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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第2章.運命の鍵
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第19話.扉の中へ

「ではみなさん、少し下がってください」


 フードの人の指示に、彼女以外の全員は崖についた扉から少し離れた。するとフードの人は手を伸ばして扉を指さした。


「あ……!」


 僕は思わず声を出した。フードの人の手から、微かに光が出ている。それは道具による光ではない。まるで彼女の手が星になったようだった。

 『魔法』という言葉が僕の頭の中で閃いた。そう、これは魔法だ……! 昔話とか童話でよく出てくる魔法なんだ! 

 魔法を研究している学者とかもいると本で読んだけど、そんなものが本当に存在しているのかは正直疑問だった。しかしこれはもう疑いの余地がない。人間の手が何の仕掛けもなく光を発しているのだ!


「リナ、あれを持ってきて」


 フードの人がそう言った。するともう一人のフードの人が「はい」と答えて、一歩先に出て何かを差し出した。それは……宝石のついた首飾りだ。

 フードの人は光を発している手でその首飾りを受け取り、扉の取っ手に押し当てた。それで僕がどう頑張ってもびくともしなかった石の扉が……低い音と共に開き始めた。

 さっきからまるで別の世界に来たようだ。相当若いのに騎士よりも偉い女性、彼女の手から出て来る光、そして自動で開く石の扉。

 何か頭がおかしくなりそうだ。これは本当に現実? じゃないと夢?


「みなさん、突入の準備を」


 フードの人の指示にみんな扉の前に集まった。僕もランタンを手にして、人々に近づいた。


「自分が先頭に立ちます」


 ケイト卿が一番先に扉の中へ入った。


「アルビンさん、あなたも入ってきてください」


 フードの人がそう言いながら扉の中に入った。もう一人のフードの人がその次に入った。これで僕の番だ。僕は扉に近づいた。暗闇とランタンの光だけが見えた。

 以前、僕もここに入ろうとしたけど……こうして本当に入ることになると正直緊張する。一体この中には何があるんだろう。それを確かめる方法は一つしかない。僕は覚悟を決めて足を運び、扉の中へ向かった。


---


 暖かい。それが最初の感想だった。さっきまでは冷たい夜の空気のせいで結構寒かった。しかしこの中は不思議なくらい暖かい。それに空気が新鮮だ。密閉されていた空間だから空気が新鮮なわけがないのに、まるで森の真ん中にいるようにすがすがしい。

 少し歩いたら階段が見えた。下へと続く階段だ。僕はフードの二人の後ろを追って階段を降り始めた。

 長い階段だ。降りても降りても続く。いったいどこまで続くんだろう。

 もし誰かが『この階段は冥界まで続く階段だ』と言ったら、今の僕はその言葉を信じてしまいそうだ。それほど長い階段だ。

 最初は狭かった階段が少しずつ広くなり、僕はフードの二人と一緒に歩くことになった。僕の前にはケイト卿がいて、後ろには5人の兵士たちがいる。

 一緒に歩きながら観察すると、フードの二人の間には確実な上下関係があった。魔法を使った女性が上で、『リナ』と呼ばれた女性が下だ。二人は背も体格も服装も似っているので区別しにくいが、『リナ』と呼ばれた女性はランタンを持っているからそれで一応区別できる。

 やはり気になるのは、魔法を使った女性の正体だ。この場で一番偉いのは彼女に違いない。魔法使い? 学者? いや、どちらでもない。もっと上の、もっと偉い人……白金騎士団の騎士よりも上の人。

 貴族であることは間違いない。しかしいくら偉い貴族のお嬢さんだとしても、こんな若い歳で騎士を従えるほどの権力を持つことができるだろうか。僕は貴族社会についてはあまり知識がないけど、そんなことは一般的にはありえない気がした。

 それじゃ一般的な貴族ではない、ということ? 一般的な貴族よりもっと偉い……例えば……この王国で一番偉い……王族……!


「みんな、止まれ」


 ケイト卿の声だった。僕たちは足を止めた。


「何ですか、ケイト卿」

「何かが……もしくは誰かがいます」


 魔法を使った女性の質問にケイト卿が慎重な口調で答えた。


「みんな、武器を構えろ」


 ケイト卿が剣を抜くと、5人の兵士たちもみんな剣を抜いた。フードの二人の中でリナと呼ばれた女性も短い短剣を手にした。武器を構えていないのは魔法を使った女性と、ランタンを持っているせいで弓が使えない僕だけだ。


「ゆっくりと前進する」


 僕たちは周りを警戒しながら階段を降り続けた。するといつの間にか階段が終わり、平らな道になった。

 冥界まで降りなくてよかった、と安心したその瞬間……何の前触れもなく暗闇から何かが現れて、ケイト卿に襲い掛かった……!


「はっ!」


 しかしケイト卿は短い気合と共に電光石火の如く剣を振るって、正体不明の敵を切った。敵は重い音と共に一瞬で地面に倒れた。


「ケイト卿、ご無事ですか!?」


 魔法を使った女性が声を上げて聞いた。


「はい、ご心配は要りません。それより……」


 ケイト卿は片膝を折って自分が倒した敵を観察した。僕もその後ろに立って一緒に観察した。

 それは……黒い毛に包まれた胴体に四つの足がある、狼のような生き物だった。外見からして凶悪な野獣だ。こんな野獣の首を剣で切り、一瞬で息の根を止めるとは……流石騎士だ。


「これは……狼ではありません。初めてみる生き物です」


 ケイト卿の話した通り、それは狼に似ているけど狼ではない。僕も狼を狩ったことがあるから分かる。耳と尻尾の形が違う。そして決定的に、その生き物の切られた首からは黒い血が流れていた。黒い血が流れる生き物なんて見たことも聞いたこともない。

 しかもその生き物の死体は、まるで煙のように少しずつ蒸発していた。僕もすぐ近くで見ていたけど信じられなかった。これも何かの魔法なんだろうか。


「これは……魔法で召喚した召喚獣です」


 魔法を使った女性が言った。


「古代エルフたちはこういう召喚獣を戦争で使ったと言われています。私も実際に見るのは初めてですが」


 その説明を聞いたケイト卿が立ち上がって、深刻な顔で口を開く。


「ここはひとまず撤退した方がよろしいかと思います」


 僕は少し驚いた。騎士たちは『撤退』とか『退却』とかそういう言葉は使わないって思っていた。


「こんな野獣が何匹いるかもしれませんし、今の戦力では被害が出る可能性もあります。だから日を改めて、戦力を増強してから来た方がよろしいかと」


 魔法を使った女性は少し間を置いてから頷いた。


「……そうですね。ケイト卿の意見に同意します」

「かしこまりました。みんな、撤退する。今度は私が最後に立つ」


 僕たちは向きを変えて、来た道を戻り始めた。今度は5人の兵士たちが先頭で、ケイト卿が最後だ。

 これで一応家に帰られる。そう考えるとちょっと安心感が湧いた。今日はもうたくさんだ。信じられない光景を見過ぎた。早く家に帰って眠りにつきたい。


「ケ、ケイト卿!」


 前方の兵士たちの一人が、緊迫した声で叫んだ。どうやらこの場所は、僕たちをこのまま帰してくれるつもりはないようだ。

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