1 メイドさんでお目覚め
「──────さん」
・・・・・・。
「──────きて下さい」
・・・・・・ん・・・・・・。
「──────吾さん」
んん・・・・・・。
「聖吾さん、起きてください」
「ん・・・・・・」
柔らかく、聞き心地の良い声に促され、俺は目を覚ました。
もうろうとした頭でゆっくりと目を開けると、朗らかな笑みを浮かべたメイド姿の女性がそこに居た。
「聖吾さん、早く起きないと、学校に遅刻してしまいますよ?」
聖吾は俺の名前。
苗字は稲橋。稲橋聖吾。
この春から隣町の高校に通う事になった十五歳。
そんでもって、俺を優しい笑顔で起こしてくれたのが、この家で働くメイドの琴葉。
気立てが良くて美人で働き者という、三拍子揃った女性だ。
俺より若干年上(あえて具体的な年齢は記さないが)の彼女に、俺は密かに淡い恋心を抱いていた。
ああ、出来ればずっとこのまま、琴葉の笑顔を見ながらベッドに横たわっていたい・・・・・・。
そんな願いが、俺をベッドから起こす事を阻む。
「もぉ、いい加減に起きなきゃダメですよ?」
なかなか起きようとしない俺に、琴葉は怒った様に頬を膨らませる。
その怒った顔もまた素敵だ。
そんな事を思っていると琴葉は、おもむろにその白く細い両手を俺の頬にそっとあて、
少し口を尖らせてこう言った。
「早く起きて下さらないと、オシオキしちゃいますよ?」
「オシオキって、キスでもしてくれるの?」
冗談めかして言う俺。
まあそんな事はありえない訳で、どうせこの両手で頬をつねられたりするんだろうけど。
とか思っていると、琴葉はキュッと唇を結んで目を閉じ、ゆっくりとその美しい顔を、俺の顔へと近づけてきた。
「えええっ⁉」
驚きの声を上げたのは勿論俺。
しかしそんな俺に構わず、琴葉の顔はどんどん俺の方に近づいてくる!
このままでは、俺と琴葉の唇が、ムチュっと触れ合ってしまうじゃないか!
起きて早々何だこのおいしい展開は⁉
でもこういう展開は大歓迎だ!
これだったら毎朝寝坊してもいいくらいだぞ。
そんな悪だくみをしている間にも、琴葉の唇はどんどん迫る。
そして俺と琴葉の唇の距離が三センチ、二センチ、一センチ、と、迫った、その時だった。