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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第4章.王都へ
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第31話.村の外で

 夕べになって、王立軍は大きな川の近くで進軍を止めた。今日はここで夕食を済まして野営するのだ。

 女兵士たちは荷馬車から野営に必要な天幕などを持ち出した。僕も彼女たちを手伝った。天幕を張る方法はよく分からないけど、物資を運ぶことくらいは出来る。

 ふと周囲を見回したら、アイナの姿が視野に入った。アイナも馬車から降りて何か仕事を手伝っていた。顔はよく見えないが、いつもの明るい妹に戻っているようでちょっと安心した。声をかけたかったが仕事が忙しくてそれはできない。


「アルビン君!」


 ケイト卿が僕を呼んだ。僕は仕事を一時中止してケイト卿に近づいた。


「はい、お呼びですか」


 ケイト卿の傍にはとても背の高い女性がいた。ケイト卿も背が高いけど、この女性は僕よりも頭一つくらい背が高い。多分この部隊の誰よりも背が高い。


「紹介しよう。こっちは私の従者の『ヒルダ・ルセル』だ」


 そうか、この人がケイト卿の従者なんだ。


「よろしく頼む」


 ヒルダさんが無表情で言った。僕は急いで頭を下げた。


「アルビンと申します。よろしくお願いいたします」


 僕の挨拶を聞いてもヒルダさんは無表情だった。正直ちょっと怖いけど、無愛想なところがコルさんに似ているから何か親しみも感じる。年は20代半ばくらいかな?


「ヒルダはまだ従者だが来年には騎士に昇格することが決まっているし、戦闘経験も十分にある立派な軍人だ。だから君も普段はヒルダの指示に従ってくれ」

「分かりました」


 まだ若いのに来年にはもう騎士か。正直羨ましい。


「それじゃ、私は仕事が残っているから」


 ケイト卿がその場を去った。それで僕はヒルダさんと二人きりになった。


「君は昨日まで羊飼いだったな」

「はい」


 ヒルダさんの言葉が妙に心に残った。昨日までは羊飼い……か。


「動物の扱いには慣れているんだろう? ではケイト卿の馬のお手入れを手伝ってくれ」

「はい」


 馬と羊は大きな差があるから羊飼いの経験なんて役に立たないだろうと思うけど、頑張ってやるしかない。僕はヒルダさんと一緒に馬を川岸まで連れて行った。そして川の水と毛払いを使って馬の体を洗った。

 ケイト卿の馬は、勇猛な騎士に似合う大きい軍馬だけど大人しい。よく訓練されたせいなんだろう。僕としては仕事がしやすくて助かる。


「次はケイト卿が使う天幕の準備だ。これは私の指示通りやればいい」

「分かりました」


 僕はヒルダさんを手伝って、まず柱になる木の棒を地面に固定した。そしてその周りの地面に釘を打ち込み、紐で結んでから屋根を張る。それで簡単な天幕が完成した。


「これでいい。もう食事の時間だ。配給をしている兵士に言って君の分をもらうように」

「はい」


 何時間も歩いた後、仕事もしたから当然の如くお腹が空いた。僕は野営地の真ん中に近づいた。そこで二人の兵士が人々に大きなお皿とコップを配っていた。


「さあ、これが今日の夕食」

「ありがとうございます」


 大きなお皿には固いパン、干し肉、果物などが盛られていて、コップにはジュースが入っていた。羊飼いの食事とあまり変わらないけど、量は十二分だ。軍隊の食事だけに質より量ってことかな。まあ、僕は元々貧乏だから量さえあれば味なんてあまり気にしない。

 しかし……どこで食べようかな。できればアイナと一緒に食べたいけど、アイナは姫様やリナさんと共に行動しているはずだ。やっぱり一人で食べるしかないかな。


「アルビンさん」


 すぐ傍から声が聞こえた。振り向いたら侍女のリナさんだった。


「どうぞ私についてきてください」

「は、はい」


 僕はお皿とコップを手にしたまま、リナさんの後を追った。

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