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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第6章.開眼と成長
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第57話.命かけて

 クロード卿が何故『覚悟を見せろ』と言ったのか、僕はその理由を理解している。

 たぶんクロード卿の過去の過ちは……とてもつらいものに違いない。それを本人から聞き出すためには、こっちも『口先ではなく、相手のつらい記憶を正面から受け入れる覚悟』を見せなければならない。

 勝負の行方なんかもう分かっている。クロード卿は我が王国の騎士の中でも最精鋭である『白金騎士団』の一員。そして僕はたった数日訓練しただけの元羊飼い。たとえ僕が30人集まっても、剣ではクロード卿に勝てない。

 しかしこれは勝ちか負けかの問題ではない。覚悟の問題だ。


「どうした、かかってこないのか? これはお前が始めた戦いだぞ」


 クロード卿が冷たい声で言った。その通りだ。彼の過去について聞き出そうとしたの僕だ。僕が攻めなければならない。憧れている騎士に向かって剣を振らなければならない。


「行きます」


 僕はクロード卿から学んだ通り、足と腰を使って踏み込んで上段斬りを放った。


「っ……!」


 しかしその上段斬りは見事に空を切った。その事実に気付いた僕は、反射的に木剣を上げて防御態勢を取った。


「うっ!」


 クロード卿の木剣が僕の木剣を強打し、僕はそのままぶっ飛ばされた。これはもう人間の力ではない……!


「それを防ぐなんて……お前、目がいいな」


 僕は立ち上がったが…… 衝撃で手が震えてきた。しかし諦めずに再び木剣を握った。


「クロード卿、今のは手加減でしたよね?」

「それも分かるのか。いろいろ予想以上のやつだ、まったく」


 クロード卿が本気だったら今の反撃でもう終わった。僕だってそれくらいは分かっている。


「まあ、一瞬で終わったらつまんないだろう? けど……次は容赦ないぞ」


 クロード卿の威圧感も、もう人間のそれではない。


「次、お前が攻撃すれば……俺は本気で反撃する。運がよければ腕が折れるくらいで済むかもしれないが……運が悪かったら命まで危険だ。それでもいいならかかってこい」

「はい、行きます!」


 僕は再び踏み込んだ。そしてさっきと同じく渾身の上段斬りを放った。


「この馬鹿……!」


 クロード卿は僕の渾身の一撃をいとも簡単に回避し、今度こそ僕には防御できないほどの速さで反撃してきた。しかし……!


「くっ!」


 僕の選択は防御でも回避でもない。僕は反撃してくるクロード卿に向かって……必死の覚悟が込められた横斬りを放った。そして二人の木剣が交差した。


「おい、アルビン!」


 クロード卿が叫んだ。僕の左肩から大量の血が流れてきた。


「ま、また行きます……」

「馬鹿野郎が……!」


 クロード卿がまた叫んだ。僕は何か答えようとしたが……そのまま気を失った。


---


 僕はベッドの上で目を覚ました。


「痛っ……」


 左肩から激痛が感じられた。視線を下ろすと僕の上半身が包帯で巻かれているのが見えた。


「その傷でもう起きたのか? 本当に予想以上のやつだ」

「クロード卿……」


 クロード卿はベッドの隣の椅子に座っていた。


「しかしな……馬鹿か? お前」


 彼は本当に呆れた顔だ。


「あんなちっぽけなことに本気で命をかけるやつがどこにいる?」

「すみません」

「命知らずなら何度も見たけど、お前のような馬鹿は初めて見たぞ」

「すみません」


 クロード卿のかっこいい顔が歪む。


「大体さ、お前にも家族がいるだろう。こんなことでお前が死んだら家族たちの気持ちはどうする? お前はそんな簡単なことも考えられないやつなのか?」


 その言葉が僕の胸に深く刺さった。


「仰る通りです。僕が死んだら……大事な人々が悲しみます。それは僕が死ぬことより嫌です。でも……」


 僕は目を伏せた。


「でも僕には分かります。クロード卿が……『従者なき騎士』と呼ばれて、誰一人も味方になってくれなくて……今までどれだけ孤独で辛かったのか……僕には分かります」


 僕にはエリンとアイナがいる。どんな時でも二人の妹たちは僕の味方になってくれるはずだ。僕のことを心配してくれるはずだ。それだけでも僕は耐えられる。

 しかしクロード卿には……そういう人がいない。本当に一人だ。だから周りから軽蔑されてもずっと一人で耐えてきた。ずっと一人で孤独と戦ってきた。


「お前……」

「クロード卿はずっと一人で孤独を耐えてきた方です。そんなクロード卿から辛い過去を聞き出すためには……もう僕の命をかけるしかないと思いました」

「……本当にどうしようもない馬鹿だな」


 クロード卿はゆっくりと首を横に振った。


「分かった……全部話してやる。お前が命をかける必要なんてない、くだらない話だけどな」

「ありがとうございます」


 僕は上半身を起こして、クロード卿を見つめた。

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