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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第3章.旅立ち
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第26話.ヘレナ

 荷台の中にはフードを被った二人の女性が長い椅子に座っていた。

 この馬車は、外からは荷馬車に見えるけど実は乗客用の馬車ってわけだ。内部は暗いが、御者台の方から光が入ってきているから真っ暗ではない。


「おはようございます、アルビンさん」


 この美しい声は魔法を使った女性だ。僕は片膝を折って、素早く頭を下げた。


「どうぞお座りになってください」

「はい」


僕は女性二人の反対側の椅子に座った。


「お怪我は大丈夫ですか?」

「はい、おかげさまで大丈夫です」

「そうですか。幸いですね」


 魔法を使った女性が頷いた。


「では話を進める前に、自己紹介させていただきます」


 彼女の言葉に僕は緊張した。僕の予想通り、この人は王族なんだろうか。

 魔法を使った女性がゆっくりとフードを外した。すると金色の長い髪と白い肌、美しい瞳と唇が見えた。小説の挿絵の姫様よりも美しいその姿に、僕の胸が激しくときめいた。服は平民とそう変わらない普通の服を着ているけど、到底平民には見えない気品がある。

 エルフのミレアさんも美人だったけど、彼女とはちょっと違う。ミレアさんは大人の女性という感じだったが、この人は僕と同い年……いや、もしかしたら年下かもしれない。つまり『女性』というより『少女』だ。

 いい香りがする。まるで薔薇の香りみたいな……これは多分彼女の香水だろう。


「私は……」


 彼女が沈着な態度で口を開いた。


「ラべリア王国の現国王である、ウイリアム・イーストリアの一人娘……ヘレナ・イーストリアと申します」


 僕の頭が一瞬真っ白になった。もしかしたら……とは思っていたけど、本当に王族だった。しかも現国王の一人娘……姫様だ!

 はっと気がついた僕は椅子から降り、再び片膝を折って頭を下げた。


「そこまで改まる必要はありません。椅子にお座りになってください」

「しかし……」


 姫様と羊飼いでは身分が違い過ぎる。本当にいいのか?


「結構です。ここは王城でもありませんから」

「……はい」


 僕はやっと頭を上げて、椅子に座った。


「リナ、あなたも自己紹介しなさい」


 姫様が傍にいるもう一人の女性に言った。そう言えば彼女もいつの間にかフードを外している。


「姫様の侍女を務めている、リナ・エストンと申します」


 リナさんも凄い美人で、特に黒髪と目の下のほくろが目立った。姫様の侍女ってことは相当偉い貴族に違いない。落ち着いた彼女の雰囲気から、姫様にも劣らない気品が感じられる。年齢は姫様よりちょっと上くらいかな?


「まず約束した謝礼をします」


 姫様がそう言うと、リナさんが僕に小さな革袋を渡してくれた。その中に入っているのは……数枚の金貨だ! 僕が何ヶ月も働きながら、一銭も使わずに貯め続けないと手に入らないくらいのお金だ!


「こ、こんな大金をもらうわけには……」

「アルビンさんがいなかったら私とリナ、そしてケイト卿と兵士たちも生き延びることができなかったかもしれません。どうぞお受け取り下さい」


 頭の中でアイナの笑顔が浮かんだ。これは……このお金は妹のために与えられた幸運だと思おう。


「誠に感謝いたします、姫様」


 正直に言って、僕は自分自身が昨日そんなに活躍したとは思っていない。ケイト卿の武勇と姫様の魔法がなかったら僕なんかとっくに死んだ。僕はただ逃げ出したい気持ちを精一杯我慢して、自分にできることをやっただけだ。


「では、これからのことについてお話したいと思います」

「はい」


 ついに本論が始まるのか……僕は改めて緊張した。


「アルビンさんは6年前の戦争の原因について、お詳しいですか?」

「6年前の戦争の原因……ですか?」


 いきなり戦争の話が出て来るとは思っていなかったので、僕はちょっと焦った。

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