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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第2章.運命の鍵
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第24話.世界樹の実

 『世界樹の実』……それについては本で読んだことがある。古代エルフたちが崇拝していた『世界樹』は、自らの聖なる力を人間たちに分けてあげようと大きな実を作り出したという。それでその実を食べた人間は世界樹の祝福を受け、健康になったり寿命が延びたりしたという。

 その不思議な力を持った『世界樹の実』が……実は大きな宝石だったのか。


「これさえあれば……」


 魔法を使った女性が両手を伸ばして、『世界樹の実』を持ち上げようとした。僕とケイト卿は息を殺して彼女を見つめた。

 しかし次の瞬間、彼女の手が……宝石を通過してしまった。


「そんな……!」


 魔法を使った女性が驚愕した。僕も同じ気持ちだった。目の前にあるのに、取れない。まさかこの宝石も魔法で作り出した幻影なんだろうか。


「これも幻影、ということでしょうか」


 ケイト卿が僕の疑問を代わりに言ってくれた。


「いいえ、違います。世界樹の実は確かにここにあります。これは幻影なんかではありません。しかし……何故か自ら私を拒否しました」

「自ら……ですか?」

「はい、世界樹の実は自分の意志を持っている……古代エルフの秘宝ですから」


 じゃ、この宝石はまるで生物みたいに自分で考えるのか? 本当に童話みたいな話だ。


「ケイト卿」

「はい」

「私の代わりに世界樹の実を取ってください」

「かしこまりました」


 今度はケイト卿が手を伸ばして、大きな宝石を取ろうとした。しかしケイト卿の手もただ通過してしまうだけだった。


「本当に不思議ですね」


 流石のケイト卿も目を丸くして驚いた。


「……アルビンさん」


 魔法を使った女性が、今度は僕の名前を呼んだ。まさか……。


「世界樹の実を取ってください」


 予想が当たった。いや、いくら何でも僕にできるはずがないのに。


「は、はい」


 一応指示に従おう。どうせできないだろうし……と思った僕は宝石に手を伸ばして、それを持ち上げた。


「……え?」


 僕にはその状況が理解できなかった。古代エルフの秘宝、『世界樹の実』と呼ばれる大きな宝石が……僕の手の中にある。宝石の冷たい感触がしっかりと伝わってくる。


「ア、アルビンさん……」


 魔法を使った女性が驚愕した顔で僕を呼んだ。多分僕も彼女と同じ顔をしているはずだ。王族も騎士も手にすることができなかった秘宝が……羊飼いの僕の手の中にある。こんなことがあり得るだろうか。

 いや、しっかりしろ。僕がこれを持ってもどうしようもない。他の人に渡すんだ……! そう判断した僕は手を伸ばしたが…… 宝石が勝手に僕の手から離れて、空中に浮かんだ。


「あ!」


 驚いた僕は一歩後ずさりした。すると宝石が空を飛んで僕に近づき、僕の胸の中に入ってしまった。


「そんな……」


 何かの見間違い? そう思った僕は自分の胸元を手探った。しかし宝石はもうどこにもない。まさか本当に僕の胸の中に……そんな馬鹿なことが……。

 魔法を使った女性も、ケイト卿も、もう言葉を失って僕を見つめている。当然の反応だ。僕も一体何が起きたのかまったく理解できない。


「うっ!」


 いきなり風が吹いてきた。これは僕たち3人を移動させた、あの強風と同じだ。その事実に気付いた時にはもう周りの風景が変わっていた。


「ここは……」


 ここは冒険が始まった場所、つまり崖についた扉の前だった。扉はもう閉まっていたが、とにかく僕たち3人は生きて戻ってきたのだ。しかもすぐ傍に5人の兵士たちと、もう一人のフードの人もいた。全員無事生還だ。


「アルビンさん、あなたは……」


 魔法を使った女性が何か言おうとしたが、すぐ口を閉じた。その様子を見て僕は理解した。冒険からは生きて戻られたけど、元の生活には戻られないということを。

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