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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第3章.旅立ち
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第28話.村長

 旅支度を終えた僕は、まず村長の家を訪ねた。


「アルビンか、入ってくれ」

「はい」


 村長の家はいつもと同じだった。素朴な家具と整理された本棚が村長の人物像を表している。


「話なら聞いた。王立軍の雑務員として雇われて、騎士様と一緒に王都に行くことになったんだって?」

「はい。移住税は後でケイト卿の方からロナン男爵様に直接支払う予定です」


 僕みたいな平民は、住む場所を変える時『移住税』というものを支払う必要がある。今回の場合はケイト卿がそのお金を負担してくれることになった。


「そうか。まあ、王立軍の雑務員なら待遇もそれなりにいいだろうし……よかったな」


 村長は何度も頷いた。


「村長、それで……アイナのことですが」

「アイナのことなら心配しなくてもいい。ジョイスの家で世話をすることになったし、騎士様から生活費ももらった」

「そうですか?」


 ジョイスさんはアイナの友達であるメアリちゃんのお母さんで、アイナに裁縫を教えてくれている人だ。そうか、もう話がついていたのか。


「アイナはうちの村で一番明るい子だし、お前が命より大切にしている妹だからな。お前に心配かけないように、村の人々が大切にするさ」

「ありがとうございます」


 僕は深く感謝した。思えば、村長がいなかったら僕とアイナはとっくに死んでいるかもしれない。親みたいな人だと言っても過言ではない。


「あ、そうだ。お前に渡したいものがある」


 村長は本棚から2冊の本を取って僕に渡してくれた。それぞれ『王国を守護するものたち』と『古代エルフの歴史』だった。


「私からのお土産だ」

「い、いいんですか? 村長の大事な本を僕に……」

「いいんだよ。本は飾り物ではない。読んでくれる人が必要だ」


 村長が本を大事にしているのは僕が一番よく知っている。それなのにこんな高価な本を2冊も……。


「アルビン、私はお前にちょっと期待している」

「期待……ですか?」

「ああ、お前は平民でまだ若いのに難しい本が読めるし、弓の腕も素晴らしい。そして何よりも任されたことは責任をもって誠実にこなす。だから私はお前がいつかは出世して、士官か役人になれるんじゃないかなって思っている」


 僕がそんなに期待されていたのか。何かちょっと恥ずかしい。


「お前が王都に行ってしまうのは残念だけど、それがお前にとっていい機会になるかもしれない。だからこの先、辛いことがあってもくじけずに頑張ってほしい」


 村長はいつもより優しい声だった。


「まあ、お前は私の大事な読書仲間でもあるからな。お前が出世したら私も少しは自慢できるだろう。歳が歳だから、お前が出世した頃には私はもうこの世を去っているかもしれないけど」


 村長が笑った。ここ数年で、村長は完全に白髪になってしまった。僕が小さかった頃はまだ黒髪が残っていたのに。


「王都での生活に飽きたらいつでも戻ってこい。この村はいつも人手不足だからな」

「はい、いつかは……必ず戻ってきます」


 僕は両手を胸の前で合わせて、深く頭を下げた。


「色々とありがとうございました、村長」


 いつかはこの村に戻って、またアイナと村のみんなと一緒に暖かい日々を過ごそう。僕は心の中でそう誓った。

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