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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第2章.運命の鍵
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第20話.叶えられた夢

「何事だ!」


 ケイト卿が声を上げた。しかし誰にも答える余裕はなかった。いつの間にか僕たちは狼のような召喚獣たちに囲まれていたのだ……!


「くっ!」


 ケイト卿は素早く動いて、ランタンを手放すと同時に彼女の後ろに現れた召喚獣を切った。美しいほどの剣術だ。だが敵はその1匹だけではない。次々と野獣たちが姿を現す。

 騎士様を助けねば……! 僕もランタンを手放して、弓に矢をつがえて放った。その矢は召喚獣の耳の穴に深く刺さって、命を奪う。

 僕が今持っているのはコルさんからもらった弓だ。以前使っていた弓に比べれば相当な力が必要で、連射も難しいけど威力は凄い。これなら僕も戦える!

 後ろから兵士たちの気合が聞こえてきた。彼女たちも必死に戦っているのだ。しかしその姿を確認する余裕などない。召喚獣たちが次々と現れてケイト卿に襲い掛かろうしたので、僕も全力で支援射撃をした。


「はっ!」


 ケイト卿は踊るかのように体を動かし、召喚獣たちの牙を避けながら剣を振るった。その剣は敵の首に深い傷を与え、黒い血を跳ね上がらせた。そしてケイト卿はその返り血が地に落ちるよりも早く剣を振り続けた。その勇猛な姿はまるで戦の女神のようだ。

 僕は頭が真っ白になった状態で、機械のように射撃し続けた。僕にできることはそれしかない。雑念なんか生じる暇もない。次々と現れる召喚獣の頭を全身全力で狙うだけだ……!


「うっ!」


 思わず声を上げた。いきなり強風が吹き始めたからだ。地下で? 強風? またしてもあり得ないことだけど、ここは常識の通じる場所ではない。もう何が起こってもおかしくない。

 しかし問題はその強風が吹くと同時に、何故かみんなの持っているランタンの光が一斉に消えてしまったことだ。一瞬で何も見えなくなり、僕は自分の位置さえ見失ってしまった。これでは射撃できない。味方に当たってしまう。


「皆さん! こちらに集まってください!」


 青い光が見えた。それは……魔法の光だ。魔法を使った女性がまた自分の手から光を発している。僕は急いで彼女に近づいた。するともう一人が見えた。ケイト卿だ。

 僕とケイト卿は魔法を使った女性を守られる位置に立って、周りを警戒した。今召喚獣たちが襲ってきたら本当に何もかも終わりだ。

 だがいくら待っても召喚獣たちは襲ってこなかった。いや、召喚獣だけではない。兵士たちの姿も見えない。まさかその一瞬でみんなやられた?


「誰かいないのか!? シル、リン、ロニ! 返事をしろ!」


 ケイト卿が暗闇に向かって叫んだ。しかし返事は来ない。


「ケイト卿」


 魔法を使った女性が口を開いた。


「どうやら私たちは別の空間に飛ばされたようです」

「別の空間……ですか?」

「はい。ここは……さっきまで歩いていた道ではありません」


 僕とケイト卿はそれでやっと気付いた。ここはさっきとは別の場所だということを。敵への警戒に集中していたせいで地形の変化に気付かなかった。


「でもいったいどうやって……?」

「さっきの風のせいです。あれは単なる風ではなく、何か不思議な力によるものでした」


 僕の額から汗が流れた。僕たちは暗闇の中で孤立したのだ。しかも野獣たちがまた襲ってくるかもしれない。これでは……家に、アイナのいるところに帰られるんだろうか?


「すみません、ケイト卿、アルビンさん。まさかここまで危険な魔法がかかっていたとは予想できませんでした」


 魔法を使った女性がお詫びする。


「先生の言うことをもうちょっと慎重に受け入れるべきでした。この事態は全て私の責任です」


 彼女の美しい声にももう元気がない。


「今は責任を追求するより、生き延びるために全力を尽くすことが先です」


 ケイト卿が強い口調で言った。


「諦めずに、兵士たちと合流する道を探しましょう」


 その発言には何の揺るぎもなかった。こんな状況でもケイト卿は諦めたり怯んだりしないのだ。僕はその姿を見て歯を食いしばった。ずっと憧れていた騎士の前で無様な姿を晒すわけにはいかない……!


「……そうですね。ケイト卿の言った通りです。諦めずに行きましょう」


 魔法を使った女性もケイト卿の姿に少し元気付けられたようだ。ケイト卿は小さく頷いた後、僕の方を見つめた。


「アルビン君」

「は、はい!」

「さっきの戦いで援護射撃してくれたことに感謝する。君のおかげで助かった」

「いいえ、自分こそ……ケイト卿のおかげで助かりました」


 本当だ。ケイト卿の戦の女神のような活躍がなかったら僕たちは全滅したはずだ。


「ふっ……どうやら君は本当に信頼できる人のようだな」


 ケイト卿のその言葉が、僕に不思議なくらいの勇気を与えてくれた。


「弓以外の武器は持っているのか?」

「いいえ……」

「じゃ、これを」


 ケイト卿が僕に何かを渡してくれた。短剣……それも取っ手に白金騎士団の紋章が刻まれている、素晴らしい代物だった。


「何もないよりはまだいいだろう」

「ありがとうございます」


 僕のような平民が白金騎士団の装備を借りることになるとは。後でちゃんと返さなきゃ。


「よし、これから生還できる道を探そう」

「はい!」


 そうだ、ここで死ぬわけにはいかない。アイナのためにも、僕自身のためにも、今一緒にいるこの人たちのためにも……!

 僕たち3人は暗闇の中を進んだ。もうランタンはないし、松明もどこかに落としたけど、青い魔法の光が道を照らしてくれる。不安と恐怖が完全に消えたと言えば嘘になるが、それでもまだ希望は残っている。

 ふといつか見た夢を思い出した。夢の中で僕は騎士になって、姫様を守るために戦っていた。


「アルビン君、構えろ! 敵が来る!」

「はい!」


 今の僕は騎士ではないけど騎士と一緒に戦っているし、魔法を使った女性の正体は多分……。


「短剣で無理する必要はない! 私が敵に致命傷を与えたらそいつに止めを刺せ!」

「はい!」


 こんな状況で夢が叶えられたなんて、本当に皮肉なことだった。

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