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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第9章.騎士殺し
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第85話.対面

 エリン・ダビル女伯爵が王都に帰還してから3日後……ついに始まった。

 朝から誰かが牢屋を訪問した。それは……僕の即決処分を担当した警備隊の偉い人だった。


「罪人を連れてこい」


 警備隊の偉い人が抑揚のない声で命令すると、看守たちは僕を牢屋の外に連れて行った。


「……ふう」


 外に出た僕は思わず深呼吸をした。朝の空気が新鮮だった。もうすっかり秋だ。


「これから裁判所に向かう」


 警備隊の偉い人がまた抑揚のない声で言った。そう、今日こそが……僕の裁判が始まる日だ。

 今日の裁判の結果次第で、僕が生きるか死ぬかが決まる。その事実に少し緊張してしまうけど……もう怖くはない。

 クロード卿やレオノラさん、妹たちと遠くにいる姫様まで……みんな僕を助けようとしている。僕はもう彼らに命を任せたのだ。だから怖がる必要などない。ただ彼らを信じていればいい。


「大人しく歩け」


 警備隊の偉い人はちょっと面倒くさそうな態度だった。僕にとっては今日が生死の分かれ道だけど、この人にはただの仕事の日なんだろう。

 僕は警備隊の人々に囲まれてゆっくりと歩き、警備隊本部を抜け出した。確か裁判所はすぐ近くだ。


「で、出てきた!」

「おお!」


 しかし街へ出た瞬間、僕は驚いた。数百を軽く超える人々が警備隊本部の前に集まっていた。


「あいつか……」

「あの人が?」


 男も女も、子供も老人も……みんな集まって僕の方を見つめていた。僕はやっと状況を理解した。


「おい、あれが本当に騎士様を殺した犯人なのか? そうは見えないぞ?」

「人は見かけにはよらないな」


 王都の人々は『騎士を殺した殺人犯』を見に来たのだ。つまり……僕を見にきたのだ。


「でも……何か人々の助けたという噂もあったよな」

「そんな噂、でたらめに決まっているぞ」


 人々が僕を見つめながら騒めいている中、僕は警備隊と共に裁判所に向かった。早くこの場から離れたい。


「騎士殺し……」


 騒めきの真ん中で誰かがそう言った。小さな声だったのに、不思議にもその言葉は僕の耳まではっきりと届いた。そして僕は思わず苦笑してしまいそうになった。

 小さな田舎の村で騎士たちに憧れていた羊飼いが……いつの間にか『騎士殺し』になってしまったのだ。その皮肉な運命に、僕は今日が生死の分かれ道だということすら一瞬忘れた。


---


 裁判所は、とても広い講堂だった。

 入り口から正面には高い檀上があり、大きな机と椅子があった。偉い人々のための席なんだろう。そして講堂の左右には無数の椅子が並んでいて、少なくとも100人以上の人々が座れるようになっていた。


「アルビン、こっちだ!」


 檀上の真正面、講堂の右側に座っていた人が手を振った。その人の傍には美しいドレスを着ている少女もいた。彼らは……クロード卿とエリンだった。

 僕は足を動いて、クロード卿とエリンの間に座った。警備隊は僕の後ろに座った。なるほど、こっちが『被告席』というわけだ。


「アルビン、体の調子はどうだ?」

「おかげ様で、大丈夫です」


 クロード卿と僕が言葉を交わすと、エリンが無表情で僕の方を見つめながら「アルビンさん」と呼んだ。


「はい。何事でしょうか、女伯爵様」

「私の侍女のアイナ……つまりアルビンさんの妹さんには、王城で待機して頂きました」

「そうですか……ありがとうございます」


 エリンの意図が理解できた。アイナが今の僕の姿を見たら、その場で気を失うかもしれない。だから敢えて王城に待機させたんだろう。エリンの配慮だ。


「……やつが来た」


 クロード卿が小さい声で言った。僕は入り口の方を振り向いた。すると兵士たちの護衛を受けながら、背の高い男が裁判所に入ってくるのが見えた。

 赤と黒の高級な衣服を着ている茶髪の男。顔は男前で、目つきが鋭く、全身から気品が感じられる。どう見ても只者ではない。


「誰なのか、説明しなくても分かるだろう?」

「はい」


 説明されなくても分かる 。あの男は……僕が殺したサイモンに似ている。つまり『北の支配者』と呼ばれる、『デイヴィッド・レンダル』伯爵だ。

 王国最大の勢力を誇る男は……一瞬だけ僕の方に冷たい視線を送った。そして何も言わないまま、僕たちの反対側に座った。あっちが『原告席』だ。

 レンダル伯爵は静かだった。弟の仇である僕を睨むことも、威嚇することもなかった。彼はただ沈黙の中で原告席に座っているだけだった。

 その反面、僕とエリンは目に見えるほど緊張した。王国最大の勢力の貴族を敵に回したことを、今更実感したのだ。しかもその貴族は見た目からして手強い相手だ。

 唯一、クロード卿だけが落ち着いた表情だった。その堂々たる姿に僕とエリンは勇気づけられた。


「今度は法務部長官のお出ましだ」


 クロード卿がまた小さい声で言った。今度は権威が感じられる黒服の老人が裁判所に入ってきた。その老人が王都法務部長官である『クレイン伯爵』だ。王城で生活していた時、何度か顔を見たことがある。

 クレイン伯爵は檀上の真ん中の席に座り、僕たちとレンダル伯爵を交互に見つめた。


「被告、原告、そして裁判官……今日の役者が揃ったな」


 隣からクロード卿の冷たい声が聞こえてきた。そう、これから……僕の命をかけた戦いが始まる。

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