『異世界転生/転移』担当の神様の憂鬱
本作は『乙女ゲーを知らない野心家の野望』の番外編(2)です。
本編及び番外編(1)である『乙女ゲーを知らない野心家の攻略』を読んでからの方が楽しめると思います。
ワシは地球の日本における死者を次の世に導く仕事をしている。
人は100年程度で死ぬ。
そして、皆が皆、幸せに人生を謳歌するとは限らない。
大人になれずに死ぬ者、人生に悲観し、自殺するもの、不慮の事故に遭うもの。
日本は他国と比べると、裕福ではあるが、そういった憐れな人間がゼロというわけではない。
ワシはそんな憐れな人間を次の世では幸せになってほしいと願い、その手助けをしている。
しかし、最近の日本はおかしい。
普通なら死んだことを受け入れずに、騒ぎ、泣きわめく者が多い。
それは例え、自殺した者でもある。
自殺する者は逃避であり、本当に死んだことを知ると、動揺し、後悔する。
それなのに、最近の日本の人間は達観しすぎていているのだ。
確かに日本は仏教が盛んな国である。
もし、死の恐怖を超越した僧侶ならわからなくもない。
しかし、日本に熱心な仏教徒は何人いるだろうか?
何故、こうなってしまったのか……
原因は分かっている。
それは流行である。
最近の日本では、『異世界転生/転移』が流行っている。
だから、皆が死を死とは思わないのだ。
その影響で死後の世界の仕事が増えてしまった。
そして、ワシは上司から命じられて、その『異世界転生/転移』担当になってしまったのである。
今日もまた、仕事をしなければならない。
憂鬱である。
~ケース① とあるニートの場合~
名前:山井 ヨウイチ
年齢:27
職業:自称漫画家
趣味:他者批判
特技:速読
死因:頭部を強打
備考:痛そー。 by天使ちゃん
今日の最初の仕事はこやつじゃ。
なかなかの逸材じゃ。
いきなり面倒くさそうじゃな―。
ハァ…………
最初の者を呼べ。
ワシは部下の天使に命じ、山井君の魂を連れてきてもらう。
魂といっても生前の姿である。
これは現世とのお別れも兼ねている。
「ここはどこだ?」
「おぬしは死んだのじゃよ」
ワシは山井君に優しく話しかける。
ここで注意するのは、死んだことはさっさと伝えることである。
考えさせてはダメ。
勢いで終わらせることが、この仕事をスムーズに行う秘訣である。
「死んだ? 俺が? なぜだ……」
「おぬしはパソコンを見ていて、大笑いした勢いで椅子が倒れ、後ろにあった鉄アレイに頭をぶつけたのじゃ」
「ああ……レスバで勝った時か…………そして、筋トレ用のあれで死んだのか…………」
これじゃ。
なぜ、すぐに受け入れる!?
もう少し、取り乱せよ!!
おぬしは仙人か!?
「そうじゃ。気の毒じゃがな。おぬしはこれから死後の世界へと旅立つ。おぬしは親より先に死んだから地獄行きじゃな」
少しは反省しろ!
「俺が地獄だと!?」
ぷぷ。
動揺し始めた。
少しは反省したか?
クソニートよ。
「本来ならば、地獄行きじゃ。しかし、おぬしが描いた漫画で救われた者がおる。その功績により地獄行きは許してやろう」
「俺が描いた漫画で? そうか、俺の評価されない漫画を読んで、感動してくれた人もいたのか」
いや、ヘタクソすぎて、笑われただけじゃ。
こんな奴でも生きているのだから、死ぬのをやめようと思われただけじゃ。
しかし、それでも立派な功績である。
まあ、言わないほうが良さそうじゃな。
こやつ、レスバに強いらしいし。
「どうする? このまま、転生し、新たな生を受けるか?」
「他の方法があるのか?」
ハァ…………こやつもいつものアレか。
「…………他にも別世界に転生/転移がないこともない(ボソッ)」
「それでお願いします!!」
ほら見ろ!
絶対に食いつくと思ったわ!!
「そうか。辛い道じゃぞ。何せ、おぬしが行ける世界は危険が多い世界じゃ」
「ファンタジーですか!?」
「まあ、そう呼べないこともないのー」
「魔法はありますか!?」
すごい食いつきじゃ。
ダボハゼ山井君じゃな。
「まあ、ある」
「そこに行きます!」
「よかろう。転生と転移があるが、どちらがよい?」
ワシがそう言うと、ダボハゼ山井君は悩み始めた。
どうせ、転生して貴族社会を生き、ハーレムするか、転移してハーレム冒険者になるか、悩んでおるのじゃろう?
「転生でお願いします。ちなみに、転生する生き物に要望は出せますか?」
ん?
身分に要望ではなく、生き物に要望?
こやつ、まさか…………
「考慮はしてやろう。何になりたいのじゃ?」
「スライムで!!」
で、でたー!!
コピーチートを企む異世界転生上級者じゃ!!
さすがは漫画家じゃな。
「スライムは弱いし、大変じゃぞ」
「確かにそうですね。でも、俺、スライムが好きなんですよ」
良い笑顔をしとるが、好きなのはスライムじゃなくてチートじゃろ。
「そこまで言うなら止めはせんよ。では、おぬしはスライムに転生させてやろう」
「ありがとうございます。ところで、あのー、そのー……」
ハァ…………わかっておるよ。
「そうじゃなー。せっかく次の生を受けるのにスライムでは、すぐに死んでしまうかもしれんな。よし、特別にワシが力を授けてやろう」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
知っておったくせに。
「それで? 何か希望はあるか?」
「はい。まずは死にたくないので、ある程度、強くしてください。それと敵の能力をコピーさせる能力も欲しいです。あと現地の人間の言葉も理解したいです。それから、自分は臆病なので、相手の実力も知りたいので鑑定が欲しいです。あ、スライムって、手足がないですよね? アイテムボックスもください。あとは自分で何とかしますので、それくらいで十分です」
何がそれくらいで十分じゃ!
早口で言い切りおって。
最近はこんなんばっかじゃ。
「わかった、わかった。では、その力を授ける。次の世では他者を貶めずに平和に暮らすのじゃよ」
絶対に無理だと思うがの。
「わかりました。平和ですね。神様、ありがとうございました」
「うむ。その感謝の心を忘れるなよ。達者での」
ワシはもう面倒くさくなって、ダボハゼ山井君を追い払うように転生させた。
これでワシの信心ポイントも少しは貯まったかのう?
ワシらがこんなにサービスをするのは、信心ポイントのためである。
この信心ポイントが貯まれば、ワシも上級神に出世できるのじゃ。
しかし、疲れる…………
次は誰じゃ?
~ケース② とある社畜の場合~
名前:石川 ソウゴ
年齢:38
職業:保険の営業
趣味:エロゲ
特技:剣術
死因:過労死
備考:ざまあみろ、エロゲ野郎!! by天使ちゃん
次はこやつか…………
ブラック企業に入社した者の末路か。
また、キツそうな奴じゃな。
ハァ…………
次の者を呼べ。
ワシは部下の天使に命じ、石川君の魂を連れてきてもらう。
「あれ? 俺は電車で寝てたはずなのに」
「おぬしは死んだのじゃよ」
ワシは石川君に優しく話しかける。
ここで注意するのは、死んだことはさっさと伝えることである。
考えさせてはダメ。
勢いで終わらせることがこの仕事をスムーズに行う秘訣である。
特にこの手の奴はヤバい。
「死んだ? ハハ、まさか、俺は……」
「おぬしは働きすぎじゃ。ロクに寝ず、ロクなものも食べていない。しかも、病院にも行かない。それでは死ぬに決まっておろう」
「……そうだな。ハハ、死んだのか…………」
これじゃ。
過労死の奴は異常に自虐的なのじゃ。
こういう手合いは時間をかけると暴れだすから危険!
早めに希望を与え、処理するのが適当!!
(ざわ…ざわ…)
「そうじゃ。気の毒じゃがな。おぬしはこれから死後の世界へと旅立つ。しかし、どうじゃ? 別の世界に転移し、やり直してみんか?」
「やり直す…………」
「そうじゃ。おぬしは頑張った。それをワシはちゃんと見ておった(嘘)。次の世界でゆっくり、過ごさぬか?」
こういう奴は定番のスローライフでいいじゃろ。
ワシも慣れたものよ。
「そうか、そうしようかな。もうノルマに追われる生活は嫌だ」
正気に戻り始めたか。
ここからが勝負じゃな。
「そうじゃ。おぬしをワシが管理する異世界に転移させてやる」
「異世界? 大丈夫なのか、それ?」
ん?
こやつは最近の流行りを知らんのか。
まあ、働きすぎなうえ、たまの休みにエロゲじゃ、知らんか。
よし、ここで畳みかけよう。
「大丈夫じゃ、魔物がおる世界じゃが、ワシが特別に力を授ける。おぬしは剣道をやっておったじゃろ? その力があれば、危険などない」
「剣道も学生の時だからなー。少し、不安だ。最近、太ったし」
「なら、おぬしを学生の時の体に若返らせてやろう」
「そんなことができるのか!?」
お、食いついてきた。
おっさんは若返りが好きじゃのー。
あとは女か?
「もちろんじゃ。ワシは神じゃぞ? それと、おぬしが転移する場所はエルフの森の近くじゃ。人はあまり来ないし、エルフの長老には、おぬしを良くするように伝えておく。森の近く故、不便なこともあるじゃろうが、今までのことは忘れ、ゆっくり生きろ」
「エ、エルフ!?」
ほれ見ろ!
さすが、エロゲ好き。
絶対に食いつくと思ったわ!!
「そうじゃ。そういえば、おぬしの世界にはおらんかったな。とはいえ、知ってはいるだろう? おぬしが想像するエルフで合っておる。皆、優しいし、おぬしには特別の力を授けるから、それを使い、協力して暮らせ。…………モテるかもな(ボソッ)」
「行きます!!」
ドスケベめ!!
ドスケベソウゴに改名しろ!
天使がこやつを嫌う理由がわかるわ。
「そうか、では、そうしてやろう。力を与えるが、何か要望はあるか?」
「要望ですか? いきなり言われても悩みますね」
悩むな!
おぬしが悩むと、どうせエロい能力になる。
面倒じゃし、さっさと追い払おう。
「まあ、おぬしは元々、強いし、身体能力向上と魔法の適性を上げてやろう。あ、もちろん、言葉はわかるようにするから安心しなさい」
「うーん、じゃあ、それでお願いします」
よしよし。
「では、ドス……石川ソウゴよ。おぬしを転移させよう」
「神様、ありがとうございました」
「うむ、その感謝の心を忘れずに生きるのじゃぞ」
「はい!!」
ワシはドスケベソウゴ君を追い払うように転移させた。
お、信心ポイントがかなり貯まったぞ。
ドスケベのくせに、信心深い男だったのじゃな。
聞き分けも良かったし、ラッキーな相手じゃったわ。
しかし、疲れる…………
次は誰じゃ?
~ケース③ とある病弱な少女の場合~
名前:大野 チヒロ
年齢:15
職業:学生(不登校)
趣味:読書
特技:裁縫
死因:病死
備考:かわいそうですー。 by天使ちゃん
次はこやつか…………
これは憐れな少女じゃな。
生まれてからずっと病院のベッドの上。
趣味は読書とあるが、外に出ることを願っていたようだ。
本の中で冒険か…………
重いのぅ…………
次の者を呼べ。
ワシは部下の天使に命じ、チヒロちゃんの魂を連れてきてもらう。
「……ここは?」
「おぬしは残念ながら死んだのじゃよ」
ワシはチヒロちゃんに優しく話しかける。
ここで注意するのは、死んだことはさっさと伝えることである。
先ほどの俗物2名とは違い、本人もわかっていることだろうし。
「そうですか……うっうっ」
いかん!
泣き出した!
かわいそうじゃのー。
「おぬしは頑張ったが、残念ながら死んでしまったのじゃ。だが、そう悲観することはない。おぬしの両親も悲しんではいたが、それ以上におぬしが生まれてきてくれたことに感謝しておった」
「……本当ですか?」
……多分な。
「そうじゃ。おぬしの両親から、おぬしが死後の世界で自由に楽しい世界に旅立ってほしいとの強い願いを受け、ワシはこうしておぬしの前に現れたのじゃ」
「うっうっ…………パパ、ママ、ありがとう」
……嘘じゃ。
……何か、胸が痛いのー。
「ワシはおぬしの両親の愛に感動し、おぬしの望む世界に旅立たせることにした。何か要望はあるか?」
早く、終わらそう。
罪悪感で気分が悪くなってきた。
「健康な身体が欲しいです」
「それは普通にする。他にはないか? この世界に転生したいとか、チートが欲しいとか」
なるべく叶えてやろう。
ワシの心の平穏のために。
「うーん、じゃあ、錬金術が使いたいです」
ああ、あれじゃな?
錬金術という名の”何でも製造魔法”じゃな。
「よし、それを叶えてやろう。ついでに貴族転生にしておこうかの」
「良いんですか? 良くして貰い過ぎな気が……」
いいんじゃよ。
ワシの心の平穏のためじゃから。
「さあ、大野チヒロよ。旅立つのじゃ! 新たな人生で必ずや幸せをつかむのじゃ!!」
「はい、神様、ありがとうございました」
「うむ、その感謝の心を忘れずに生きるのじゃぞ?」
「はい」
ワシはチヒロちゃんを追い払うように転生させた。
ん?
信心ポイントがあまり貯まってない。
あー、感謝の念が両親の方にも行ったからじゃな。
まあ、早めに終わったし、仕方がないのー。
しかし、疲れる…………
ハァ…………次は誰じゃ?
~ケース④ とある野心家の場合~
名前:高井 ウメコ
年齢:18
職業:学生
趣味:人を見下す
特技:ウメコアイ
死因:心臓麻痺。
備考:こっちのミスです~。
本当は別人が死ぬ予定でした(ごめんなさーい)。
とっても素敵なお方でーす。
なので、最高の対応をお願いします!! by天使ちゃん
次はこやつか…………
…………なんかヤバそうなヤツが来た。
しかも、こちらのミスで死んだようだ。
特技のウメコアイって、何じゃ?
あと、天使よ、どうした?
何故じゃろう?
冷汗が止まらない。
これ、面会せずに適当に終わらせてもいいかな?
ダメ?
こっちのミスだから最高の待遇にするの?
天使よ、なんか変じゃないか? 大丈夫か?
…………のう、プロフィールを見てないのか?
こやつ、独裁者じゃん……
あ、はい。ごめんなさい。
ハァ……呼べ。
ワシは部下の天使に命じ、ヤバそうなウメコさんの魂を連れてきてもらう。
「……どこだ、ここは?」
ワシはこれまで多くの魂と出会ってきた。
これまでの経験からいえば、普通の人間はまず、周囲を見渡し、焦るものである。
しかし、こやつはワシの顔から一切、目を逸らさず、見つめてくる。
……怖い。
「おぬしは残念ながら死んだのじゃよ」
ワシはウメコさんに優しく話しかける。
ここで注意するのは…………なんだろう?
あれ?
思考が定まらない。
「私が死んだ? フン! ありえん! 私は健康だし、誰かに殺されないように、常に注意していた。これはドッキリか何かか? それとも、私の過激な信者の仕業か?」
きみ、時代を間違えてない?
あと怖い。
その目が怖い。
「すまぬ。本来ならおぬしは死ぬ予定になかった。本当は高木ウメコ(86)が心臓麻痺で死ぬ予定だったのに、こちらが間違えたのじゃ」
「……ほう?」
……ドキドキ。
「つまり、貴様は世界を支配し、世界を変える予定だった、この私を殺したというわけか!」
「いや、ワシじゃなくて……」
「貴様だろうが!! おい、ハゲ!! この私を誰だと思っている!? 世界一の天才にて、世界の指導者(予定)だぞ!! 貴様、ハゲ爺の分際で何てことをしやがる!! どうせ、貴様はこれから神を名乗るつもりだろう? 何が神だ!! 髪がないハゲのくせに!! 貴様は梅子法に従い、死刑だ! 死ね!! 自害しろ!! 私に命じられるのだから喜んで死ね!!」
こ、怖いぃ。
ハゲ、言い過ぎー。
これはキャラづくりじゃー。
あと、梅子法って、何じゃ?
「あん!? 何か文句でもあるのか? 梅子法では、私に逆らうものは死刑だ! 貴様は2回死ね!!」
梅子法はとんだ悪法のようじゃな。
怖いからさっさと終わらそう。
……終わらせてくれるかな?
「本当に申し訳ないと思っております」
あれ?
「酷い……私には夢がいっぱいあったのに! これから素敵な男性と出会い、幸せの生活を送る予定だったのに。パパ、ママ、私は殺されてしまいました。あんなに愛してくれたのにごめんなさい。うっうっうっ」
急に梅子様が泣き出した
泣きマネ、ヘタクソじゃなー。
「本当に申し訳ございません。梅子様を生き返らせましょう!!」
あれ?
ワシ、変じゃない?
「……本当ですか?」
梅子様が泣き止んでくれたようだ。
良かった、良かったぁ?
「もちろんじゃ。こちらのミスじゃからな」
よしよし、計画通りじゃ。
あとは適当に転生させよう。
「……言ったな。では、さっさと生き返らせろ。私はこれから大学を支配せねばならんのだ。急げ!!」
急に変わった。
予想通りじゃ。
「すまぬ。元の世界は無理じゃ」
「は!?」
怖い。
急に怖くなった。
じゃが、これも予想通りだ。
ここからは、えーと、あれ?
どうするんだっけ?
「申し訳ありません。しかし、これは規則でして……」
「規則だあ!? おい、ハゲ!! この私を誰だと思っている!? 世界一の天才にて、世界の指導者(予定)だぞ!! 貴様らの規則よりも私の梅子法の方が上に決まっているだろうが!! ハゲ爺の分際で偉そうなことを言うな!! 何が規則だ!! 髪がないハゲのくせに!! 貴様は梅子法に従い、死刑だ! 死ね!! 自害しろ!! 私に命じられるのだから喜んで死ね!!」
怖いぃ。
ってか、それ、さっきも聞きました!
これはキャラづくりじゃー。
「パパ、ママ、私の信者たち、私はこのハゲに殺され、もう貴方達とは会えません。皆、殉死するように。うっうっうっ」
急に梅子様が泣き出した。
本当に泣きマネ、ヘタクソじゃなー。
あと、殉死はマズいじゃろ!
「本当に申し訳ないと思っております。ワシは色んな世界に転生させる力があります。梅子様の好きな世界に転生させて見せましょう!!」
あれ?
ワシ、ヤバくない?
何故か思考が変わる。
「好きな世界? いや、好きな世界って言われても、私、自分がいた世界以外は知らないけど」
「最近は漫画や小説で異世界転生が流行ってましてな。色んな世界で好きに生きるのが最近の主流なのです」
「ふーん」
梅子様は興味がなさそうだ。
梅子様のためにもう少し、頑張って説明しよう!!
………………!?
いかん!!
さっきから何故か思考がズレていく。
わかった!!
こやつの目じゃ。
こやつの怖い目に見つめられると、何故か服従したくなるのじゃ。
そうか!
これがウメコアイか!
アイって、愛じゃなくて、目(eye)の方か!
だから天使の様子がおかしかったんだ!
こやつ、本当に人間か?
ギ〇ス使いじゃね?
ワシはこの梅子様に危機感を覚えた。
早めに追い払わないと、神の座を奪われそうだ。
しかし、こんな危ないヤツをワシのお気に入りの世界に送りたくはない。
あっという間に支配されそうだ。
よし! 人畜無害な世界に送り、こやつには平和に生きてもらおう。
こんな野心家でも、愛を知れば、まともにはなるじゃろ。
ワシは梅子様の洗脳から目を覚ますと、なるべく梅子様の目を見ないようにし、乙女ゲ―の世界に転生してもらうことにした。
「乙女ゲーって何だ?」
「え? さあ? 恋のゲームかな?」
「バカか!? 貴様が勝手に殺しておいて、自分もよく知らない世界に転生させるのか!? 殺すぞ!!」
ひえー!
「でしたら、これをお読みください。乙女ゲーの攻略本になります」
ワシは梅子様に攻略本を渡すと、梅子様はそれをサラサラと読んだ。
「ふむ、なるほどな」
「え? もう読み終わりました?」
「大体が理解できれば良い。おい、爺! 高貴なる私は当然、女王に生まれるんだろう?」
「いえ、女王は所謂モブキャラなので無理です。梅子様は主人公に生まれ変わります」
「貴様、私に平民になれと? おい、爺! 高貴なる私はこの金髪のナイスバディーがいい! これにしろ!」
「あのー、その女性は悪役令嬢なんですが……」
「悪役令嬢って何よ? 知るか、ボケ! 私は乙女ゲームの世界に行くだけで、攻略するつもりはない。私はこの国を乗っ取り、王に君臨するのだ。わかった? わかったなら早く転生させろ。あ、この攻略本はもらっていくわよ」
「あのー、それはワシの私物でしてー」
「ああん!? なんか文句あるのか!? ないならさっさとしろ!」
「はいぃー!!」
怖い、マジで怖い。
もういい、さっさと転生してもらおう。
このまま居座られると天界が支配されそうだ。
何しろ、近くにいる天使が完全に虜になっているようで、さっきから梅子様の方を向いて跪いている。
そして、頬を赤く染め、目が虚ろだ。
「では、高井ウメコ……様よ。おぬしを乙女ゲーの世界に転生させ……ます」
「ふん、早くしろ! よーし、目指せ! 女王様!!」
「…………魔王じゃろ(ボソッ)」
「はぁ!? 誰が魔王だ!! お前の代わりに神様になってやろうか!?」
「それだけはご勘弁をー!!」
ワシは梅子様を追い払うように転生させることにした。
信心ポイントはまったく貯まってない。
うん、知ってた。
ん?
いや、むしろ減っている!
奪われた!?
まあ、梅子様の糧になっていただいたのだから、仕方がないのー。
しかし、疲れる…………
ハァ…………もう今日は終わりか?
え? あと一人いるの?
ハァ…………次は誰じゃ?
~ケース⑤ とある××少女の場合~
名前:高杉 アンズ
年齢:18
職業:浪人生
趣味:梅子さん
特技:梅子さん
死因:心臓麻痺
備考:我が主である梅子様を失ったことでショック死した子でーす。
怖いでーす。 by天使ちゃん
次はこやつか…………
…………また、ヤバそうなヤツが来たな。
あと、天使よ、帰ってこい。
何故じゃろう?
ものすごい嫌な予感がする。
これ、面会せずに適当に終わらせてもいいかな?
ダメ?
怖いから最高の待遇にするの?
もうヤダ……
ハァ……呼べ。
ワシは部下の天使に命じ、ヤバそうなアンズちゃんの魂を連れてきてもらう。
やってきたアンズちゃんを見て、ワシは汗が噴き出てくるのがわかった。
アンズちゃんは髪がボサボサであり、血が出るくらいに爪を噛んでいる。
そして、目にハイライトがなく、笑いながら泣いていた。
「梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん」
こえー!!
梅子様よりこえー!!
「お、おぬしは残念ながら死んだのじゃよ」
ワシはアンズちゃんに優しく話しかける。
ここで注意するのは…………なんだろう?
いや、こんな奴を担当したことはないし、マニュアルもない!
「梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん、梅子さん………………梅子さんは? 私の梅子さんは? どこにいるの?」
来るなー!!
近づいて来るなー!!
天使! 逃げるなー!!
ここで、ワシらの間違いで死んだことを伝えたら、間違いなく殺される。
ここは嘘をつこう。
「梅子さんは不幸な事故で亡くなってしまったのじゃ」
「……そんな!」
アンズちゃんは崩れ落ちてしまった。
このまま、ショックで死なないかな?
……もう死んでるか。
「安心しなさい。梅子さんの死はワシらにも想定外じゃった。なので、違う世界に意識を持ったまま転生させたのじゃ。きっと、梅子さんは違う世界でも立派に生きるじゃろう」
立派過ぎるがの。
「……良かった。梅子さん……。うっうっ」
ようやく落ち着いたようで、可愛らしい女の子に戻ってくれた。
まだ、ちょっと怖いけど。
「梅子さんはどんな世界に転生したんですか? 信〇の野望?」
そりゃダメじゃ。
あんなのを送り込んだら、1年で統一じゃ。
「梅子さんは乙女ゲーの世界に転生してもらった」
「…………なぜ?」
まあ、気持ちはわかる。
「梅子さんはあまりこういうのに詳しくなくてのう。ワシが勧めた世界に行ってもうた」
本当は追い払ったんだけど。
「うーん、まあいいか。信〇の野望なんかの世界に私が転生しても速攻で殺されるし、割かし平和な世界に転生できると思えば、ラッキーだね」
こやつ、梅子様を追う気だ。
別々にした方が良い気がする。
「いや、おぬしは普通に死んだから、普通に輪廻転生してもらう。まあ、安心しなさい。次はもっと良い所の家に転せ…………ひぇ!」
いきなり、アンズちゃんの表情が豹変した!!
しかも、何かどす黒いオーラが見えるんですけどー!!
こやつ、本当に人間か?
暗黒使いじゃね?
「は? なにをいってるの? 殺すぞ!!」
こえー!!
急に変わるから、よりこえー!!
「いや、そんなことを言われても規則だし、梅子さんの場合は特殊でして……」
「おじいちゃん、ちょっとこっち来てー」
アンズちゃんが笑顔で手招きしている。
嫌じゃ!
行ったら、死ぬ!!
呪われそう!!
「おぬしを梅子さんと同じ乙女ゲーに転生させよう!!」
「おじいちゃん、ありがとう!!」
もう嫌だ……
シクシク……
「……よし、これで梅子さんを追える。しかし、どうやって、梅子さんを手に入れようか……」
アンズちゃんはブツブツと小声で独り言をつぶやいている。
あの……怖いです。
「よし! おじいちゃん、ちょっとこっち来てー」
アンズちゃんが笑顔で手招きしている。
嫌じゃ!
行ったら、死ぬ!!
呪われそう!!
でも、行かないともっと怖い。
「な、何かね?」
「私、乙女ゲーの主人公でもいいですか?」
「ん? かまわんぞ。梅子さんは主人公は嫌だそうだから」
「おじいちゃん、梅子さんは誰に転生したんですか~?」
「それは言えない。いや、睨んでもダメなものはダメなんじゃ!! 自分で探しなさい」
「ん? なにをいってるの? へー、この世に神様って必要かな~? ……死にたいの?」
怖い。
梅子さんより怖い。
一生越えることはないだろうと思った梅子さんの恐怖をあっという間に超えおった。
「すまぬが、こればかりは無理なのじゃ。おぬしの愛で探しなさい」
「ふーん。ところで、おじいちゃん、何で泣いてるの?」
怖いからです。
「おぬしのひたむきの愛に感動しただけじゃ」
「ふふ、当たり前でしょ。それで? チートは? 梅子さんを手に入れるためのチートは何!?」
わかった。
こやつが梅子さんより怖い理由がわかった。
こやつはサブカルチャーに詳しいのだ。
だから、先を読んで要望する。
その点、梅子さんは、能力は恐ろしいが、知識がないため、誘導しやすかった。
しかし、こやつは違う。
「……チートはない」
「ねえ、おじいちゃん? あなたは私に何度、同じことを言わせるの? 学習してください。それとも、自殺願望でもあるの? 呪い殺すわよ!!」
ほらね。
「ファンタジーな世界ならチートを授けることもあるが、乙女ゲーはない。そもそも、現代知識がチートだからな。しかし、おぬしの気持ちはわかった。これを貸してやろう」
ワシはもうすべてをあきらめ、梅子さんに取られた攻略本とは別の攻略本を渡した。
そうじゃ!!
ワシはすごいことを思い付いたぞ!
こやつに梅子さんを倒してもらおう。
梅子さんは恐ろしい相手だが、このもっとヤバそうなアンズちゃんなら倒せる!!
梅子さんは乙女ゲーの世界を支配したら、次はこの天界を狙う可能性がある。
それはマズい!!
「ふむふむ」
アンズちゃんは攻略本を一心不乱に読んでいる。
3時間経過………………
遅くね?
読むの遅くね?
「アンズちゃん、まだかな?」
「あと半分ですので、ちょっと待ってください」
あのー、その本、100ページもないんですけどー。
もしかして、アンズちゃんってバカ?
大丈夫か?
このバカにあの天才を倒せるのか?
いや、待つのじゃ!!
天才とバカは紙一重!
古来より天才を倒すのは、とんでもないバカと決まっているんじゃ!!
頑張れ、アンズちゃん!!
3時間経過………………
「ふふ、百合ルート。これだ、これで梅子さんは私のものだ!! ふふ、鼻血、出そう」
ようやく読み終わったらしい。
長かった……
「よし!! さあ、お爺さん!! 早く、私を梅子さんの元に連れて行って!!」
ワシを6時間も待たせておいて、この言いようじゃ。
もう好きにせえ。
ハァ……さっさと転生してもらおう。
このまま居座られると、アンズちゃんの暗黒で天界が魔界になりそうだ。
「では、高杉アンズよ。おぬしを乙女ゲーの世界に転生させよう」
「アンゼリカ、私はアンゼリカ!!」
めんどくせーな、もう!
「…………では、アンゼリカよ。おぬしを乙女ゲーの世界に転生させよう」
「はい!! ああ、梅子さん……今度は必ずあなたを幸せにしてみせます!!」
梅子さんは絶対に幸せになれないと思うが、ワシらのために頑張れ。
「では、行ってくるがいい」
ワシはアンズちゃんを追い払うように転生させることにした。
もちろん、信心ポイントはまったく貯まってない。
うん、知ってた。
ん?
いや、むしろ減っている!
ってか、ゼロになってる!!
あいつら、マジで何なん?
ハァ…………この仕事、辞めようかな?
憂鬱だ…………