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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第9章.騎士殺し
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第82話.希望の元

「おい、無事か?」


 背の高い美男子が鉄格子に近づいた。僕も反対側から彼に近づいた。


「クロード卿……」


 クロード卿の顔を確認しただけで、もう僕は泣いてしまいそうになった。


「アルビン、傷はどうだ? 大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「そうか……お前、本当に体だけは頑丈だな」


 クロード卿が微かな笑顔を見せた。彼も僕の無事を確認して安心したようだ。


「もうちょっと早く来たかったけど、警備隊のやつらが頑固で遅くなった。すまない」

「いいえ、こうして来てくださっただけで……ありがとうございます」


 僕は精一杯涙を我慢した。


「まあ、でも本格的な尋問が始まる前に会えてよかった」

「尋問……ですか?」

「ああ、お前が死んでいないことが確認されたから……警備隊は事件に関してお前を尋問するはずだ」


 確かにそれはそうだろう。僕は言わば容疑者だから。


「あの日、何があったのか……大体予想はついている。でもお前を弁護するためには詳しい情報が必要だ」

「弁護って……」

「俺はお前を弁護するつもりだ。もちろん状況は悪いけど、死刑を免れる可能性はある」


 クロード卿の声は静かだったが、些かの揺るぎもない。


「だからお前も希望を捨てるな。体を大事にして、ここから生きて出ることを考えろ」

「……分かりました」


 そしてクロード卿の全身から感じられる気迫が……僕に希望を与えてくれた。本当にここから生きて出られるかもしれない……そんな希望が僕の胸の中に植え付けられた。


「じゃ、あの日のことについて説明してくれ」

「はい」


 僕はあの事件についてなるべく詳細に説明した。ラナやスーザンさんに出会ったこと、老人たちを介護したこと、養鶏場を購入したこと、そして……サイモンを殺してしまったこと。ありのまま全てを話した。


「なるほど。やっぱり予想通りの事件だったな」


 クロード卿が暗い顔で頷いた。


「サイモンは騎士の恥……いや、この王国の恥だった。今の話でもう一度確信した。あいつは死んで当然のやつだったと。お前の行動は正しかった」

「しかし……」


 僕は何か言おうとしたが、結局口を黙った。


「……お前の気持ちも理解している」


 クロード卿が沈んだ声で言った。


「お前は優しい人間だ。いくら相手が救いようのない人間だとしても……殺人だけはしたくなかっただろう。騎士でも殺人の罪悪感に苛まれる人がいるほどだから……それはある意味当然の反応だ」


 クロード卿は手を伸ばして、僕の肩を軽く叩いた。


「でもこれだけは言っておく。お前がサイモンのやつを止めてくれたおかげで……より多くの被害者を出さずに済んだ。お前が自分の手を汚したおかげだ。それだけでもこの王国から感謝されるべきだ。だから……罪悪感で自分を否定するな」


 その揺るぎない声が僕を救ってくれた。


「もうじき警備隊のやつらがお前を尋問するはずだけど、恐れることはない。さっきのようにありのままのことを話せばいいんだ」

「はい」

「俺は魔導士様と一緒にお前を救い出す方法を講じてみるよ。弁護以外にもいろいろ手を尽くす必要があるだろうから」

「本当に……ありがとうございます」

「お礼はここを出てから言え」


 クロード卿は笑顔を見せたから、僕たちを見つめている看守に「おい」と話しかけた。


「裁判が始まる前に、もしアルビンに何かあったら……お前ら許さないからな」

「は、はい!」


 看守に釘を刺して、クロード卿はまた僕の肩を軽く叩いた。


「じゃ、また来るよ。体を大事にしていろ」

「はい」


 僕はクロード卿の後ろ姿が見えなくなるまで、微動もせずに見つめた。


---


 クロード卿の話し通り……暫くして警備隊による尋問が始まった。

 僕は手を鎖で縛られて、牢屋の外へ連れて行かれた。本当に久しぶりの日差しで目が痛かった。

 外に出てやっと分かったけど、ここは王城の隣に位置する『王都警備隊本部』だった。その名称通り、王都の秩序を保つ警備隊の本拠地だ。王城の周りを歩いているとよく見かける建物だ。もちろん実際に入ったのはこれが始めてだけど。

 僕は本館の小さな部屋で尋問を受けた。警備隊の偉い人が無表情で僕にいろいろ質問をして、僕は素直にありのままのことを話した。それで尋問は意外と簡単に終わり、僕はまた暗い牢屋に閉じ込められた。

 何故尋問が簡単に終わったのか……僕は何となくその理由が分かった。警備隊の人々から見れば、王族を除けば最大の勢力を誇るレンダル家の人間を殺した時点で……僕の死刑はもう『確定』なのだ。だから事件の真相なんか別にどうでもよく、尋問なんて形式的なことに過ぎないわけだ。

 僕は暗い牢屋で横になり、目を閉じた。状況は……やっぱり最悪だ。しかしまだ希望は残っていた。


「クロード卿……レオノラさん……」


 そう、僕が信じている人々が……僕の最後の希望だった。

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