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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第1章.デイルの羊飼い
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第7話.ケーキ

 夜になって、祭りが本格的に始まった。


「アルビン、ちょっと手加減しろ!」


「そうはいきません」


 僕は松明の光を浴びながら、最後の的に矢を放った。その矢は夜の空気を切り抜けて、見事に命中した。これで弓術の試合の優勝者が決まった。


 周りの人々が歓声を上げて、拍手喝采を送ってくれた。


「お兄ちゃん最高!」


 もちろん一番喜んでくれたのはアイナだ。妹は拍手しながら何度も飛び上がった。そして試合に参加していた村のおじさんたちも、僕を囲んでお祝いしてくれた。


「これで3年連続優勝だな。大したもんだ!」


「このやろう、後で一杯おごれよ!」


 おじさんたちはみんな笑っていた。本当にいい人たちだ。


「アルビン、お前、明日のレスリングの試合にも参加するのか?」


「いいえ、レスリングはやったこともないし、一回戦で負けるのが確実なんで……」


「何言ってんだ! やってみなきゃ分からねえだろう!」


 いや、弓以外は本当に駄目だ。この人たちにかなうわけがない。


「やめろよ。こいつ、まだ女を知らないから本当にレスリングやったことがないんだよ」


「あ、そうだったのか!? アルビン、お前まだ女を知らないのか!? じゃあ、俺が隣の村のいい子を紹介……」


「け、結構です!」


 僕はおじさんたちから逃げ出した。いい人たちなのは確かだけど、こうなったらちょっと面倒くさい。


「アイナ、行こう」


「うん!」


 アイナの手を取って祭りの真ん中を歩いた。村の人々はお酒と食べ物を楽しみながら語り合っていた。仮設舞台から流れる音楽に合わせて何人かが踊っていた。ところどころの焚き火が人々の笑顔を照らして、その体を温めた。楽しい騒めきの光景……この静かな村では祭りの時にしか見られない光景だ。


「お兄ちゃん! あそこ!」


「うん、行ってみようか」


 村の東側には行商人たちの屋台が並んでいた。毎年祭りの時だけこの村にやってくる人たちだ。普段は見ることもできない珍しいものを売っている。


「アイナ、これ買おう」


「うわっ、レモンケーキ! 本当!? 本当に買うの!?」


「もちろんだ。賞金も貰ったし」


 大きいレモンケーキを受け取ったアイナの顔は幸せそのものだった。


「と、友達と一緒に食べてもいい!?」


「いいよ、それはお前のものだ」


 アイナは友達のいるところに行って、彼らと一緒にケーキを食べ始めた。アイナの友達もみんないい子だ。貧乏だからって、親がいないからってアイナを虐めたりはしない。いや、むしろアイナは子供たちの間で人気だ。


 妹には不思議な力がある。大人も子供も、みんなあの太陽みたいな笑顔に引き寄せられる。それでいつの間にか友達になっているわけだ。まあ、その不思議な力に一番やられたのは僕だけど。


 僕は一人で行商人たちの屋台を見回った。お金はないけど、珍しいものを見物できて嬉しい。女の子のためのアクセサリーとかは、いずれアイナに買ってあげたい……と思っていた瞬間だった。


 僕は予想外の驚きに立ち止まってしまった。立ち止まって自分の目を疑った。


 僕の前には屋台があった。その屋台には何の商品もなく、ただ『占い師』と書かれているだけで、女性一人が立っていた。僕が驚いたのはその女性のためだ。


 その女性は美人だった。それも今まで見たこともないほどの美人だった。真っ白い肌に大きくて美しい瞳、不思議な銀色の髪はまるで神話の女神のようだった。しかし僕が驚いた理由は、その女性が美人だからではない。銀色の髪に隠れている彼女の耳が……尖っているのだ。それが意味するのは……。


「ふふ、エルフ族を見るのは初めてのようですね」


 女性が笑顔でそう言った。それで確実になった。この人は本物のエルフ族だ。

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