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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第3章.旅立ち
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第27話.決心

「確か……領土紛争だとお聞きしました。東の……パバラという地方の」

「左様です。パバラ地方の領主であるダビール伯爵の死後、その継承権をめぐる紛争が6年前の戦争の原因でした」


 姫様の顔がちょっと冷たくなった。戦争のことを思い出しているからだろうか。


「本来ならダビール伯爵の一人娘であり、私の従妹でもあるエリン・ダビールが領土を継承するべきでしたが、ダビール伯爵の弟であるアンセル・ダビールがそれに不満を持ち……カルテア王国の力を借りて戦争を仕掛けてきました」


 つまり姪のものを奪うために叔父さんが戦争を仕掛けたってことだ。とんでもない話だ。当時の僕はアイナと生き延びるために精一杯で、戦争の原因なんか気にする余裕もなかったけど……。


「約一年間続いた戦争は辛うじて我が王国の勝利に終わり、エリン・ダビールがパバラ地方の領土を受け継いで、女伯爵になりました」


 そう、戦争は我が王国が勝った。それで問題は解決したんじゃないのか?


「しかしエリン・ダビールはまだ幼い歳だから領土の支配は親戚に任せて、成人になるまで王都で教育を受けることになりました。これはあの子を暗殺から守るためでもあります」

「暗殺……」

「はい。もしエリンが暗殺されたらアンセルは一度放棄した自分の相続権を再び主張して戦争を起こすでしょう。その可能性が極めて高いから、あの子を王城で保護しているわけです」

「あ、あの……」

「何か質問がありましたら気軽に聞いてください」


 姫様が僕の意図を読んで、配慮してくれた。


「あの……そのエリン・ダビール女伯爵は、現在おいくつでしょうか」

「現在11歳です」

「そんな……」


 アイナと同い年……つまりまだ子供だ! そんな子供を殺して戦争を起こそうとしている人がいるなんて……貴族たちの権力争いについては何度か聞いたけど、本当に酷い話だ。


「幸いなことにエリンはこの6年間戦争の恐怖を克服し、健康で明るい子になってくれました。しかし……」


 姫様の美しい顔が少し暗くなった。


「今年の1月、エリンは突然病にかかって倒れました。それで今は……歩くことさえままならない状態です。このままだと……あの子は近いうちに命を亡くして、我が王国は再び戦乱に巻き込まれるでしょう」

「そんな……」


 幼い子供が病にかかって死ぬのは悲惨なことだ。そして子供の死で戦争が起きることは更に悲惨だ……。


「王都の医者たちが診療しましたが、治療どころか病の原因すら把握できませんでした。何故ならそれは単なる病ではなく……呪いだったからです」


 姫様が軽く唇を噛んだ。


「呪い……ですか?」

「はい、魔法による呪いがあの子の命を蝕んでいるのです」

「呪いでそう簡単に人を殺せるんでしょうか?」


 そんなに呪いの力が強かったら、戦争なんて要らないんじゃないかな。敵を全部呪いで始末すればいいじゃないか。


「普通はできません。今の時代の魔法って、そんな何でもできる奇跡ではありませんから。しかしその呪いは今の時代の魔法とは違うものです」

「では……古代エルフの……」

「はい。その呪いを調査した結果、現在は消失してしまった『本当の意味での魔法』……つまり古代エルフの魔法だということが判明しました」


 姫様の大きな瞳が僕を見透かすように見つめた。


「お気付きになられたようですね。古代エルフの魔法を解くことができるのは、同じ古代エルフの魔法だけです。しかも呪いより強い魔法が必要……そう、例えば古代エルフの秘宝と呼ばれる『世界樹の実』の力が必要です」


 体が震えてきた。大変なことに巻き込まれたとは薄々気付いていたけど、まさかここまで……呪い? 戦争?


「アルビンさん」

「は、はい!」

「『世界樹の実』が何故アルビンさんを選んだのか、その理由は不明です。ただ一つ確かなのは、この王国の平和のためには……そして罪のないあの子のためにはアルビンさんの力が必要だということです。どうぞご協力ください。お願いいたします」


 僕は慌てた。田舎の羊飼いにすぎない僕に……そんな大きなことをお願いするなんて、どう答えればいいんだろう。


「……姫様、一つお聞きしたいことがあります」

「はい」

「どうして僕のことについて……ご存知だったのですか」


 昨晩、姫様は会ったこともない僕のことについて知っていた。姫様の要請に答える前に、その疑問を解いておきたい。


「それは……私が直接目撃したからです」


 姫様の全身から、微かな光が出てきた。


「魔法に素質を持っているものは、時々不思議な体験をします。私の場合は……夢の中で遠く離れた場所の出来事を目撃することがあります」


 本当に不思議な話だ。それじゃ……。


「それで昨年の冬、私はある羊飼いの夢を見ました。彼は病で命を亡くしそうになっても、妹や傷ついた大勢の人々を心配していました」


 それは……。


「その夢を何度も見て、この人なら信じられる……そう思うようになりました。そして昨晩、やっとその羊飼いの正体が分かりました。それが……あなたです」


 しばらく沈黙が流れた。

 僕はどう答えればいいのか、まだ分からなかった。田舎の羊飼いの僕にはあまりにも荷が重い……。

 いや、違う。答えなんてもう決まっている。迷っている暇などない。今僕が迷ったら大勢の人々が傷ついてしまうかもしれない。だから……だからそんな迷いは……捨ててしまえ!


「……自分がどう協力すればよろしいでしょうか」


 僕は静かな声で答えた。そして、姫様の美しい顔に光が戻った。


「誠にありがとうございます、アルビンさん。では、私と一緒に……王都へと旅立ってください」

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