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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第5章.小さい女伯爵
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第48話.謁見

「あなたは……?」


 少女が大きい瞳で僕を見つめた。僕はしばらくその綺麗な青い瞳と見つめ合ったが、はっと気がついて少女の両手を離した。


「女伯爵様」


 傍からレオノラさんが口を開いた。


「彼は私の助手のアルビンというものです。治療のため、女伯爵様のお体に接触しただけなのでどうかご心配なさらないでください」

「魔導士様……」


 小さい女伯爵はレオノラさんと僕を交互に見つめた。その顔は……心配しているというより、ちょっと驚いているように見える。


「アルビン君。侍女たちにこのことを知らせて、医者を呼ぶように」

「はい!」


 僕は速やかに部屋を出て、外で待機していた侍女たちに女伯爵の目覚めを知らせた。すると彼女たちは医者を呼びに走っていった。

 しばらく待っていると、侍女たちが白い服を着ている中年の女性を連れてきた。この人が医者なんだろう。僕は彼女たちと一緒に再び女伯爵の部屋に入った。


「アネスさん」

「魔導士様」


 レオノラさんと医者の人が挨拶を交わした。


「ご覧の通り、女伯爵様がお目覚めになりましたが……大変衰弱していらっしゃいます。その辺をお願いいたします」

「かしこまりました」


 医者は早速女伯爵に近づき、診療を始める。


「ここからは医学の出番だね。アルビン君、私たちは塔に戻りましょう」

「はい」


 僕とレオノラさんは女伯爵に頭を下げて部屋をでた。小さい女伯爵はずっと僕の方を凝視したが、結局何も言わなかった。


---


 次の日の午後のことだった。

 レオノラさんの研究ために、僕は上半身を脱いだまま魔法に関する資料を読んでいた。


「ふむ……これだけ呪文を読んでも何の反応もないのね……」


 レオノラさんが呟いた時、いきなり塔の内部に誰かが入ってきた。


「魔導士様、アルビンさん」


 それはリナさんだった。僕は恥ずかしくなって、人生一番の速さで服を着た。


「急で申し訳ありませんが、私についてきてください」


 リナさんはいつもよりも真面目な顔だった。そのことに気付いた僕とレオノラさんは、何も聞かず彼女と一緒に塔を出た。


「まさか……」


 歩いているうちに、僕は目的地がどこなのか気付いてしまった。リナさんは……宮殿に向かって歩いている。

 3階建ての、白くて広い宮殿。ステンドグラスと女神たちの彫刻で飾られているそれは、間違いなく僕の人生の中で一番美しくて一番派手な建物だ。

 1週間くらい前から王城に住み始めたけど、宮殿には入ったことがない。いや、入ったどころか近づくことさえなかった。この美しくて派手な建物が何故か僕には怖く感じられた。

 二人の兵士が宮殿の正門を守っていた。二人とも相当な巨体だ。王城の守備兵たちの中でも一番屈強な人たちに違いない。その見るからに怖そうな兵士たちに、リナさんは堂々とした歩みで近づいた。


「王室魔導士のレオノラ様、そしてその助手のアルビンです」


 リナさんがそう言うと、屈強な守備兵たちは無表情でレオノラさんと僕の姿を確認した。そして沈黙の中で正門を開けてくれた。

 やがて宮殿に入ると……優しい眼差しで人々を見下ろしている、美しい女性の彫刻が見えた。慈悲の女神エイドリアだ。彼女の左右には広い廊下と階段がある。

 外部とは違って、宮殿の内部は意外とそこまで派手ではない。しかしどこも綺麗に掃除されている。侍女たちの働きのおかげだろう。

 宮殿に入ったってことは……やっぱり姫様に会いに行くのかな? 僕は姫様の美しい姿を頭に浮かべた。


「お二方は……」


 リナさんが歩きながら口を開く。


「これから国王陛下に謁見することとなります」


 こ、国王陛下に……!? 僕は耳を疑った。


「急なことではありますが、国王陛下は常にご多忙……今じゃなければいつ謁見できるか分かりません」


 その説明にレオノラさんが頷いた。こんな状況に慣れているのだろう。しかし僕は……。


「アルビンさん」

「は、はい!」

「正式な謁見ではありませんから、複雑な手筈は要りません。でも礼儀正しく行動するように」


 いや、でも……こんな急に……ちょっと心の準備が必要です! と僕は心の中で叫んだ。

 僕たちは宮殿の1階の隅の部屋まで行った。そしてリナさんが扉をノックすると、中から「入れ」という男性の声が聞こえてきた。


「失礼いたします」


 僕はリナさんとレオノラさんを追って部屋に入った。本棚が何台もある広い部屋……小説の中ではこんな部屋を『貴族の書斎』と呼んでいた。

 そして書斎の真ん中には広い机があり、そこには一人の男性が座っていた。宝石と黄金の王冠、赤と金色のローブ、威厳に満ちた顔立ち、聡明な光を帯びた瞳……つまり誰がどう見ても……この王国の支配者であるウイリアム・イーストリア国王陛下だ……!


「陛下」


 リナさんとレオノラさんが片膝を折って頭を下げた。僕も慌てて片膝を折った。


「王室魔導士のレオノラとその助手のアルビンを連れてまいりました」

「立ち上がって顔を上げろ」


 国王陛下の威厳に満ちた声に、僕たちは急いで立ち直った。

 緊張で額から汗が流れた。しかし僕は精一杯無表情を維持して、顔を国王陛下に向けたまま目を伏せた。


「事の顛末はヘレナから聞いた」


 国王陛下がおっしゃった。


「君たち二人の活躍でエリンが目を覚ましたそうだな」

「自分たちは、ただ姫様のご指示に従っただけであります」


 レオノラさんが答えると、国王陛下は首を横に振られる。


「謙遜はいい。君たちには近いうちに褒賞を与えよう」

「誠に感謝申し上げます」


 その時、国王陛下の眼差しが僕に向けられた。


「君が世界樹の実の持ち主か」

「はい!」


 緊張のあまり、僕は少し大声で答えた。


「しかし君は実の力を自由に使うことはできないらしいな」

「はい」

「残念なことだ。もし君がその力を自由に使えたら、次代の王室魔導士になれたものを」


 僕が……王室魔導士……!?


「それでも君が特別なのは事実だ。そのことを自覚しているのか?」

「は、はい!」


 反射的に答えたけど……正直に言うと、それは少し嘘だ。僕自身が特別だということが……未だに実感できない。


「力を持った者には、それ相応の責任が要求される。そのことを肝に銘じるように」

「はい!」

「よかろう。もう下がっていい」


 それで謁見が終わった。しばらくして宮殿の外に出た時、あまりにも緊張していた僕は思わずため息をついた。

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