第33話.初めての夜
ヒルダさんの指示で、僕は兵士たちと同じ天幕を使うことになった。
「あの……失礼します」
僕は僕の革鞄と弓を持って、天幕に入った。天幕の中にはランタンの光の下、3人の兵士たちが普段着の姿で何か雑談をしていた。
「あ? 何だ、お前?」
僕の姿を見た兵士たちは雑談を中止して、僕に怪しむ眼差しを送ってきた。当然のことだ。3人の女性がいる天幕にいきなり男が入ったんだから。
「あの、ヒルダさんから今日はここで泊まるように指示されまして」
僕の答えを聞いた兵士たちは、中止された雑談を再開した。
「くっそ、3人ならともかく4人では狭いのに」
「別にいいだろう。何ならこの子に抱きついて寝ればいいわけだし」
兵士の一人が僕を指さしながらそう言った。
「まあ、それも悪くはなさそうね」
「あら、あんたの婚約者にちくっちゃうよ?」
何か凄い会話が始まった。僕はどう反応すれば分からなくて、天幕の入り口で棒立ちになった。
「ほら、棒立ちになってないであっちに座りな」
「は、はい」
僕は天幕の隅の敷物に座って、革鞄と弓を横に置いた。今日はこの敷物の上で寝ればいいんだろう。
「ふぅん、この子、よく見るとちょっとかわよくない?」
兵士たちが僕の顔を凝視した。僕はまるで狼を目の前にした羊のような気持ちだった。
「そうね、今夜食べちゃおうかな?」
「おい、そんなことしたらヒルダに殺されるぞ」
「でもさ、ここんとこ男と縁がないから寂しいんだよ」
この場から逃げたい。しかし体が動かない。召喚獣と戦った時もこんなに怯えなかったのに。
「くそ、獲物が目の前にいるのに……」
「その話はもういい。洗いに行こう」
「分かったよ」
3人の兵士たちは着替えとタオルなどを持って天幕から出た。多分体を洗うために川岸に行ったんだろう。これで僕は危機から助かったのだ。
いや、こうしている場合ではない。僕も洗わなきゃ。明日も今日のように川の隣で野営すると決まったわけではないから、今日きちんと洗っておく必要があるんだ。そう考えた僕は革鞄から着替えと石鹸を持ち出して天幕から出た。
外に出たら兵士たちが野営地の中央の焚き火に集まっているところが見えた。川の水で洗った後、焚き火で体を温めているんだろう。僕は急いで川岸に向かった。
……が、川岸にはさっきの3人の兵士たちが、ほぼ何も着ていない状態で体を洗っていた。僕は彼女たちからなるべく遠い場所まで行くしかなかった。
「ふう」
僕は溜息を吐きながら体を洗った。何でこんなことになってしまったんだ? いったい何で僕は逃げなければならないんだ? いくら考えても答えなんて見つからない。
寒い。もう夜だし、川の水で体を洗うのは流石に寒すぎる。しかしここは我慢するしかない。さっさと洗って焚き火に行こう。
やがて僕はタオルで体を拭き、服を着て焚き火へ走った。焚き火の周りの兵士たちが好奇の目で僕を見つめたが、今は寒くてそんなことまで気にする余裕はない。
「アルビンさん」
誰かが後ろから話しかけてきた。正直今は寒くて無視したいけど、流石にそれはできない。後ろを振り向くと美しい女性が見えた。
「リナさん」
リナさんは夕食の時とは違う服を着ていた。多分僕と同じく川の水で体を洗ったんだろう。
「アルビンさんにちょっと話したいことがありまして。ついてきてくれませんか?」
「分かりました」
一体何の話なんだろう。僕は疑問を抱いたまま、リナさんと一緒に歩いた。