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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第8章.初めての……
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第75話.接近

 ベッドに身を任せても、あの少女のことが頭から離れなかった。


「エルフ族はおもちゃじゃないんだよ」


 何故少女はそういう言葉を言ったんだろう? それはたぶん……『エルフ族』だという理由だけで軽蔑され、酷い目にあってきたからに違いない。

 僕には……あの少女の痛みを完全に理解することはできない。そもそもそういう経験がないのだ。僕はいつも人々に恵まれて、いつも歓迎された。貧乏でも心だけは平穏な人生だった。

 でもあの少女は……たぶん僕よりも貧乏で、しかも心すら平穏ではなかった。幼い頃から辛い人生を送ってきたはずだ。だから近づく人を信じないで敵対視するようになってしまった。


「助けて!」


 少女と目が合った瞬間、聞こえてきた声。あれは一体なんだったんだろう。少女の本音? それが何故僕に聞こえたんだろう? これも『世界樹の実』による魔法なのか?

 明日、レオノラさんにその答えを聞いてみよう……と心を決めて、僕は眠りについた。


---


 レオノラさんは魔導士の塔に閉じこもり、寝食を忘れて仕事をしていた。

 王城の石工たちが作った石碑に魔法をかけて、結界の中継器にする。この説明だけでは簡単に聞こえるかもしれないが、それを実現するためにレオノラさんは朝から夜までずっと呪文を唱えている。

 そんなレオノラさんの邪魔をしたくはない。しかし……これだけは聞いてみるしかない。


「レオノラさん」

「アルビン君、おはよう。あ、こんにちはだっけ?」

「おはようございます」


 レオノラさんは今日も夜更かししたようだ。流石に健康が心配だけど……レオノラさんは『今は結界の完成が優先よ。私のことは心配しないで』と答えるだけだ。


「それで、何のことなの? 次の石碑は午後だよ」

「実はお聞きしたいことがあります」


 レオノラさんが石碑から目を離して、僕を見つめた。


「言ってみて」

「それが……ある特定の人から声が聞こえてきて」


 僕はあの少女との出来事について簡単に説明した。


「つまりその人と目が合った瞬間、まるで心の声が聞こえてきたような……ことが起きたと?」

「はい」

「なるほど」


 レオノラさんが小さく頷いた。


「その人、エルフ族じゃなかったの?」

「はい、そうでしたけど……」

「やっぱりね」


 レオノラさんの眼差しが鋭くなる。


「エルフ族の中には、魔法の素質がある人が多いの。現に各国の王室魔導士はほとんどがエルフ族よ。姫様や女伯爵様のように、エルフ族じゃなくても魔法の素質がある人は極めて少数だわ」


 それは僕も分かっている。そもそも『魔法』というもの自体が古代エルフの遺産だ。


「アルビン君と目が合った人は、魔法の素質を持っているに違いない。そしてその人の心の声が、偶然アルビン君の中の『世界樹の実』と反応して……聞こえるようになったんじゃないかな」

「なるほど」


 それなら確かに説明できる。姫様も以前『魔法の素質がある人は時々不思議な体験をする』と言っていた。


「結界に反応がないから、その人の魔力は魔導士として分類されないほど弱いはずよ。でも注意してね」

「はい」


 そう答えたけど、僕はあの少女にもう一度会いたくなった。あの少女がどうして助けを求めていたのか……その理由がどうしても知りたくなった。


---


 結局僕はクロード卿の了承を得て、少しだけ自由時間をもらった。そして迷いなく貧民街に向かった。

 どこか暗くて、どこか寂しくて、どこか悲しい街……僕はそんな貧民街の内部に一歩踏み出した。すると周りの空気が突然物寂しくなった。


「……でも」


 でもどうやってあの少女を探すんだ? また偶然出会うまで待つのか? 僕は自分の無計画さを自嘲した。

 ところが貧民街の寂しい風景を見つめていると……何故か胸が高鳴り始めた。まるで……誰かに呼ばれているような気がした。もしかして……あの少女が……。

 こっちだ。何となく僕は方向を決めて歩き出した。もちろんその方向に向かう論理的な理由なんて何もない。だが何故かその方向に誰かが僕を待っているような気がする。

 やがて僕は路地裏に入り、もう倒れる寸前に見えるボロボロな家の前に立ち止まった。


「……ここだ」


 もちろんその判断にも何の根拠もない。しかしこのボロボロな家の中に……助けを求めている誰かがいる。そんな根拠のない確信が僕の中に広まった。

 まず深呼吸をして、僕は扉に手を伸ばした。そしてゆっくりと開いた。


「……誰!?」


 家の中で家事をしていた、中年の女性が僕を見て叫んだ。当然の反応だ。そして中年の女性の傍には……あの時のエルフ族の少女がいた。

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