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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第1章.デイルの羊飼い
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第8話.占い

 耳が尖っている人たちが、本当に存在していたなんて……僕は驚きを隠せなかった。しかし次の瞬間、それがちょっと失礼だということに気付いた。


「……すみません。僕は田舎者なんで、ちょっと驚き過ぎました」


「結構ですよ。それより、せっかくだから占ってあげましょうか」


 エルフ族の女性は魅力的な笑顔を見せた。


「いいえ、僕は……」


「アルビンさん、でしょう?」


「どうして名前が分かるんですか?」


「それはもちろん占い師だから……と言いたいところですが、実はさっき見たんです。弓術の試合」


「そうでしたか」


 不思議な気持ちだった。いろいろ噂されているあのエルフ族と、こうして会話することになるとは。


「ふふふ……私はエルフ族だけど関係した男を殺したりしないし、ばれない毒も使わないし、子供たちも拉致しませんよ」


 女性はまるで僕の心が読めるようだ。僕はどう対応すればいいのか分からなかった。


「困らせてしまってすみません。私はただのしがない占い師、と言いたかっただけです」


 僕が困っていると女性が真面目な顔で謝った。僕は首を横に振った。


「いや、こちらこそすみません。エルフ族を見るのは初めてなんで、ちょっと失礼な態度を取ってしまいました」


「ふふふ、面白い方ですね」


 女性から面白いって言われるのも初めてだ。


「私はミレアと申します。初めまして、アルビンさん」


「は、初めまして、ミレアさん」


 ミレアさんが両手を胸の前で合わせて頭を下げたので、僕も急いで挨拶を返した。


「ふふふ……私は普段都市で仕事をしていますが、この村がとても平和だと聞いて訪ねました」


「僕は都市に行ったことがありません。多分都市と比べたら、ここはつまらないでしょう」


「いいえ、村のみなさんが親切で感動しました。祭りも活気があって楽しいです」


「楽しんでいただけて何よりです」


 若い女性とこんなに長く会話するのは、何か久しぶりだ。しかもこんな美人と。


「それで、せっかくだから占ってみませんか? アルビンさんの運命を」


「占いは……別に信じていませんが」


「信じなくても面白半分で」


 確かに面白半分で占ってみるのも悪くはないだろう。それに、屋台に書かれている料金も安い。よし、ここはミレアさんの儲けに協力しよう。決してミレアさんの美貌に惑わされたわけではない。


「分かりました。占ってください」


「かしこまりました。では、少々お待ちを」


 ミレアさんは屋台の上に何十枚のカードを並べた。それはおじさんたちが博打で使うカードとは違うものだった。


「これからあなたについて簡単な質問をしますので、軽い気持ちで答えてください」


「はい」


 ちょっとドキドキしてきた。しかしそのドキドキは……早速驚きに変わった。ミレアさんの雰囲気がいきなり変わったのだ。まるで別人になったような……そんな気がした。


「……お前の名前は?」


「アルビンです」


「お前の歳は?」


「17歳です」


「お前の生まれた月は?」


「3月です」


 答えを聞いたミレアさんは手を伸ばして、一枚のカードを裏返した。そのカードには……蝶が描かれていた。


「お前は変化を望んでいる。自分の人生の変化を」


 ミレアさんがまた一枚のカードを裏返した。今度は美しい女性が描かれているカードだった。


「その変化はいずれある女と共にやってくる。覚悟を決めたほうがいい」


 また一枚のカードを裏返した。今度は山の絵だ。


「しかしその女は変化と共に試練をもたらす。それでお前には苦痛と苦悩が続く」


 ミレアさんがもう一枚のカードを裏返そうとした。だがその時、屋台の屋根についていた松明から火花が落ちた。


「ミレアさん!」


 僕は素早くミレアさんの手を退けた。それで彼女は無事だったが、彼女が裏返そうとしたカードに火がついてしまった。


「そんな……!」


 ミレアさんはそのカードを取って地面に投げた。火はすぐ消えたけど、カードはもう焦げてしまった。


「大丈夫ですか? ミレアさん」


「私は大丈夫です。しかしまさかこんなことが……」


 彼女は凄く驚いた顔だった。僕は地面に落ちたカードを拾い上げて渡した。


「運悪くカードが焦げてしまいましたね。ミレアさんの商売道具なのに……」


「いいえ、これは運なんかではありません」


「はい?」


「今のは……あなたの運命が私の占いを拒否した結果です。こんなことは……私も初めてです」


 ミレアさんは僕をじっと見つめてから、焦げたカードを裏返した。そこには……男女二人が描かれていた。


「これは恋、または安寧を意味するカード……しかしあなたの運命は自らその予言を拒否しました。明らかに普通の人の運命ではありません」


 その説明に僕は思わず苦笑いをしてしまった。


「僕はただの羊飼いです。そんな凄い運命の持ち主ではありません。占いも面白半分でしたし」


 僕は懐から硬貨を持ち出して、ミレアさんに渡した。占いの料金だ。


「アルビンさん、占いの料金はこれの半分なんですが」


「分かっています。しかし僕の運命を占ったせいで、ミレアさんのカードが焦げてしまったんですから」


「……ありがとうございます」


 ミレアさんが笑顔でお礼を言った。本当に美人だ……と思った瞬間、ふと疑問が湧いた。こんな安い料金で本当にいいのかな? 彼女はどうやって生活を維持しているんだろう?


「……では、僕はこれで失礼します。家族が心配しているかもしれないので」


「あ、アルビンさん」


「はい?」


「その……初見の女には注意してください。あなたの運命に変化と試練をもたらすかもしれません」


「その女って、もしかしてミレアさんではありませんか?」


 僕は冗談でそう言った。


「いいえ、私はたたのしがない占い師。運命を読んで、ひたすら警告するのが私の役目です」


 しかしミレアさんは真面目な顔でそう答えた。


---


 僕はベッドに横になって、ミレアさんの占いについて考えてみた。


 僕の人生はどこをどう見ても特別ではない。僕は貴族でもお金持ちでもなく、ただ田舎の羊飼いにすぎない。


 それに……『運命』という言葉はあまり好きではない。初めから人生の全てが運命の力で確定されているとしたら、希望なんかないじゃないか。せめて……アイナにはもっと豊かでもっと安全な人生を送ってほしい。


 だから占いはあまり信じたくない。たとえ運命が実際に確定されているとしても……どこかには希望があって、アイナのような子供たちがもっと幸せになってほしい。僕の人生なんて別に特別じゃなくてもいいから、本当にそうなってほしい。


 僕は妹の寝顔を見つめながらそう思った。

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