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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第7章.隣国の王子様
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第68話.晴れた朝

「舞踏会が……開かれるんですか?」


 僕が驚いて聞くと、クロード卿が頷く。


「ああ、来週の日曜日に開かれるらしい」

「でもあんな事件があったのに?」


 仮面の魔導士による王子襲撃事件……あれだけの大事件が起きたから、舞踏会は取り消しになったと思っていたけど……違うのか?


「その逆だよ」

「逆?」


 クロード卿は木剣を軽く振りながら説明を続ける。


「仮面の魔導士ってやつは、ペルガイアの王子をわざと王都の街で襲撃した。その理由が分かるか?」

「それは我が王国とペルガイアの関係を悪化させるため、だと聞きました」

「正解だ。王都の街でペルガイアの王子が死んだり怪我したりしたら、我が王国の責任になるからな」


 それはそうだ。王子が無事で本当によかった。


「こういう事情は王子も理解しているから……『今回の事件で、両国の関係が悪化されることはなかった』ということを世に示すためにも、舞踏会を開くわけだ」

「なるほど」


 そんな理由があるなら絶対開くべきだな。


「ペルガイアの王子……まだお前と同じく18歳だけど、相当な切れ者という評判だ。剣術も強いくせに、行動にも隙がないらしい。自分の命が狙われたのにもかかわらず、政治的な判断ができるのは正直驚いた」

「そうですね」

「もう王都の中には彼に魅了された女性たちがいっぱいいるって噂だ。どうだ、羨ましくないか?」

「さあ、別に……」


 そもそも王子と僕は天と地の差だ。騎士ならともかく、王子に対しては『羨ましい』という感情すら起きない。しかも王子は僕の命の恩人でもある。

 召喚獣を倒し、僕を助けてくれた王子の姿を……今もはっきりと覚えている。白い鎧に白いマント……それはあまりにもかっこいい姿だった。


「本当に無欲なやつだな、お前」

「そうでしょうか。自分ではよく分かりません」


 僕は苦笑した。ここ最近クロード卿から『純粋』、『無謀』、『無欲』とか言われたけど……果たして本当なんだろうか。やっぱり自分ではよく分からない。


---


 時間が経つにつれて、王都の雰囲気も落ち着いてきた。

 人々の中で不安が完全に消えたわけではないはずだ。しかし時間の力とは本当に凄くて、人々はまた笑って生活できるようになった。

 僕はレオノラさんと一緒に王城の結界をできるだけ強化させておいた。レオノラさんは「完璧ではないけど、これならある程度の対応は可能なはずよ」と言った。

 警備隊と王立軍も、王都の治安のために全力を尽くした。おかげで犯罪率が結構減少したと聞いた。しかし肝心の『仮面の魔導士』の行方は分からないままだった。

 そして今日……ついに『舞踏会』が開かれる。


「アルビン君」

「はい」

「私たちは王城の真ん中、つまり庭園で結界を見張りましょう」

「分かりました」


 今日の王城は、もうこれ以上はないほど厳格な警備態勢だった。貴族たちが安心して舞踏会に参席できるように、もう全ての兵士が動員されていた。

 それに騎士たちは、礼服ではなく鎧を着て舞踏会に参加することとなった。万が一の場合はそのまま対応するためだ。おかげでクロード卿は「礼服着なくてよかった」と笑ったわけだが。


「……美しいね」

「はい」


 晴れた朝の空気と花の香を吸いながら、僕とレオノラさんは一緒に王城の庭園の中を歩いた。あくまでも結界を見張るためだけど、自然と庭園の美しい姿に目がいった。


「これはチューリップ、あれはマリーゴールド」


 植物が好きなレオノラさんは、いろんな花について僕に説明してくれた。


「アルビン君も残念だね」

「はい?」

「せっかくだから好きな女の子と一緒に庭園を散歩すればよかったのに」

「いいえ……僕には、そういう人がいないので」

「やっぱりそうだったね」


 レオノラさんが無邪気に笑う。


「アルビン君のことを見ていると、ちょっと不思議な感じがする」

「そうですか」


 僕から見れば、レオノラさんこそ不思議な人だけど。


「うん……まるで自分の欲望がなく、妹のために生きている人間みたい」


 それは……あながち間違いではないかもしれない。あの日から僕はずっとアイナのために生きたいと思っていた。


「家族のために生きるって、素敵なことかもしれないけど……それだけでは駄目だよ? アルビン君も一人の人間だから、自分の幸せを追求しないと」

「そうですね」

「うん。だから好きな女の子ができたら、ちょっと強引にでも捕まえなさい。『僕はお前のことが好きだ!』とか言って」

「それはちょっと」


 僕は苦笑した。


「要するに優しさだけでは駄目ってことよ。決める時はちゃんと決めてね。アルビン君自身のために」

「分かりました」

「まあ、まず好きな女の子を探さす必要があるけどね」


 レオノラさんが優しいお姉さんのように笑った。

 クロード卿もそうだけど、周りの年上の人たちは僕のことを心配してくれている。ありがたいことだ。しかし僕には彼らの助言が遠い彼方の話のように聞こえた。

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