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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第5章.小さい女伯爵
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第46話.新しい生活の始まり

 白と黒が混ざっているワンピース。女性らしさを出しているけど動きやすく作られているそれは……王城の侍女たちが着ていた服装だ。そして僕の目の前にいる二人が、その服装をしている。


「アルビンさん」

「お兄ちゃん!」


 元々姫様の侍女であるリナさんはともかく、アイナが……妹が白黒のワンピースを着ていた。それを見た僕は自分が裸だということを一瞬忘れてしまった。

 まだ田舎娘の印象が完全に消えたわけではない。しかしアイナは実の兄である僕でさえ驚くほど……可愛い少女になっていた。

 いや、もちろんアイナは元々可愛かったけど……それはあくまで兄としての感想だったはずだ。それなのに今のアイナは……誰が見ても可愛いとしか評価できないだろう、と思ってしまうほど可愛い。ただ服装を変えただけなのにこんなにも……。


「これ、お兄ちゃんの服!」


 アイナが僕に高級そうな青い服を渡してくれた。


「魔導士様のものと同じ色の服を選びました」


 リナさんが説明した。そう言えばレオノラさんは青いシルクの服を着ている。


「なるほど、これなら誰が見ても私の助手ですね! 流石リナさんです」


 レオノラさんが明るい声で言った。確かにこの王城でレオノラさん以外に青い服を着ている人は見かけていない。僕も青い服装をすれば、レオノラさんと関係のある人間に見えるだろう。


「身長に合うかどうか確認しなければならないから、早速着てみてください」


 リナさんの言葉に僕は目の前の3人の女性を見つめた。しかし彼女たちは動かない。


「その……一人にしてもらえませんか?」


 僕が目を伏せて話すと、レオノラさんが子供のように笑う。


「まさか恥ずかしいの? 私はもうアルビン君の裸を堪能したし、リナさんは男に興味ない鉄壁のような方だし、残り一人はアルビン君の妹さんでしょう? 恥ずかしがることないよ?」

「……いや、そういう問題ではないと思います」

「ふふ、分かった。じゃ、外で待ってるね」


 やっと3人の女性が部屋を出た。どうやらレオノラさんの助手をやっていれば、これからもずっとからかわれそうだ。僕は深くため息をついて、青い服を着た。

 これは……本当に高級な服だ。感触が柔らかいし、動きやすい。全体的に青いけど端は黒色で塗られていて何かかっこいい。こんなにいい服を着ることができるなんて……。

 着終えて部屋を出ると、広い廊下が見えた。3人の女性はそこで僕を待っていた。


「おお、なかなかかっこいいね」


 レオノラさんが笑顔で褒めてくれた。


「これなら流石のリナさんも興味を持つかもしれないね」

「そんなことはありませんが……まあ、よく似合いますね」


 リナさんが嘲笑うような口調で言った。


「お兄ちゃん、かっこいい!」


 最後にアイナが嬉しい顔で言った。


「ちょっと驚いた……いつものお兄ちゃんと全然違う!」

「じゃ、いつもはかっこよくないってことだな」


 僕は苦笑しながら答えた。


「皆さん、お腹空いていませんか? もう夕食の時間ですし、せっかくだから私の部屋で一緒に食べましょう」


 レオノラさんが提案すると、リナさんが頷く。


「姫様から自由時間も頂いたし……いいでしょう。食事をレオノラさんの部屋に運びます」


 レオノラさんの部屋はすぐ隣だった。僕の部屋と同じ広さで、本棚とタンス、そしてベッドとテーブルがある。窓辺にはいろんな植物が植木鉢に植えられているけど、あれはレオノラさんの趣味なのかな。

 やがてリナさんとアイナ、そして二人の侍女が大きな皿を何枚も持ってきた。どの皿にも食べ物がいっぱい盛られている。それが今日の夕食だろう。


「さあ、いただきましょう」


 二人の侍女が部屋を出ると、僕はレオノラさん、リナさん、そしてアイナと一緒にテーブルに座って食事を始めた。


「アルビン君、美味しいでしょう?」

「はい」


 パン、スープ、ベーコン、鶏肉、果物、ジュース……そこまで特別ではない食事だけど、意外と美味しい。たぶん料理を担当している人の腕前が凄いからだろう。


「アルビンさん」


 リナさんが話しかけてきた。


「今日からアイナさん、いや、アイナは私の下で侍女見習いとして働くことになりました」

「そうですか」


 王城の侍女になれるのは、貴族やお金持ちくらいだろう。アイナが見習いとして働くことは極めて例外的なことに違いない。


「王城で働くためには、ある程度の礼儀や知識を身に付けなければなりません。故に明日からアイナにそれを教育するつもりですが、アルビンさんも参加してください」

「僕も……ですか?」

「もちろんです。アルビンさんも今日から王城の働き手ですから」


 それは確かにそうだけど……リナさんに教育を受けるのは、ちょっと怖い気がする。


「まあ、私としてはアルビン君の純朴な田舎の青年って感じが好きだけど」


 レオノラさんが冗談めいた口調で言った。

 それからいろいろ世間話をしながら食事を済まして、各々の居所に向かった。僕はまず新しい自分の部屋で荷物を整理した。アイナからもらった靴下、コルさんからもらった弓、ケイト卿からもらった短剣、村長からもらった2冊の本、姫様の手ぬぐい、服と下着……そして生活に必要な用品などなど。

 整理が終わった後、部屋を出て男性用の共用浴室を探した。確かこっちだと聞いたけど……あ、ここだ。広い共用浴室を見つけた僕は、その中へ入った。


「やっと交代か、まったく」

「お前、明日には外出するんだろう?」


 熱いお湯が流れる共用浴室の中には、数人の男性が体を洗っていた。体格からして王城の守備兵たちだろう。僕は彼らと少し離れたところで静かに体を洗った。


「ふう」


 熱いお湯が気持ちいい。綺麗に洗った僕は共用浴室を出て、新しい自分の部屋に戻った。


「……やっぱり広いな」


 何年も狭い小屋で生活していた僕には、こんな広い部屋は少し落ち着かない。しかし慣れる必要がある。そう、新しい部屋と……新しい生活に慣れる必要がある。

 ベッドに横になった僕は、ろうそくの火を頼りに本を読むことにした。もちろん読むのは僕の大好きな小説『王国を守護するものたち』だ。

 この小説には騎士たちが王城の中で会話をしたり、美しい貴婦人と密会する場面がある。それを読んでいると改めてドキドキしてきた。大好きな小説の舞台で、僕の新しい生活が始まるのだ。

 やがて深夜になり、人々の騒音が聞こえなくなった後も……僕は興奮を抑えるために頑張った。

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