第17話.道案内
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「分かったよ、心配するな」
僕はアイナの頭を撫でてやった後、アイナが友達の家に入るまで見守った。
「よし」
一人になった僕は村の北に向かった。僕の背中には弓と矢が、手には松明があった。
夜の空気は冷たかった。軽い服装ではちょっと厳しいくらいだ。しかし僕の腹の底から、寒さを退けるほどの元気が出てきた。
その元気のもとは、もちろん喜びと興奮だ。何しろ白金騎士団の騎士が僕を必要としているのだ……!
まさか今日騎士に出会って、しかも一緒に行動することになるとは思わなかった。これはまるで夢の中だ。頼むから覚めないでくれ。
やがてランタンの光が見え始めた。ケイト卿が待っているのだ。僕は急いで光に近づいた。
「来たか」
ケイト卿が僕を見つめた。彼女は板金鎧ではなく革鎧を着ていた。山道を登るために、軽い服装に着替えたんだろう。彼女の周りにいる5人の兵士たちもみんな軽い服装だ。
「準備は出来たのか?」
「はい!」
僕は勢いよく答えたが、次の瞬間ちょっと変なことに気付いた。ケイト卿と5人の兵士たちの後ろに、何故か1台の馬車がある。
「あ、あの……ケイト卿。その馬車も一緒に行くんですか?」
「そうだ。何か問題でもあるのか?」
「それが……その場所は山の奥にあるので、馬車が進入することはできません」
「構わない。途中まででも一緒に行く」
疑問が湧いた。何で馬車と途中まで一緒に行く必要があるんだろう。
「では道案内を頼む」
「かしこまりました」
とりあえず自分の役目を果たさなきゃ。僕はケイト卿と5人の兵士たち、そして1台の馬車を連れて山道を登った。
当然なことに山道は暗かったけど、ここはもう何年も通ったから迷うことはない。ただし今は人々を、しかも騎士と兵士たちを連れているからちょっと緊張してしまう。
人々と馬の足音、馬車の車輪の音が暗闇の中に響いた。それを聞きながら歩いているうちに、僕はふと気付いた。今一緒に移動している馬車の荷台には……人が乗っている。中から人の声がする。間違いない。王立軍の3台の馬車には全部物資が積まれているんだろうと思ったが、どうやらその推測は違ったようだ。
一体馬車の荷台には誰が乗っているんだろう。ケイト卿さえ自分の足で歩いているのに、誰が馬車で移動しているんだろう。まさかケイト卿よりも偉い人……?
いや、いくら何でも白金騎士団の騎士より偉い人がこんな田舎まで……しかしそうじゃないと説明ができない。
「あの、ケイト卿」
「何だ」
「ここからは山道を離れて、茂みの中を進まなければなりません。だから馬車は……」
「分かった」
ケイト卿は馬車に近づいて、小さい声で何か言った。すると馬車の荷台から二人が降りた。やっぱり人が乗っていたのだ。
僕は直感した。馬車から降りた二人も女性だということを。フードを被っているせいで顔は見えないが、体つきからして女性だ。それに……女騎士とか女兵士ではなさそうだ。ケイト卿や兵士たちに比べて体が細いし背も低い。普通の女性に見える。
「アルビン君、道案内を続けてくれ」
ケイト卿がそう言った。どうやらフードを被った二人もあの場所に行くつもりのようだが、僕には何の説明もない。
「分かりました。道が険しい……というか、道というものがないに等しいので注意してください」
「分かった」
ここからは茂みの中を進まなければならないから、松明を持っていると火災の危険がある。僕はまず松明の光を消した。すると兵士の中の一人が僕にランタンを渡してくれた。
「これを使って」
「ありがとうございます」
僕はランタンを持って、なるべく注意しながら茂みの中をゆっくりと進み始めた。他の人々も僕の後ろをゆっくり歩いた。
急に不思議なことに気付いた。昨年の祭りで、占い師のミレアさんは僕に『初めて見る女性には注意してください』と言った。しかしケイト卿も女兵士も、馬車から降りた二人もみんな『初めて見る女性』だ。僕は一体誰に注意すればいいんだろう。
まあ、今は女性よりも地形に注意するべきだ。僕は頭の中に浮かび上がる雑念を払おうとした。