表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第7章.隣国の王子様
66/131

第66話.力を生み出すもの

「アルビン君?」


 誰かが……僕を呼んでいる。


「アルビン君?」

「……はい」


 答えると同時に目を覚ました。すると見慣れた空間と見慣れて人の姿が見えてきた。


「気が付いたの? 気分はどう?」

「大丈夫です……レオノラさん」

「よかった」


 そこは魔導士の塔の内部で、僕を呼んでいたのはレオノラさんだった。僕は実験台の上で上半身を脱いだまま仰向けになっていた。

 気を失う直前のことが思い浮かんだ。エルナン王子の童話みたいな姿、獅子騎士団の騎士たち、正体不明の人と無数の召喚獣……そして戦場と化した王都の街。


「あの後……どうなったんですか? 人々は? 王子様は?」


 僕は上半身を起こして質問した。


「負傷者は多数だけど……幸いなことに死者はいない」

「それは……よかったですね」


 レオノラさんの答えに安堵した。


「流石は獅子騎士団ですね。あれだけ激戦だったのに、死者がいないなんて」

「獅子騎士団だけの力ではないの」

「はい?」

「騎士たちから話を聞いた。アルビン君が多くの野獣を倒し、人々を救ったって」


 その言葉で、僕は自分に起きに不思議な現象を思い出した。


「レオノラさん、実を言うとあれは……」

「分かってる。魔法を使ったんでしょう?」


 レオノラさんが僕の胸に手を当てた。


「アルビン君は魔法を使い過ぎて倒れたの。それも以前と同じく、かなり高位の魔法を」


 そう、あれはどう考えても魔法としか説明できない。


「魔法を使った当時のことを、詳しく説明してくれる?」

「はい」


 僕は実験台に座って説明を始めた。戦いが始まり目先で兵士が倒れたこと、不思議な力が溢れ出てきて人々を助けたこと、最後には王子に助けられたこと……。


「なるほど、そういうことがあったのね」


 僕の説明を聞いて、レオノラさんが頷いた。


「『魔法による身体強化』はそこまで珍しいものではない。しかしそんなに強くなるなんて……流石古代エルフの魔法だね」

「はい……僕自身さえ理解できないほど力でした」


 レオノラさんは少し考え込む。


「……しかし、これでアルビン君が魔法を使う条件が分かったかも」

「そうですか?」

「うん、もちろんこれも仮説だけど……答えはアルビン君の『感情』なのかもしれない」

「感情……」

「アルビンが何か強い感情を抱いた時、それに反応して『世界樹の実』が力を発揮する……それなら今回の件も、以前の件も説明できる」


 レオノラさんが腕を組んで話を続ける。


「たとえば今回はアルビン君の『人々を助けたい』という強い感情に『世界樹の実』が反応して、アルビン君の身体を強化させた……ということ」


 なるほど……それなら確かに何もかも説明できる。


「もしそれが正解なら、たぶんアルビン君は以前にも何回か魔法を使ったはずよ。単に誰も気付かなかっただけ」

「そんな……」

「ある意味、温厚なアルビン君が世界樹の実に選ばれて幸いだね。他の人がそんな力を手に入れたら大変なことが起きたかも。いや、もしかしてそれこそが……」


 もしかしてそれこそが、僕が世界樹の実に選ばれた理由なのかもしれない。レオノラさんも僕もそう考えていた。


「……とにかく、今は『仮面の魔導士』について対策を立てるべきよ」

「『仮面の魔導士』……?」

「召喚獣を使って王子一行を襲撃し、姿を消したあの魔導士よ」

「あ……」


 僕は頭の中で黒い仮面を被った人の姿を思い浮かべた。


「召喚獣も古代エルフの魔法で、今の時代ではそう簡単に再現できるものではない。しかし仮面の魔導士はいとも簡単に100を超える召喚獣を使った。とんでもない実力者だわ」

「もしかして、その人が……」

「うん、女伯爵様に呪いをかけたのもたぶん同じ人物のはず」


 僕とレオノラさんの視線が交差した。


「仮面の魔導士の意図は明確だわ。我が王国を……危機に追い込もうとしている」


 レオノラさんの顔が強張る。


「数ヶ月前、仮面の魔導士は呪いで女伯爵様の命を奪い、我が王国とカルテア王国の間の戦争を起こそうとした。そして今回は……エルナン王子様を襲撃して、ペルガイア王国との関係を悪化させようとしたの」

「何故そんな恐ろしいことを……」

「正直に言って、理由は大事ではない。大事なのは仮面の魔導士を阻止することよ」


 それはそうかもしれない。でも……やっぱり知りたい。何故そんな恐ろしいことをしようとしているんだろう?


「もう信頼できる魔導士たちに連絡しておいたの。この王都に集まって、皆で対策を講じるつもりよ」


 レオノラさんの真面目な眼差しが僕に向けられた。


「そしてその対策の鍵になるのは……アルビン君、あなたよ。あなたの体内の『世界樹の実』こそが、仮面の魔導士を阻止するための力になるはず」


 もし阻止できなかったら……たくさんの人々が苦しむことになるだろう。それだけは絶対駄目だ。


「仮面の魔導士も、今頃はアルビン君の存在に気付いているはず。当分の間、王城の外には出ないように」

「分かりました」


 一体『仮面の魔導士』はどういう人なんだろう? 僕は頭の中でいろいろ想像してみたけど……もちろん答えが出るはずがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼クリックで応援よろしくお願いします! - 『書く猫』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ