第42話.到着
ケイト卿の率いる部隊は、都市ベルメを発って舗石道の上を進軍した。
平原を横切る広い舗石道……これが『王国の血管』と呼ばれる王都への道路だ。本で読んだことはあるけど、直接見るのはもちろん初めてだ。
『王国の血管』は数多の人々が、何十年もかかって作った道だ。そして作られたから数えきれないほどの人々がここを通って王都に向かった。まさに王国の歴史の証人といっても過言ではない。
僕はケイト卿の傍を歩きながら、『王国の血管』を通る人々を見つめた。商人団、旅人、そして兵士たち……いろんな人々が王都に、『王国の心臓』に向かっていた。
『王国の血管』の周りにはいくつかの村があって、王都に向かう人々のための宿を提供していた。これらの村にとって王都の存在は商売の手段でもあるのだ。
もちろん僕たちは村に泊まらないけど、食糧などの必要な物資を十分に供給された。おがけで進軍も結構楽になった。これも舗石道の力なのだろうか。
昼は進軍、夜は道路の隣に野営地を作って休憩……そんな日々を繰り返しているうちに、部隊は目的地の間近まできた。
「お兄ちゃん!」
アイナがお皿に盛られた夕食を持って僕の傍に座った。
「聞いたの? 明日には王都に着くんだって!」
一緒に夕食を食べながら、アイナは楽しそうな顔で話を始めた。
「ああ、聞いたよ。ついに到着だな」
「どういうところかな……ワクワクする!」
その気持ちは僕も同じだ。王都については本で何度も読んだけど、実際にこの目で確かめる日が来るとは。
しかし実を言うと、僕は少し不安も感じる。『世界樹の実』や『戦争の危機』など、解決しなければならない問題が王都で僕を待っている。
「お兄ちゃん」
「うん?」
「何か悩みがあったらいつでも相談に乗るからね」
アイナは真面目な顔だった。たぶん僕の表情を見て気持ちを感じ取ったんだろう。本当に気の利いた妹だ。
「ああ、分かった。もしお前が嫌だと言っても、本当にいつでも話すからな」
「うん! 任せて!」
たぶんアイナも不安を感じているはずだ。でも僕と一緒にいるからその不安に負けずにいられるんだろう。僕も見習わなければ。
アイナと一緒にいられて本当によかった。僕は心の中でもう一度姫様に感謝した。
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次の日、太陽が一番高くなった時……地平線の向こうから何かが見えてきた。それは……それはあまりにも巨大な……石壁だった。都市ベルメも石壁に囲まれていたけど、それとは比べ物にならないならないほど巨大だ。
「王都の壁……」
王都が巨大な石壁に守られているってことは、いろんな本で読んだ。しかしそれを実際に目の前にしたらその迫力に圧倒されてしまう。
近寄れば寄るほどその圧倒的な存在感は大きくなった。ベルメの城が巨人のような感じなら、王都の石壁は山々だ。もう人間の力ではどうすることもできないように感じられる。
そしてその巨大な石壁には巨大な門がついていて、大勢の人々が通っていた。彼らは大体いい服を着て、余裕のある表情をしている。
「王立軍の帰還だ! 王立軍の帰還だ!」
王都の門を守っていた衛兵たちが叫んだ。僕たちの旗を確認したのだ。門の前に並んでいた人々は、別に驚くこともなく王立軍のために道を空けてくれた。彼らにとってこういうことはもう日常なんだろう。
僕はケイト卿の傍で歩いて、王都の巨大な門を通った。やっと王都の姿をこの目で確かめる日が来たのだ。
「……ここは相変わらずだな」
ケイト卿がそう言った。僕にはその言葉の意味が分かるような気がした。
都市ベルメは、少し雑だけど『新しい活気』に満ちたところだった。しかし王都の雰囲気はそれとは全然違う。王都は……古風で、優雅で、壮大だ。
もう何百年前に建てられたような石造の建物が並んでいた。もしかしたらラべリア王国の歴史より古い建物があるかもしれない。僕のような若者には想像もできないほど長い年月を耐えてきて、それでもまだ美しさを失っていない優雅な老夫婦……それが僕の王都に対する印象だった。
多くの人々が店で取引したり、物を運んだりしているのはベルメと同じだ。しかし皆落ち着いた感じだ。住んでいるところの雰囲気が、人々の心にまで影響を与えているのだろうか。
「見えるか? あれが王城だ」
ケイト卿の声を聞いて、僕は正面を見つめた。そこには真っ白な塔があった。そしてその塔の下には、王都の印象をそのまま体現したような……古風で、優雅で、壮大な城が建っていた。あれが……『王城』。
やっぱりベルメの城とは全然違う感じだ。ベルメの城は実用的で、直線的で、男性的だった。しかし王城は審美的で、曲線的で、女性的だ。ベルメの城が『逞しい』なら、王城は『美しい』。
美しい城が近くなるほど、僕の胸の鼓動が激しくなっていった。何しろこの美しい城が……今日から僕の『家』だからだ。





