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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第6章.開眼と成長
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第55話.悪名の裏

 部屋に入ると、いつも通りエリンとアイナが笑顔で迎えてくれた。しかしいつもとは違って……二人の妹はすぐ驚きの表情に変わる。


「アルビンお兄さん、顔に……!」


 僕は自分の頬を触った。昼に負った傷が当然にもまだ残っている。


「どうしたの!?」

「あ、これは……ちょっと転んだよ」

「……お兄さん、それ嘘ですよね?」


 エリンの目つきが鋭くなる。


「どう見ても転んだ傷跡ではない。誰かに殴られたんじゃないの?」

「い、いや……」

「正直に言って。じゃないと侍女さんたちに調べさせるから」


 エリンから威圧感が感じられた。可愛い妹だから忘れがちだけど……エリンは女伯爵、しかもパバラ地方の支配者だ。エリンがその気になれば戦争すら起こせる。そう考えると本当に恐ろしい妹だ。


「それが、実は……」


 結局僕は『偶然クロード卿と知り合って剣術を少し学んだが、自分がうっかりして傷を負った』と説明した。まあ、これなら別に嘘ではない。


「クロード卿って……まさかクロード・ケイン?」

「エリン、知っているのか?」

「うん、彼は……悪名高い『従者なき騎士』だよ!」


 『従者なき騎士』……本当にそう呼ばれていたのか、クロード卿は。


「私が聞いた噂では、クロード卿は昔何か凄く悪いことをして名誉が地に落ち、もう誰一人も彼の従者にはなろうとしないそうなの」

「そんな……一体何をしたんだ?」

「それは私にも分からない。でもアルビンお兄さん、彼には注意してね。もしアルビンお兄さんに悪いことでも起きたら、私は……私たちは……」

「お兄ちゃん……」


 エリンとアイナの瞳から心配と不安が感じられる。もし僕に本当に悪いことが起きたら、妹たちは……。


「分かった。お前たちのためにも注意する」


 大事な人々を悲しませることだけは絶対嫌だ……僕が死ぬよりも。


---


 しかし次の日、僕はまた彼に会った。


「よ、助手君」

「クロード卿……!」


 昨日と同じく、クロード卿がいきなり塔に入ってきた。


「……今日はどのようなご用件でしょうか」


 僕は彼を警戒しながら質問した。


「それがな、その……」


 ところがクロード卿は、昨日の堂々とした態度ではなく……どこか気まずい様子だった。


「その、すまないと思ってな」


 え?


「どうやら……俺はお前のことを妬んでいたみたいだ。お前がリナさんの恋人だと思ってな」

「それは……」

「それでお前が読んでいた小説を侮辱したり、素人のお前を無理矢理戦わせた。改めて考えてみたら本当に卑怯な行為だった」


 僕は内心驚いた。クロード卿は僕に謝っているのだ。


「け、結構です。むしろ自分はクロード卿から剣術を教わって光栄でした」

「いや、お前のために教えたわけでもないし……そのせいでお前は傷を負った。俺は本当に卑怯者だ。すまない」


 僕はまた驚いてしまった。今度はクロード卿が僕にむかって……頭を下げたのだ。


「ク、クロード卿! どうか頭を上げてください!」

「すまない、許してくれ」

「許します! 許しますから!」

「……ありがとう」


 クロード卿がやっと頭を上げた。そんな彼のかっこいい顔からは……昨日のような不遜な態度は感じられない。真面目さと誠実さだけが見える。

 僕は困惑した。悪名高い『従者なき騎士』が……平民の僕に頭を下げて謝ったのだ。これは一体……?

 何かの罠かもしれない。僕は人を疑うことも、物事の裏を読むこともできない。だから騙されやすい。それは自分でも分かっている。しかしそれでも……僕の目には……。


「ありがとうございます、クロード卿」

「……何?」

「僕なんかに剣術を教えてくださって、そしていろいろ気を使ってくださって……本当にありがとうございます」


 しかしそれでも僕の目には……この人が悪い人には見えない……!


「いや、俺はお前に感謝される覚えは一つもないんだが」

「いいえ……」

「……まあ、照れくさい話はここまでにしよう」


 クロード卿が苦笑する。


「それよりお前……魔導士様がいないから暇なんだろう?」

「はい?」

「今日も俺にちょっと付き合ってくれよ。俺、従者いないから寂しいんだ」

「しかし……」

「いいじゃないか。今日は勝負なしで、剣術だけちゃんと教えてやるからさ」


 結局僕はまた腕を掴まれて、塔を出ることになった。

 そのまま再び訓練場に入った僕は、クロード卿から基本的な剣術を学んだ。剣の握り方、足の動き、踏み込み、上段斬り……それを何時間も繰り返した。それは本当に楽しくて……充実した時間だった。

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