2 これは自転車の二人乗りが禁止される前の物語
「変な事したら承知しないからね」
自転車で暫く走った頃、後ろの美鈴がそう言って話しかけてきた。
これは別に俺と積極的にコミュニケーションを取りたいとかではなく、嫌いな相手とはいえ、この沈黙状態に間が持たなくなったと解釈するのが妥当だろう。
なので俺は、至って素っ気なく答えた。
「この状態でどうやってそんな事するんだよ?」
「今だけじゃなくて、この後乗るバスの中でもよ」
「しねぇよ」
「どうだか。お風呂場での事もあるし」
「もう弁解する気力もねぇよ」
「紛れもない事実じゃないの」
「そういえば、その時ひとつ気になった事があるんだけどさ」
話のついでに、俺はさり気なく訊いてみる事にした。
昨日の美鈴の『涙』の訳。
すると美鈴は、そんな俺を露骨に警戒する口調で言った。
「何よ?寝顔がブサイクだったとでも言いたいの?」
「今度写真に撮って見せてやろうか?」
「馬鹿!」
バチコン!
「痛ぁっ⁉殴るなよ!冗談だよ!そうじゃなくて、お前あの時泣いてただろ?」
「え?あの時って、どの時よ?」
「だから、おとといバスに乗ってた時だよ。お前は居眠りしながら泣いてたんだよ」
「え?私、泣いてた?」
「おう、それで俺は、あまりにも涙が流れ出てアレだから、ちょっとハンカチで拭いてやろうと思って、別にやましい気持ちなんかこれっぽちもない清らかな心で、お前に近づいた訳だよ。
そしたらいきなりバスが大きく揺れてだな、俺はバランスを崩した結果、あんな事になったんだよ・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・あの、何か言ってくれよ。黙られる方がむしろ怖いんだけど」
「──────ないの・・・・・・」
「はい?何がないって?」
「何でも、ないの。あの涙は、別に・・・・・・」
「涙?ああ、そっち?そ、そうか。まあ、何でもないならいいよ。
うん、誰だって寝ながら涙を流す事も、あるだろうし」
「うん・・・・・・」
何か、微妙に話が食い違ってる気がするけど、俺の言い分をとがめるつもりもないみたいだし、それはそれで良しとしよう。
そうこうしているうちに、御撫町のバス停が段々と近づいてきた。
それから美鈴は、バスに乗って坂川町のバイト先に着くまで、一言も喋らなかった。
何なんでしょうね?一体。




