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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第2章.運命の鍵
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第23話.神殿

 僕は膝をついた。


「はあ……はあ……」


 呼吸がきつい。もう本当に限界だ。いくらケイト卿の前だとしても、もう強がることもできそうにない。

 さっき短剣で襲い掛かってきた召喚獣を倒したのは完全に偶然だった。とっさの動きが運よく的中しただけだ。ほんの一瞬の運が僕の命を左右したのだ。

 『戦争では運が大事』だと誰かが言った。今ならその言葉の意味が理解できるし、その言葉の怖さも理解できる。狼の事件の時もそうだったけど、一瞬の運で生死が分かれるって本当に怖い。もうそんな状況に置かれたくない。

 いや、落ち着け。まだ状況が終わったわけではない。愚痴は家に帰ってから言っても遅くない。今はケイト卿の言った通り、生き残ることに集中しなければならない。


「この中なら……安全なはずです」


 魔法を使った女性の声が聞こえた。ちょっとだけ冷静を取り戻した僕は、立ち上がって神殿の中を見回した。暗いからほとんど何も見えないけど、とにかく石の壁が心強い。


「ちょっと待ってください。もしかしたら……」


 魔法を使った女性が天井に向かって手を伸ばした。するといきなり周りが明るくなった。


「そんな……」


 僕は口を開いたまま天井を見上げた。神殿の天井が、まるで太陽みたいに光を発していた。眩しくて直視できないほどだ。石でできた天井なのに……。

 光のおかげで神殿の内部がはっきり見えるようになった。これを……この光景を一言で表現すれば……神々しい。石造建築なら大きな村で見たことがあるけど、ここは全然違う。人間よりも大きい石をどうやってまっすぐに切って積み上げたんだろう。僕には想像もできない方法を使ったに違いない。


「アルビンさん」

「は、はい」


 魔法を使った女性が僕に近づいた。


「左腕を見せてください」


 僕は素直に左腕を差し出した。すると魔法を使った女性が懐から手ぬぐいを持ち出して、僕の腕に巻いてくれた。


「か、感謝いたします」

「私のせいで危険な目に会うことになって……すみません」

「いいえ……お、お嬢さんの責任とは思っておりません」


 別に彼女のせいだとは思っていない。確かに僕が今ここにいるのは彼女が話しかけてくれたからだけど、そもそも僕だって崖の扉の中に入りたかった。


「本当にすみません。でももう少しで……ここから出られると思います」

「それは……良かったですね」


 僕は魔法を使った女性の顔を見つめた。彼女はまだフードを被っているが、明るい光のせいで顔が少し見える。間違いなく美人だ。アイナの好きな童話によく出て来る……お姫様のように。


「この神殿については記録が残されています。神殿の中央に進めば、私が探し求めていたものがあるはず……それを手に入れればここから出られます」


 彼女はそう説明した後、ケイト卿の方に振り向いた。


「ケイト卿のご活躍には敬服しました。流石白金騎士団……噂以上の実力でした」

「ありがたきお言葉、感謝いたします」


 ケイト卿は片膝を折ってお礼をしようとしたが、フードの人が止めた。


「では皆さん、行きましょう。あそこの通路です」


 魔法を使った女性が入口の反対側にある通路を指さした。僕たちはその通路に入って、神殿の奥に進んだ。

 神殿の内部はどこも真四角の石で精密に作られている。これだけ建物を何百年も昔の人たちが作ったなんて……古代エルフの文明は本当に想像を超えるほど繁栄したに違いない。それに魔法のおかげなんだろうけど、火もないのに明るい。こんな話はアイナに聞かせても信じてもらえないかもしれない。


「あれです!」


 通路が終わった瞬間、魔法を使った女性が声を上げた。僕は彼女が指さす方を見つめた。そこには……腰くらいの高さの、円筒型の石があって、その上には光っている何かが置かれていた。

 魔法を使った女性が急ぎ足で光っているものに近づいた。僕とケイト卿もその後を追った。


「これが……私の探し求めていたもの……」


 それは……白い宝石だった。それもとんでもないほど大きな……両手で覆い切れないほど大きな宝石だった。そんなものは初めて見た。

 いや、もちろんここには僕が初めて見るものばかりだけど、多分これほど大きな宝石なら僕じゃなくても実際に見た人なんてほとんどいないだろう。そう確信できるほど大きく、そして美しい宝石だ。


「……『世界樹の実』です」

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