表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第4章.王都へ
32/131

第32話.夕食

 僕はリナさんと一緒に馬車の隣の天幕に入った。

 天幕の中には絨毯が敷かれていた。見るからに高級そうな絨毯だ。そしてその絨毯の上に姫様とアイナが座っていた。天幕の中央にはランタンがぶら下がっていて、二人を照らしていた。


「お兄ちゃ……」


 アイナは一瞬明るい顔になって僕を呼ぼうとしたが、すぐ黙り込んだ。雰囲気を読んで自制しているようだ。


「アルビンさん」


 妹の代わりに姫様が僕を呼んだ。僕はお皿とコップを地面に置き、片膝を折って頭を下げた。


「どうぞお座りになって下さい。前回も言いましたけど、ここは王城ではありませんから」

「はい」


 僕は絨毯の上に座った。


「アルビンさんといろいろお話したいことがありますので、せっかくだから一緒に食事でもしながら、と」


 そう言えば姫様とアイナの前には小さなテーブルがあって、その上には干し肉や果物などがあった。多分これが姫様の食事だろうけど、これでは兵士たちの食事とまったく同じだ。姫様だからもうちょっと高価な食事をするんじゃないかなって思ったけど。


「さあ、アルビンさんも一緒に」

「はい」


 僕は僕のお皿をテーブルの上に置いた。そしてリナさんが僕の傍に座り、みんなの夕食が始まった。

 姫様とリナさんは主に果物を少しずつ食べるだけで、アイナはパンを静かに食べた。思いっきり干し肉を食べるのは僕だけだ。


「実は……」


 姫様が食事を一時中断して話を始めた。


「アイナさんにはもう私のことについてご説明いたしました」

「そうですか」


 やっぱりそうだったか。アイナが妙に大人しすぎるからそうじゃないかなとは思っていた。姫様の正体を聞いて相当驚いたはずだ。


「それでアルビンさんが王都に滞在なさる間はアイナさんもリナの仕事を手伝って、王城にお住まいになった方がよろしいかと」


 アイナは自分のことが話題になると顔が真っ赤に染まった。


「アイナさんはもうこの意見にご同意なさいましたが、お兄さんの許可が必要だと仰いました」


 僕の許可か。アイナが言いそうなことだ。


「それでお聞きしたいのですが、アルビンさんのお考えはいかがでしょうか」

「妹がそうしたいと言ったなら僕に異存はありません」


 僕としてもアイナが近くにいればそれだけで心強い。王城での生活についてはよく知らないけど、少なくとも田舎の小屋よりはいいだろうし。


「それでは決定ですね」


 姫様が笑顔を見せた。本当に美しい笑顔だ。

 それから姫様といろいろ話した。主にアイナについてだった。アイナは急に村を出てしまったので着替えや必要なものを持っていないから、兵士たちに頼んで近所の村からいろいろ買ってくるってことだ。僕としては姫様の心遣いに感謝するだけだった。

 やがて食事と会話が終わった。アイナのことはひとまず安心してもよさそうだった。僕は姫様に深く頭を下げた後、天幕から出た。

 外はもう暗くなっていた。食事を終えた兵士たちが川岸でお皿を洗っていた。僕も僕のお皿を洗って、馬車の荷台の中に載せた。軍隊の食事ってこんな感じだな。


「お兄ちゃん」


 いきなり妹の声が聞こえた。いつの間にかアイナが傍に立っていた。僕は思わず大声を出してしまいそうだったが、我慢して妹を野営地からちょっと離れたところまで連れて行った。


「ごめんなさい」


 二人きりになったら、アイナが泣きそうな顔でそう言った。僕は苦笑いをした。


「こいつ……あんまり無茶するなよ」


 あの突発的な行動は本当に無茶だった。あれは姫様が寛大なお方だから許されただけで、普通なら厳しい罰を受けたはずだ。でも普段は素直なアイナがそんな無茶をしてしまったのは、僕と絶対に離れたくなかったからだ。その気持ちを僕は理解している。


「二度とあんな無茶しては駄目だぞ」

「うん」

「姫様にはしっかりと許しを求めたのか?」

「うん」

「まあ、姫様が寛大なお方だから無事に済んだな」

「うん……」


 アイナは頭を下げて自分の足元を見ていた。僕はそんな妹の頭を撫でてやった。


「でも……お前のその無茶のおかげで一緒にいられるな」

「うん……!」


 アイナの顔が明るくなった。それで僕の心も明るくなった。


「お前、姫様のことを聞いて気絶しなかった?」

「気絶しそうだったよ! 本の中の姫様より美しくて優しい!」


 明るくなったアイナは姫様について話し始めた。アイナは普段から姫様という存在に憧れていた。僕がケイト卿を初めて見た時以上に興奮するのも無理ではない。


「お兄ちゃん、私、姫様のところに戻らなきゃ駄目だから、後でまた話しましょうね!」


 憧れていた姫様の下で働くことになって、アイナは余程嬉しいようだ。本当によかった……と思いながら僕はアイナの後ろ姿を見守った。

 これから先、一体何が待っているのか……僕には正直分からない。しかしアイナが傍にいてくれるなら、僕は明日に立ち向かえる。その事実がとても嬉しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼クリックで応援よろしくお願いします! - 『書く猫』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ