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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第8章.初めての……
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第70話.嫉妬

 舞踏会以来、姫様とペルガイアのエルナン王子についての噂が広まった。それは……二人がいずれ婚約するという噂だった。


「姫様が!? あの王子様と!?」


 アイナが目を輝かせた。姫様と王子様の恋話……もうアイナとしてはたまらない話題だ。


「うん、それがね……どうやら王子がここに来たのは、最初から姫様との婚約のためだったみたい」


 エリンも目を輝かせながら説明した。

 なるほど、何故いきなり我が王国を訪ねたのか疑問だったが……姫様と婚約するためだったのか。


「この婚約は両国の同盟に繋がるのよ。つまりこれは王国のためでもあるの」


 そう、姫様は王国のための最善だと思ったから……エルナン王子との婚約を受け入れたに違いない。


「お二方はとてもお似合いだったよ! 庭園でのダンスはもう忘れられない!」


 アイナが少し大声になった。エルナン王子と姫様のダンスは、アイナにとってまるで夢の一場面だったはずだ。


「うん、あれは本当に美しかったね……姫様のドレス姿なんてもう反則」

「本当そうだよ……私、あの日眠れなくて大変だった!」

「私もちょっとドキドキして眠れなかった……」


 妹たちの楽しい会話が始まったけど、僕はまた胸の中が少し痛かった。


---


 僕の中で何かが変わった。それが何なのか、僕はもうその答えを薄々気付いている。だから……僕は僕自身が少し嫌いになった。

 『忘れたい』……僕は必死に木剣を振りながら、ずっとそう思った。


「どうしたんだ? アルビン」


 僕の練習を見ていたクロード卿が口を開いた。


「今日はいつもより感情がこもっているじゃないか」

「い、いえ……」


 クロード卿の眼差しが鋭くなる。


「感情ってものは、時には凄まじい力になるけど……度が過ぎると己の道すら見えなくなる」

「はい」

「剣術も同じさ。感情のこもった剣は自分を見失いやすい。剣を持っている時は頭を冷やして、感情と理性のバランスを崩すな」

「分かりました」


 一応答えたけど……僕にできるかな。


「おい、アルビン。あれをみろ」


 僕は頭を上げてクロード卿の視線を追った。そこには……。


「……王子様」


 エルナン王子だった。王子が木剣を持って、ペルガイアの騎士と訓練場に入場したのだ。

 訓練場の中の皆が驚く中、王子は騎士と一対一の練習を始めた。


「……ほぉ、なかなかだな」


 傍でクロード卿がそう言った。僕の目に映ったエルナン王子の剣術は……美しかった。素早く動きながらも力が感じられる素晴らしい剣術だ。

 決して相手の騎士が手加減しているわけではない。でも王子は騎士と対等に渡り合っている。僕と同い年なのに……。

 僕を含め、その場の全員が息を殺して王子の剣術を眺めた。一見女性に見えるほどの美少年がこんなに強いなんて……と、みんな驚いているに違いない。


「ふう」


 やがて練習を終えた王子は、今度は射場に近づいた。


「失礼ですが、少し場所を借りてもよろしいでしょうか」


 王子の質問に、射撃練習をしていた兵士が「ど、どうぞ!」と答えた。王子は連れの騎士から弓と矢を受け取った。


「まさか……」


 僕は自分の胸が騒ぎ始めることを感じた。

 王子は正確な動作で弓を引いて矢を放った。矢は勢いよく飛び……的の真ん中に刺さった。次の矢も、その次の矢も……全部命中だ。


「王子様、そろそろ時間です」


 ペルガイアの騎士がそう言うと、エルナン王子は頷いて訓練場から退場した。


「ふっ、自慢ばかりして去るのか」


 クロード卿が笑った。


「でも……剣術も弓術も間違いなく一流だ。あれはもう才能が違うな」

「そうですね」


 僕は力のない声で答えた。


---


 クロード卿との訓練を終えて、僕はレオノラさんの研究を手伝った。


「実はね……王城の結界を利用して、王都全体を監視する方法を見つけたの」

「そういうことが可能なんですか?」


 僕は驚いて質問した。


「うん。結界を一時的に増幅して、監視範囲を広げる。それなら一瞬だけ王都全体を覆うことも可能なはずよ」


 レオノラさんが目を輝かせた。普段は少し面白い人だけど、こういう時は流石王室魔導士だ。


「そして一瞬だけでも十分……これで王都の内部に他の魔導士がいるかどうか判断できる」

「なるほど」

「もちろん私一人の力では無理よ。アルビン君の力が必要だわ」

「分かりました」


 僕とレオノラさんは王城の西側まで行き、結界の一部である女神の彫刻に近づいた。


「前回と同じく、アルビン君の力を強制的に使う。耐えてね」

「はい」


 これで仮面の魔導士の居場所が分かるなら、僕の苦痛はどうということではない。


「うっ……」


 僕の体から白い光が出てきた。その光はレオノラさんの手に移り、やがて女神の彫刻を照らした。すると彫刻からも微かな光が出てきた。


「もうちょっと、結界を増幅させる……!」


 いつもより苦痛が激しい……でも……!


「……ここまで!」


 しばらく後、魔法が中断された。仮面の魔導士の居場所は……? 見つけたのかな?


「ど、どうなりましたか?」

「……反応がない」

「はい……?」


 レオノラさんが眉をひそめた。


「今、一瞬だけだけど結界が王都全体を覆った。しかし……何の反応もない」

「つまり王都の中には他の魔導士がいない……ということですか?」

「うん、そうなるね」


 それは……よかったと言えるのかな。王都が安全だと分かったけど、仮面の魔導士の居場所は分からないままだ。


「襲撃事件の時、仮面の魔導士はいきなり現れたんだから空間移動が可能なのかもしれないけど……今のところはそういう形跡もない」

「そうですか」

「うん。でも念のため明日もう一度やってみましょう」

「分かりました」


 僕が答えると、レオノラさんが笑顔を見せた。


「アルビン君がいてくれて本当によかったね」


 その言葉を聞いた途端、僕は不思議なくらい気持ちが晴れた。


---


 日課が終わり、僕は自分の部屋のベッドに身を任せた。そして目をつぶって眠りにつこうとした。しかし……なかなか眠れなかった。

 昼間に目撃したエルナン王子の姿が頭から離れなかった。彼は剣術はもちろん……僕の特技である弓術にも一流だった。その事実が何故か……とても悔しかった。

 何故だろう? 王子は僕の命の恩人だ。感謝するべき存在だ。なのに何故王子のことを思い出すとイライラするんだろう。

 舞踏会の仕上げ、王族たちのダンス……互いの手を取って優雅に踊るエルナン王子と姫様の姿はとても美しかった。普段の僕ならその美しい風景が見られて嬉しかったはずだ。しかしその時、僕は……悲しかった。それが意味するのは……。。

 ふとある言葉が脳裏をよぎった。それは……『嫉妬』だった。

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