第64話.訪問日
ついに明日、『ペルガイアの第2王子』がこの王城を訪問する。
もう王城の内部は非常事態だ。 万が一でも隣国の王子に失礼がないように、王城の働き手たちは死力を尽くしていた。
舞踏会の準備は既に終わったそうだ。王城の美しい庭園の所々にテーブルが置かれ、大量のお酒が用意された。全部明日の舞踏会のためだ。
王都の貴族たちはもちろん、王城の騎士たちも明日の舞踏会には必ず参加することになった。それは『従者なき騎士』も例外ではない。
「まったく……面倒くさい」
クロード卿は自分の部屋で舞踏会のための礼服を用意していた。
「何で俺まで参加しなければならないんだ」
「クロード卿も白金騎士団の騎士ですからね」
僕は苦笑しながらクロード卿を見つめた。
「そもそも俺はな……美しい姫ならともかく、王子にはまったく興味ないんだよ」
「流石です」
と答えた瞬間、僕はリナさんとの会話を思い出した。
どうしよう……リナさんの心を伝えるべきか? いや、それはあまりにも……でも伝えないとクロード卿は……。
「あの、クロード卿」
「何だ」
「実はリナさんにクロード卿について聞いてみたんですが、その……リナさんは恋愛に興味ないらしいです……」
僕の言葉に、クロード卿が爆笑する。
「まさかそれを真正面から聞いたのか?」
クロード卿はしばらく腹を抱えて笑ってから、ゆっくりと口を開く。
「お前ってやつはな……純粋というか無謀というか」
「すみません、生意気なことをしてしまって」
「いや、別にいいんだよ」
クロード卿が笑顔で首を横に振る。
「もう知っていたんだ。リナさんが俺に興味がないってことくらいは」
「そうですか? じゃ、クロード卿は……」
「叶わない片思いとか、趣味じゃないけどさ。人間の心ってそう簡単に切り替えないんだ」
僕にはまだそういう経験はないけど……何となく分かるような気がした。
「俺は自分の心を否定するつもりも、リナさんの気持ちを無視して接近するつもりもない。こういう態度は男らしくないけどな」
「……いいえ、自分には理解できます」
たぶんリナさんの気持ちを尊重しているからだろう。確かにクロード卿らしくないような気がするけど……理解できる。
「まあ、この話はここまでにしておこう。アルビン、明日はどうするつもりだ?」
「別に予定はありません。でもペルガイアの騎士たちを見てみたいです」
「『獅子騎士団』か。なら朝早くから東に行って、王都の門の近くで待っていろ。王子一行の行列が見られるはずだ」
「分かりました」
レオノラさんも明日は宮殿で待機だし、僕にはしばらく自由時間だ。よし、ペルガイアの騎士たちを見に行こう。
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そして次の日は……いよいよ王子の訪問日だ。
僕はクロード卿の言葉通り、朝早くから王都の門の近くで待ち続けた。時間が経つにつれて僕の周りに人々が集まった。皆ペルガイアの王子一行を見に来たんだろう。
そして警備隊や王立軍の兵士たちが来て、王子のための道を確保し、人々を統制した。もし王子の身に何か起こったら深刻な外交問題になるから、何よりも安全を最優先にしているわけだ。
「くるぞ!」
誰かが叫んだ。僕は大勢の人々と一緒に並んで、門の方を見つめた。するとしばらく後、白馬に乗っている誰かが姿を現した。
「おお……!」
人々が歓声を上げた。僕も内心関心した。白馬に乗ってゆっくりと門を通っている人は……『童話の中の王子様』そのものだった。
白い鎧と白いマント、短い金髪、彫刻のような顔……一瞬女性に見えるほどの美少年だ。
「『エルナン・カヒール』王子……」
僕の隣で誰かが言った。そう、あの童話のような美少年が……ペルガイアの第2王子、『エルナン・カヒール』だ。
街に並んでいた人々、特に女性たちの歓声が絶えなかった。その気持ちも理解できる。もし僕が女性だったら、僕も王子に一目惚れしたかもしれない。そう確信できるほどエルナン王子の姿は素敵すぎる。
そして王子の後ろを追って、軍馬に乗っている騎士たちが次々と姿を現した。獅子の紋章が描かれた灰色の鎧を着ている騎士たち……もちろん彼らが『獅子騎士団』だ。
屈強な体と貫禄……獅子騎士団は全員百戦錬磨の戦士に見えた。僕は彼らの姿に見とれて、頭が真っ白になったまま関心するだけだった。
しかし……ちょうど王子一行が僕の目の前を通っていくその瞬間……異変が起きた。
「全員、止まれ!」
王子が急いで命令し、自分自身も馬を止めた。王子の前に……何の前触れもなく、いきなり人が現れたのだ。