているのだ。
歳は十三で、俺にとっては妹みたいな存在。
ただ、いささかワガママな所があるが。
そのひとつが、朝は俺が起こしに行かないと、絶対に起きようとしないというもの。
琴葉が行っても由奈が行っても、エリムは決して起きようとしない。
唯一俺が行った時だけ、エリムは素直にベッドから出るのだ。
どうしてかは分かんねぇけど、朝くらい一人で起きろってんだよな。
人の事言えねぇけど。
そういう訳で、手早く制服に着替えた俺は、ふたつ隣の部屋(隣は由奈の部屋)で寝ているエリムの所へ向かった。
部屋に入るとエリムは、布団を頭からかぶり、全く起きる気配なくスヤスヤと眠っていた。
マッタク、しょうがない奴だ。
「おい、エリム起きろ。朝だぞ」
俺はエリムの華奢な肩を右手で揺すった。
するとエリムは布団から頭だけを出し、寝ぼけ眼で俺を見やった。
「ん・・・・・・むぅ・・・・・・お兄ちゃぁん・・・・・・」
「そうだよ、俺だよ。だからさっさと起きろ」
俺はそう言ったが、エリムはその小さな口で大きなあくびをし、また布団を頭の上までかぶった。
「うぉい!早く起きろって!」
声を荒げる俺。するとエリムは布団の中から、気だるそうに言った。
「今日のエリムは何だか気が乗らないの。だからベッドから出たくない」
「馬鹿な事言ってんじゃねぇよ。お前も今日から学校行くんだろ?留学生がそんな事でどうすんだよ」
「じゃあお兄ちゃん、エリムのお願い聞いてくれる?」
「何でそうなるんだよ?」
「聞いてくれたら、起きる気力が湧いてくると思うんだけどなぁ」
「ああもう分かったよ。お願いって何だよ?」
エリムのこの手のワガママに日ごろから付き合わされている俺は、半分面倒くさくなり、投げやりな口調で言った。
それに対する、エリムの言葉はこうだった。
「キスして欲しい」
・・・・・・。
思考停止約五秒。
そして五秒後、俺は何とか頭を回転させて言った。
「い、いきなり何を言い出すんだよお前は?」
今までこいつには色んなワガママを言われてきたが、こんな事は始めてだ。
しかし当のエリムはそんな事お構いなしという感じでこう言う。
「だって、お兄ちゃんにキスして欲しいんだもん」
「だもんって、いや、あのな、こういうのはお願いどうこうでしたりするモンじゃねぇだろ?」
「キスしてくれたら、起きる」
「いやいやいや、そうじゃなくてだな」
「もしかして、もう由奈か琴葉とキスしたから、エリムとはキスできないの?」
「な⁉馬鹿!してねぇよどっちとも!」
「じゃあ問題ないじゃん。ホラ、んっ」
そう言って目を閉じるエリム。
俺の目の前に、エリムのぷっくりとした小振りな唇が差し出された。
据え食わぬは男の恥。
ここは素直にエリムの唇を・・・・・・って、何考えてんだ俺は⁉
エリムはまだ十三歳だぞ⁉
いや、しかし、俺も十五歳。
歳はふたつしか変わらない。
でも、エリムは妹みたいなモンだ。
しかし実際に兄妹って訳じゃねぇし、何も問題はない、
のか?うぉおっ!
激しい葛藤の末、俺はエリムにキスをする事にした!
エリムの両肩にそっと手を置き、ゆっくりと顔を近づける俺。
あと数センチ近づけば、エリムの唇と触れあう事になる。
と、その時、やにわに背後から物凄い殺気を感じた。
振り返るとそこに、怒りに顔を歪めた由奈が居た。