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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第9章.騎士殺し
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第81話.牢屋

 ただただ暗かった。それは目を覚ましても同じだった。


「お、おい!」


 暗い空間の中、誰かの声が聞こえてきた。


「こいつ……生きているぞ!」


 生きている……? 僕のことを言っているのか?

 胸が……痛い。水が飲みたい。


「てっきり死ぬかと思ったのに……」

「ちっ、面倒くさくなったな」


 二人の男性の会話だ。たぶん僕について話している。


「これ、どうすんだ?

「仕方ない。俺が報告してくる」


 足音が聞こえた。一人が去ったのだ。そしてもう一人は……僕に近づいた。


「お、おい!」


 何かが揺れた。


「見えるか? おい!」


 僕はやっと分かった。男が僕の目の前で手を振っていることを。


「み、水……」


 『水をください』と言いたかったが、それすらできなかった。


「これ、水だ」


 男が僕の口に革袋を当てて、水を注いでくれた。僕はゆっくりとそれを飲んだ。

 これは……なんて美味しい水なんだ。もう水というより……生命そのものが僕の中に入ってくる。


「あ……」


 『ありがとうございます』……その言葉を言い終える前に、僕は再び気を失った。


---


 再び目を覚ましても、暗い空間のままだった。


「ここ……は……」


 しかし今回は……僕のいる場所の正体が分かった。ここは……牢屋だ。

 松明の光が閉鎖された暗い空間を照らしていた。そして僕は鉄格子で隔離され、小さな部屋に閉じ込められていた。

 別に驚くことはなかった。今の状況も、これから起きることも……僕は何もかも理解していた。


「あいつ……やっぱり死んでいないぞ」

「くっそ、本当に面倒くさいな」


 鉄格子の外側に二人の男が立っていた。たぶん看守たちなんだろう。


「でも生きているから……食事を与えるべきではないか?」

「その必要はねえよ。所詮処刑されるやつだ」


 看守たちが僕を見つめた。


「こいつは白金騎士団の騎士様を殺したんだからな。しかもレンダル家の人間を」

「あのレンダル家の人間を……」

「うん、だから死刑は確定だ。食事なんて心配するだけ無駄」

「そ、そうだな」


 そう、僕はサイモン・レンダルを殺した罪で……牢屋に閉じ込められたのだ。

 クロード卿から聞いた言葉を思い出した。『レンダル家は王族を除けば最大の勢力を誇る名門家』だと。そして平民の僕がその一員を殺した。もしかしたら裁判すらなく、このまま即決処分されるかもしれない。

 硬い床の上で仰向けになったまま、暗い天井を見上げた。もう希望も怒りも気力も残っていない。まるで抜け殻にでもなった気持ちだ。

 ふと自分の手を見つめた。震えていた。


「殺人……」


 僕は現実から逃げるように目を閉じた。


---


 それからどれだけ時間が経ったんだろうか。日差しが入らない牢屋だから、閉じ込められてから何日後なのか、今が昼なのか夜なのかすら分からない。

 僕はずっと仰向けのまま動かなかった。動く理由も気力もないからだ。


「おい」


 看守の一人が鉄格子の扉を通って、僕に近づいてきた。


「これ……」


 彼が何かを差し出した。それは……トウモロコシだった。


「お、俺がこんなこと言うのもなんだけどさ……やっぱり、何か食べた方がいいと思う」


 僕は上半身を起こして、看守からトウモロコシをもらった。しかしそれを食べる気にはならなかった。


「その……君」

「はい」

「君だよね? 襲撃事件で人々を助けた青年……」


 僕は答えなかった。


「君は覚えていないかもしれないけど……その時、君はある兵士の命を救った」


 あの王立軍の兵士のことか……。


「それ、実は俺の従兄弟なんだ」

「え……」


 僕は少し驚いて、看守の顔を見つめた。


「だから、少しでも恩返しがしたくてさ。今はこれくらいしかないけど、後でいろいろ持ってくるから……ちゃんと食べてくれ」


 彼は真面目な顔だった。


「君の状況は俺も知っている。でも……どうか希望を捨てないでほしい」

「……ありがとうございます」


 僕はお礼を言ってから、ゆっくりとトウモロコシを食べた。すると我慢していた涙が流れてきた。


---


 看守のおかげで、僕の体はまた人間として機能し始めた。しかしそんな僕を待っていたのは不安と心配だった。

 僕が死刑されたら、妹たちはどうなるんだろう。レオノラさんやクロード卿はどう反応するんだろう。そして他の人たちは……。

 考えれば考えるほど、悲観的になるだけだった。これでは希望を持とうとしても無理だ。


「アルビン!」


 その時だった。牢屋の入り口の方から、聞きなれた男の声がした。


「アルビン、無事か!?」


 白い金髪の美男者が僕を呼んでいた。背が高くて男前なその人は……。


「ク、クロード卿……!」


 僕は思わず席から立ち上がり、涙を流した。

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