表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第4章.王都へ
38/131

第38話.都市

 朝早くから進軍して、坂道を登り切った時……それが視野に入った。


「あれは……」


 平原の真ん中を大きな川が横切って、その川を囲む形で数えきれないほどの建物が並んでいる。デイルより数十倍くらい大きい村……いや、そもそもあれは村ではない。


「あれは『ベルメ』だ」


 馬に乗っているケイト卿がそう言ってくれた。そう、あれは僕が生まれて初めて見る都市……ベルメだ。

 都市は大きいってよく聞いたけど、ベルメの姿は僕の想像を超えていた。あの大きさなら本当に数万人が住んでいてもおかしくない。そんな大勢の人が一つの場所に集まって、田舎より遥かに複雑な生活を送っているに違いない。

 都市の中央には大きな石造の建物が建っていた。あれは間違いなく『城』だろう。小説の挿絵とよく似ている。

 あの夜見たエルフの神殿も大きな石造の建物だったけど、暗くてよく見えなかった。しかしベルメの城は太陽の下に堂々とその姿を表していて、遠くからもその威容が感じられる。黒い石の壁はとても頑丈そうで、城全体がまるで一つの巨大な岩のようだ。

 やがて部隊は都市から少し離れた丘に登って、そこで進軍を止めた。


「ヒルダ!」


 ケイト卿の呼び声に、ヒルダさんが駆けつけてきた。


「私はこれからメイスン伯爵に会いに行く。部隊の統率はお前に任せるぞ、ヒルダ」

「かしこまりました」

「シル、リン、ロニ、エイダ、ケイ!」


 今度は5人の兵士たちが素早い動作でケイト卿の前に集まった。


「お前たちは私と共に行く」


 5人の兵士たちが口を揃えて「はい!」と答えた。彼女たちはこの部隊でも最古参で、エルフの神殿を探索した時ケイト卿と一緒だったあの5人だ。


「残りはここで野営地を作るように」


 僕を含めた残りの全員は野営地を作る準備に入った。ところでその時、ケイト卿が僕に声をかけた。


「アルビン君」

「はい!」

「どうだ、城に行ってみたくないか?」


 数秒後、やっと質問の意味を理解した僕は急いで答えた。


「い、行ってみたいです!」

「よかろう、君もついてこい」

「かしこまりました!」


 僕はケイト卿、そして5人の兵士たちの後ろについて歩いた。胸が弾んできた。まるで都市と城が僕の訪問を待っているようだった。


---


 大きな道を辿って都市『ベルメ』に近づくと、向こうから2人の男性が駆けつけてきた。彼らは革鎧姿で剣を持っていた。多分ベルメの警備隊なんだろう。


「失礼いたします!」


 2人の警備隊は片膝を折って頭を下げた。


「白金騎士団のケイト卿でいらっしゃいますか?」


 その質問にケイト卿が「そうだ」と答えると、警備隊はまた頭を下げた。


「伯爵様が城でお待ちになっておられます。どうぞこちらへ」


 ケイト卿と5人の兵士たち、そして僕は警備隊の案内に従って道を進み、小川の小さな橋を渡って都市に進入した。

 都市へ一歩踏み出した瞬間、僕は周りの風景に思わず息を呑んだ。祭りでもないのに何十人の人々が並んで、食料を取引したり木箱を運んだりしている。市場でも開かれたのか? いや、違う……ここはこれが普通だ。ここはいつもこんなに活気溢れるところなんだ。

 田舎では珍しい石造の建物がここにはいっぱいある。しかもたまに2階建てとか3階建ても見える。まさかこんなにも差があったとは……。

 都市の中央に向かう大通りの両側にはいろんなお店が並んでいる。果物を売っているお店、パンを売っているお店、服を売っているお店……お店自体は大きな村で見たことがあるけど、こんなにいろんな種類のお店が並んでいるのは初めて見た。なるほど、だからお金さえあれば大体のものは手に入れることができるんだな。

 そのいろんなお店の中には、何を売っているのかよく分からないところもあった。何か若くて美しい女性が派手な服装を着て店の前に座っているけど、商品はどこにもない。一体何なんだろう、あれは。

 ……あ! まさかあの女性は……娼婦なのか? 都市にはそういうところもたくさんあるっておじさんたちが話してくれた。そうか、あそこが……。

 生まれて初めて見る都市は、僕のような田舎者にはあまりにも刺激的で、あまりにも複雑なところだった。そのせいなのかちょっと目眩がしてきて、僕はよそ見せず前だけを見て歩くことにした。ちょっと情けないけど仕方がない。僕が一日で受け入れるには、この世はあまりにも広いから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼クリックで応援よろしくお願いします! - 『書く猫』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ