第39話.城
都市には大きな建物がいっぱいあるけど、その中でも群を抜いて大きいのはやっぱり城だ。遠くからも威容が感じられるベルメの城を近くで見ると、まるで大きな巨人を目の前にしたような迫力がある。僕はその迫力に完全に圧倒された。こんな巨大な建物を、一体どうやって人間が建てたんだろうか。
城の尖塔は空を刺すように高くて、正門は荷馬車すら簡単に通られるほど大きい。正門の上の壁には剣と盾を持っている美しい女性……つまり『戦の女神カルニア』の姿が精巧に刻まれている。
城自体は広い水路に囲まれていて、橋を渡らなければ進入できないようになっている。これがこの城の『堀』なんだろう。戦争が起きたらここの橋を上げて敵の侵入を防ぐわけだ。
そう、この屈強な城が建てられた理由は一つしかない。戦争に備えるためだ。ベルメの城は敵を防ぐための巨大な盾なのだ。
僕はケイト卿や5人の兵士と共に橋を渡って、城の正門を入った。厚い城壁の内部には広い空間があって、そこにいろんな建物が建っていた。
「ケイト卿、伯爵様は主塔の2階にいらっしゃいます」
「ああ、分かった」
ケイト卿は馬から降りて手綱を警備隊に任せた後、正面に見える大きい塔の方へ歩き始めた。なるほど、あれがこの城の主塔か。確かに小説『王国を守護するものたち』の中でも騎士たちが城の主塔に集まって作戦会議をする場面があったな。僕はケイト卿の後ろを追いながら小さく頷いた。
主塔の前には2人の背の高い男性が立っていた。彼らは鎖の鎧を着て長い槍を持っている。つまり彼らは治安維持のためではなく戦争のための装備を身につけているわけで、警備隊ではなく城の守備兵に違いない。
「白金騎士団所属のケイト・ブレンだ」
ケイト卿が名乗ると2人の守備兵は「はっ!」と答えてから主塔の扉を開けた。僕たちはその中に入って階段を登った。
塔の内部は暗かった。窓が小さくて日差しがあまり入らないのだ。なるべく注意しながら2階に登ると、大きな扉とそれを守っている1人の守備兵が見えた。守備兵はケイト卿の姿を見てすぐ扉を開けた。僕たちは1人ずつ扉の中に入った。もちろん僕が最後だ。
扉の中は広い部屋で、6人の男性が集まっていた。その中でも一番目立つのは窓際に立っている男性だった。その男性は黒色の高級な服を着ていて、右手には宝石のついた指輪をしている。背が高くて、肩幅も広い。顔は男前で、軽々しく近づけない威厳がある。そう……まるでこのベルメの城みたいな人だ。
「半月ぶりですね、ケイト卿」
窓際の男性が言った。するとケイト卿が軽く頭を下げた。
「はい、いつもお世話になっております。メイスン伯爵様」
やっぱりこの男性がベルメの支配者、メイスン伯爵だった。まあ、当然だな。どう見てもここで一番偉い人だし。
メイスン伯爵以外の5人の男性はみんな兵士か士官に見える。少なくとも軍人であることは違いない。
「さあ、座って下さい」
「はい」
ケイト卿は部屋の中央の大きなテーブルに座った。メイスン伯爵はケイト卿の真正面に座った。僕と5人の兵士たちは部屋の隅に行って、そこで並んで立った。
「おい、誰かケイト卿の部下たちのための椅子を持って来い」
メイスン伯爵の命令に3人の男性が「はい」と答えて部屋を出た。そしてすぐ6つの椅子を持って帰った。
「君たちも座ってくれ。長い旅に疲れたはずだ」
「ご配慮感謝いたします」
ケイト卿が僕たちを代表して答えた。そういう配慮は本当に助かる。足が結構疲れたので座れるのは嬉しい。
「それで、ケイト卿……古代エルフの遺跡の探索は終わりましたか?」
「はい、これから王都に帰還して報告する予定です」
「何か成果はありましたか?」
「小さな遺跡だってので、これといった発見はありませんでした」
「それは残念ですね。せっかく白金騎士団の騎士が自ら動いたのに」
メイスン伯爵とケイト卿の本格的な会話が始まった。僕は息を殺して耳を澄ました。
「成果はありませんでしたが、部隊の訓練にはちょうどいい探索でした」
「なるほど……王立軍の中でも女性だけで編成された部隊、つまり姫様が将来女王様になった時のための親衛隊を養成なさっているんですね」
「流石メイスン伯爵様、情報が早い」
そういうことだったのか……! 女性だけで部隊を編成したのは、未来の親衛隊を養成するためだったんだ……! 僕は必死に驚きを隠した。
「確か2百年くらい前にもありましたよね。女性だけで編成された、『女王の親衛隊』が」
「はい、我が王国の歴史の中で唯一の女王であるタリア女王陛下が、女性だけの親衛隊を率いたという記録があります」
なるほど、そういう歴史があったのか……全然知らなかった。そもそも僕の知識は偏っているから仕方ないけど。
「それで、未来の親衛隊の隊長はやっぱりケイト卿ですか?」
「それはまだ決まっておりません」
「ふふ、謙遜なさるんですね。白金騎士団の唯一の女騎士であるケイト卿以外に適任者がいるはずがないのに」
「……それよりメイスン伯爵様、補給物資についてお話ししたいと思いますが」
「あ、これは失礼しましたね」
メイスン伯爵が苦笑いをした。
「前回と同じく、荷馬車を使ってこの城の倉庫から物資を持って行ってください、ケイト卿。部下たちに手配させておきますから」
「ご協力、ありがとうございます。代金は王都に帰ったら人を送ってお支払いいたします」
「いや、お金を払う必要はありませんよ。前回の分も含めて私からのお土産ってことで……」
「そこまでご迷惑をかけるわけには参りません。代金は必ず支払わせて頂きます」
「やれやれ、頑固なお方だ」
メイスン伯爵がまた苦笑いをした。その時、部屋の扉が開いて一人の女性が入ってきた。