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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第2章.運命の鍵
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第22話.導き

 古代エルフ……? 彼らは……今は存在しないのではなかったのか?


「正確に言うと、古代エルフが魔法で残した幻影です」

「幻影……」


 僕はその言葉につい反応した。


「左様です。訪問者に何かのメッセージを残したかったのか、あるいは……」


 魔法を使った女性が前に出て、手を伸ばした。すると古代エルフの女性が僕たちに振り向き、口を開いて何か言おうとした。しかし声は聞こえない。


「何百年もの時間が経ってしまって、この幻影はもう消える寸前です。元々は声を発することもできたはずですが……今になってはそれも無理みたいですね」


 古代エルフの女性はどこか悲しい顔だった。声は聞こえないけど何か悲しい話をしているようだ。


「この幻影が何を言いたいのか分かれば……手掛かりになるかもしれません」


 その時だった。古代エルフの女性が口を閉じて、手を伸ばしてどこかを指さした。そしてその直後、彼女は無数の光になって……虚空へと消えてしまった。

 切迫した状況なのにちょっと切なかった。何百年もの時間を一人で耐えてきたはずなのに、儚く散ってしまった。


「幻影が指さした方向へ向かいましょう」


 魔法を使った女性の言葉に、僕たちはまた移動し始めた。暗闇の中なので方向を間違えやすいから慎重に進みたいけど、そんな余裕はない。ほぼ全速で走る。

 しかし体力がそろそろ限界だ。左腕の痛みもだんだん酷くなっていく。アイナの顔が見たい。小さな僕たちの家に帰りたい。そんな考えが頭から離れなかった。

 魔法を使った女性も、もう相当疲れたようだ。彼女の息遣いが荒くなり、足が遅くなった。そしてそれと同時に魔法の光も弱くなった。まだ彼女は弱音の一つも吐いていないけど、相当無理をしているに違いない。

 僕たちの中でまだ疲れていないのはケイト卿だけだ。騎士の体力には本当に敬服した。まるで鋼でできた人間だ。僕もいつかはケイト卿のように頼られる存在になれるのだろうか?


「止まれ!」


 ケイト卿の声に僕たちは足を止めた。前方に何かがあった。暗いからよくは見えないけど、何かの……建物?


「……私が探していた場所です」


 魔法を使った女性が前に出た。すると魔法の光も動いて、前方のものを照らした。それは大きな柱に支えられた、壮大な石の建物だった。こんな立派な建物は今まで見たことがない。僕はその威厳に圧倒されそうだった。


「ここは……神殿です。古代エルフの」


 そうか、これが童話とかでよく出て来る『古代エルフの神殿』なのか。


「この中に、あれが……」


 魔法を使った女性は神殿に近づいて、その扉に手を伸ばした。すると崖の扉と同じく、神殿の扉も低い音と共に開き始めた。


「さあ、入りましょう」


 僕とケイト卿は魔法を使った女性の後ろを追って、神殿の中に入ろうとした。


「アルビン君!」


 いきなりケイト卿が叫んだ。またしても召喚獣が僕の傍から現れたのだ。


「うっ!」


 あまりにも突然のことだから敵の姿を確認する余裕もなく……ただ生き残るために短剣を差し込んだ。すると何も見えなくなり、僕は地面に倒れた。


「アルビンさん!」


 声が聞こえる……ということは、僕はまだ生きているってことだ。自分の顔を手で拭くと、前が見えるようになった。手を見下ろしたら黒い液体が付いていた。召喚獣の血だ。


「立ち上がれ!」


 ケイト卿が僕に手を伸ばして、助け起こしてくれた。


「危ない!」


 魔法を使った女性が緊迫した声で叫んだが、僕とケイト卿はその声よりも早く状況を理解していた。いつの間にか多数の召喚獣が近くまで来ていた。


「はっ!」


 ケイト卿の剣が何の迷いも、ためらいもなく召喚獣たちを切り裂いた。


「早くこっちへ!」


 神殿の扉だ。あそこまで行けば……! しかしケイト卿を置いて一人で行くわけには!


「ケイト卿!」

「先に行け! 早く!」

「は、はい!」


 僕の今の状態では足手まといになるだけだ。早く逃げた方がいい、ととっさに判断した僕は神殿の扉に向かって走った。


「扉を閉めます! ケイト卿も早く!」


 扉に近づいた僕は後ろを振り向いた。ケイト卿は次々と現れる召喚獣たちに一撃を浴びせてから僕の後を追った。それで僕たちは神殿の中に入り、魔法を使った女性が扉を閉めた。召喚獣たちはぎりぎり扉に塞がれた。

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