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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第4章.王都へ
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第34話.リナ

 僕とリナさんは、野営地からちょっと離れた場所まで行った。


「この辺なら誰かに聞かれる心配はなさそうですね」


 月が明るくて、ランタンとか松明がなくてもリナさんの姿がよく見える。彼女も本当に美人だ。黒い髪と黒い瞳、そして目の下のほくろがとても魅力的だ。


「それで……何のご用件でしょうか」


 僕の質問にリナさんはニヤリと笑ってから答えた。


「姫様について、アルビンさんにちょっと忠告したくて」

「忠告……ですか?」

「はい」


 何の忠告だろう。まさか知らないうちに僕が何か失礼でもしたのかな。


「姫様は一見箱入りのお嬢さんに見えますが……実はいろいろ苦労をしたお方です」

「そうですか」


 それと僕への忠告とどんな関係があるんだろう。ちょっと理解できないけど黙って話を聞くしかない。


「特に姫様は幼い頃、修道院で7年もお住まいになったので素朴な生活に慣れていらっしゃいます。姫様の食事を見ればアルビンさんも分かるでしょうけど」


 確かに姫様は僕の想像とは違う。兵士たちと同じ食事をする姫様なんて聞いたこともない。


「国王の一人娘で、美しくて優しくて、平民にも親切に接する。その上に贅沢せず素朴で、お金は王国のために使う。まさに童話の中の姫様のようでしょう?」

「本当にそうですね」

「ふふふ……でも事実を言うと、姫様はたくさんの人々から非難されていますよ」

「はい?」


 姫様が非難されている? まさか……。


「それは姫様が『世間知らず』だからです」

「そんな……」


 そんなはずがないじゃないか。あの年であんなに聡明な女性は見たこともないし、僕にもアイナにも親切な姫様が『世間知らず』だなんて、そんなはずが……。


「ふふ、信じられないって顔ですね。でも事実ですよ。例えばさっきの夕食のこと」

「夕食に何か問題でもありますか?」


 僕はちょっとだけ声を上げた。


「姫様は軽い気持ちでアルビンさんを夕食に招待なさいましたが、考えてみてください。平民のあなたが姫様の前で気楽に食事できるはずがないでしょう?」

「それは……」


 それは……確かにそうだ。僕もアイナも姫様の前だからちょっと自重しながら食べた。二人きりで食事する時は本当に楽しく食べるのに。


「でも、ただそれだけのことで……」

「それに、一国の姫が兵士たちとまったく同じ食事をしていることが人に見られたら、権威が落ちますよ」

「権威?」

「はい、平民のように行動すれば平民のように扱われる。つまり舐められるんです」


 リナさんは微かに笑いながら説明し続けた。


「平民と貴族の間には壁があります。しかしたまに姫様のような『世間知らず』がその壁を認識できず、まるで平民のように行動する。それでは貴族たちから品のない人だと非難され、平民たちはつけあがります」


 僕は言葉を失った。リナさんの美しい瞳が、まるで凶器のように鋭く輝いた。


「平民の子供が進軍を邪魔したのにも何の処罰もない……それでは王国の秩序が乱れる。田舎の男爵だってそれくらいは知っているはずなのに」


 僕はデイルの領主であるロナン男爵を思い浮かべた。彼は小さな過ちも絶対に許さなかった。だから誰一人もロナン男爵の命に逆らえなかった。そう、それが普通だ。


「分かりましたか? アルビンさんは一応姫様の『お客様』なので危害を加えるつもりはありませんが、どうぞつけあがらないでください。これが私からの忠告です」


 リナさんは僕を残して野営地に帰った。一人になった僕は、うなだれたまま地面を見つめた。

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