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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第5章.小さい女伯爵
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第44話.小さい手

 エリン・ダビール女伯爵は……6年前の戦争の勝者であり、パバラ地方の支配者である。本来なら僕みたいな田舎の平民は顔を会わせる機会すらない存在だ。

 しかし今、僕の目の前にいるのは……病弱な姿で死にかけている、小さな11歳の少女に過ぎない。


「ここは私とリナさんに任せて、あなたたちは席を外してください」


 魔導士のレオノラさんが、女伯爵の隣に立っている二人の侍女に指示した。しかし彼女たちは席を外す代わりに僕の方を怪しげに見つめた。


「魔導士様……そちらの男性は……?」

「この人は私の助手です。いいから急いでください」

「……はい」


 侍女たちが部屋を出た。それで部屋を中には僕とリナさん、レオノラさんと小さい女伯爵だけが残った。


「アルビンさん、いや、アルビン君」

「はい」

「エリン・ダビール女伯爵様の両手を……握りなさい」

「は、はい!」


 そう、今日この時間から……僕はレオノラさんの助手だ。指示に従って、この小さい女伯爵の命を助けなければならない。

 僕は大きなベッドに近づいて、膝を折った。そして小さい女伯爵の小さい両手を僕の両手で握った。真っ白く、柔らかい手……僕の手とは大違いだ。


「そのままじっとしていて」


 レオノラさんが僕の胸に手を付けた。すると彼女の体が光が出てきた。『魔法』を使っているのだ。

 いや、光が出ているのはレオノラさんの体だけではない。僕の体からも……光が出ている!


「一応発動には成功したわね」


 レオノラさんが頷いた。


「アルビン君」

「はい」

「今からあなたの体内の『世界樹の実』の力を引き出し、呪いを破って女伯爵様の治療を試みる」

「はい」

「力の制御は私がするけど、力自体はあなたの体から出て来るもの……ゆえにあなたの気力を強制的に消耗するはずよ。かなり辛いかもしれないけど、私が指示するまで手を離してはいけない」

「はい!」


 僕が答えると、レオノラさんと僕の体から出て来る光が強くなった。本格的に魔法が発動したんだろう。


「うっ……」


 いきなり目眩がして、同時に呼吸が難しくなった。まるで水に溺れたかのように……苦しい……!


「耐えなさい。手を離してはいけない」


 レオノラさんがもう一度言ったけど、僕には『はい』と答える余裕すらなかった。胸の苦しさがどんどん広がって、全身が震えてきた。1秒でも早くこの苦しさから解放されたい……!


「もうちょっとだけ……」


 つらい……手を離して楽になりたい……! でも離すわけには……。


「もうちょっとだけ!」


 気が付くと、ベッドに寝ている小さな少女の姿が……アイナになっていた。妹は目に見えない呪いに苦しんでいた。僕は妹を助けるために、気を失うその瞬間まで手を離さなかった。


---


 いつの間にか僕は暗い空間に立っていた。そして僕の前には、一人の少女が座り込んで泣いていた。

 アイナ……? いや、違う。身長や細い体形は似ているけど、この少女は妹ではない。


「ごめんなさい……全て……全て私の罪です……ごめんなさい……」


 少女は誰かに謝りながら、ひたすら泣いていた。泣き続けていた。

 何故謝っているんだろう。何故泣いているんだろう。少女の悲しい姿を見ていた僕は、どうしても助けてやりたくなった。


「あ……」


 ゆっくり近づくと、少女が涙に濡れた瞳で僕を見上げた。


「あなたは……?」


 少女の質問に答えず、僕はただ手を伸ばした。


「……助けて……くださるのですか?」

「ああ、もちろんだ」


 僕はなるべく優しい声で答えた。しかし少女はまた涙を流す。


「でも……全て私の罪です。私のせいで……多くの人々が……」


 その言葉に僕は首を横に振った。


「君みたいな子供にそんな大きな責任があるもんか。万が一そうであっても、それは君に責任を背負わせた大人たちの責任だ」


 少女は涙を止めて、少し驚いた表情で僕を見つめた。


「何か間違っていると自覚しているなら尚更だ。間違いを正すためにも、君はここで死んではならない。さあ、僕と一緒に行こう」


 僕は少女の大きな瞳を見つめた。少女は少しためらった後、僕の手を掴んだ。

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