冬の神様と、まりねずみのトト
猫じゃらし 様からFAをいただきました。
あるところに、大きな森がありました。
森には、さまざまな動物たちの家族が住んでいます。
まりねずみのトトのおうちも、森の中の古くて大きな木の洞の中にありました。
トトの家族は、お父さんとお母さん、そして2匹の兄弟です。
5匹のまりねずみは、森の木の実やくだものを食べ、葉っぱにたまったしずくを飲み、そして、夜には、からだをよせあって眠ります。
さいきん、トトは、なんだか、とても眠くてたまりません。
「お母さん、まだ、おひるまなのに、僕のまぶたがくっつきそうになるんだ。」
トトは、お母さんにいいました。
「冬の神様の魔法にかかると、みんな、眠くなるのよ。トトだけじゃなくて、お父さんもお母さんも、モモもロロも、みんな。」
お母さんは、トトの頭をなでてくれました。
ある日、トトは、森の中で、とがりねずみのネネにあいました。
ネネは、とてもくいしんぼうで、いつも、なにかを食べています。
「ネネは、眠くならないの?」
トトは、あくびをこらえながら、ききました。
「眠ってしまったら、冬の神様に遠い世界へ連れていかれてしまうんだ。」
トトは、びっくりしてしまいました。
「僕は、冬の神様の魔法にかかってしまっているんだ。このままだと、遠い世界へ連れていかれてしまう。」
悲しくなったトトは、わんわんと泣いてしまいました。
ネネは、トトがかわいそうになり、ひみつをおしえてあげることにしました。
「冬の神様の魔法をとく、おくすりがあるんだ。それを飲んだら、だいじょうぶ。」
ネネは、おくすりをひとつ、トトに分けてくれました。
トトは、ネネからもらったおくすりを、葉っぱにたまったしずくといっしょに飲みました。
それから、トトは、だいすきな、さるなしの実を見つけたので、両手で、もぎとりました。
「ネネ、おくすりのおれいに、さるなしの実をあげる。」
しかし、ネネは、
「おくすりがきくといいね。さるなしの実は、おうちにもって帰るといいよ。」
といって、森のおくへいってしまいました。
トトは、さるなしの実のなっているところをおぼえてから、両手でかかえて、おうちに帰りました。
次の日の朝、トトが目をさますと、たいへんなことがおきていました。
お父さんもお母さんも、モモもロロも、からだがつめたくなっていたのです。
「たいへんだ。みんな、冬の神様の魔法にかかっていたのに、僕だけ、おくすりを飲んでしまったから、眠くならなかったんだ。」
その時、冬の神様が、トトのおうちのドアをたたきました。
「まりねずみのおうちはここかな? むかえにきたぞ。」
トトは、あわててドアをおさえて、あかないように、がんばりました。
しかし、冬の神様が、ぴゅうとひとふきすると、ドアはかんたんに、あいてしまいました。
「よく眠っておるな。ひい、ふう、みい、よ。あれ? いっぴき、たりないぞ。」
ドアのよこで、ひっくりかえったトトは、おきあがって、冬の神様にいいました。
「みんなを連れていかないで。僕、ひとりぼっちになってしまう。」
冬の神様は、トトだけが眠っていないことに、きがついて、いいました。
「おまえは、なぜ、眠っていないのだ。わたしの魔法がきかないなんて。」
トトは、冬の神様に、どうすれば、みんなをもとにもどしてもらえるのか、ききました。
「おまえのほんとうにだいじなものをくれたら、もとにもどしてやろう。」
トトは、いっしょうけんめい、かんがえました。
「僕のだいじなものって、なんだろう?」
トトは、森の中からもち帰った、さるなしの実を、冬の神様にさしだしました。
「これは、僕のだいすきな、さるなしの実です。これを、さしあげますから、みんなをもとにもどしてください。」
しかし、冬の神様は、くびをふって、いいました。
「さるなしの実ひとつでは、ねがいをかなえてやるわけにはいかないな。」
トトは、冬の神様に、ききました。
「僕のだいじなものって、なんですか? なにを、さしあげれば、みんなをもとにもどしてもらえますか?」
冬の神様は、いいました。
「それは、おまえがじぶんでかんがえなければならない。月がはんぶんになる夜まで、待ってやろう。」
冬の神様は、ぴゅうと、消えてしまいました。
みんなは眠ったままです。
トトは、またまた、いっしょうけんめい、かんがえました。
「ジジおじちゃんならば、知っているかもしれない。」
トトは、森の中でいちばんかしこいといわれている、ふくろうのジジのところへいくことにしました。
ふくろうのジジは、森のおくのおくに住んでいます。
トトは、おみやげに、さるなしの実をもって、ジジの住む白い木へむかいました。
「ジジおじちゃん。トトです。おいしいさるなしの実をもってきました。ドアをあけてください。」
トトは、白い木の洞の中につながるドアを、とんとんと、たたきました。
「ほう、トトか。よくきた。おはいり。」
ジジは、ドアをあけて、トトを中に入れてくれました。
トトは、冬の神様の魔法にかかって家族がみんな眠ってしまったこと、トトだけはおくすりを飲んでいたので眠らなかったこと、冬の神様が家族を遠い世界に連れていこうとしていることを、はなしました。
「僕のほんとうにだいじなものをあげたら、みんなをもとにもどしてもらえるんだけど、それがなになのか、分からないんです。」
トトは、ジジに、だいじなものをおしえてくれるように、たのみました。
「トトのだいじなものは、トトにしか分からない。冬の神様も、じぶんでかんがえるようにと、いったのだろう。」
ジジは、トトの頭をなでて、いいました。
「トトが、取られてしまったり、なくしてしまったりしたら、いやなものはなんだい? いちばん、消えてほしくないものを思い出してごらん。」
トトは、ジジのことばに、はっとしました。
「僕のほんとうにだいじなものは、お父さんとお母さんと、モモとロロだ。みんなが消えてしまったら、こまるもの。」
トトは、泣きました。
「どうしても、冬の神様は、僕の家族を、遠い世界に連れていってしまうんだ。みんなといっしょにいることができる時間は、もう、ちょっとしかない。」
「だいじな時間だ。早く帰って、みんなといっしょにすごしなさい。」
トトは、ジジにおわかれをいって、おうちに帰りました。
月がはんぶんになる夜になりました。
まりねずみの家族のおうちに、ふたたび、冬の神様がやってきました。
冬の神様が、ぴゅうとひとふきすると、ドアがあきました。
「おまえのほんとうにだいじなものは、みつかったか?」
冬の神様は、じろりとトトをみて、いいました。
「僕のほんとうにだいじなものは、お父さんとお母さんと、モモとロロです。」
トトは、つづけていいました。
「家族のみんなといっしょにすごす時間が、ほんとうにだいじなものなんです。」
冬の神様は、トトのことばをきいて、いいました。
「では、その、家族とすごす時間をもらおう。」
そして、トトにむかって、ぴゅうとひとふきしました。
トトは眠ってしまいました。
春がきて、森の中の雪がとけ、すこしずつあたたかくなってきたある日、トトは目をさましました。
お父さんとお母さんと、モモとロロも、目をさましました。
「冬のあいだ、ずっと眠っていたみたいだ。」
お父さんとそり遊びをすることもできなかったし、お母さんのつくってくれたあたたかいセーターも、もうあつくて着ることができません。モモとロロとやくそくしていた雪だるまも作れませんでした。
トトは、冬のあいだのたのしみが、ぜんぶ、なくなってしまったことにきがつきました。
「冬の神様は、すごく、いじわるだとおもうんだ。」
トトは、ふくろうのジジに、いいました。
おしまい。