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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第13章.敵との旅
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第123話.敗北の理由

 セトが懐から何かを持ち出して、僕に渡した。


「それを被れ」


 これは……頭に被るフードだ。顔を隠すためのものなんだろうけど……こんなものを用意しているということは、普段からこういう状況に慣れているんだろうか。


「静かについてこい」


 僕たちはフードで顔を隠し、武器を構えて静かに移動した。まるで盗賊みたいに。

 セトは慎重だった。まず3棟の小屋を外部から偵察して、敵の規模と状況を把握した。盗賊たちは全部で8人くらい……そして一番右の小屋に、中年男性たちが縄で縛られていた。死んだ商人の仲間たちに違いない。


「……お前は草木に隠れて警戒していろ」


 僕はその指示の通り、小屋から少し離れた草木に身を隠した。セトは一人で一番右の小屋にこっそりと近づいた。

 ちょっと奇妙な気持ちだった。今の僕は敵であるセトを応援しなければならないのだ。人々の救出が先だから仕方ないけど。


「あ……」


 思わず声を漏らした。真ん中の小屋から3人の盗賊が出てきて、一番右の小屋に向かい始めたのだ。このままだとセトが見つかってしまう恐れがある。

 もちろんセトの心配をする必要はない。数人の盗賊くらいでは彼に傷一つ付けられない。それは僕が一番よく知っている。でも……このまま戦いが始まると、捕らわれている人々の身に危険が及ぶかもしれない。そこまで考えた僕は迷わず弓を引いた。


「うぐっ……!」


 盗賊の一人が低い悲鳴を上げた。僕の放った矢が右足に刺さったのだ。


「な、何者だ!?」


 残りの盗賊たちは慌てて、周りの木箱や樽の後ろに身を隠した。いきなり仲間が狙撃されたんだから怖がるのも無理ではない。


「絶対殺してやる!」


 盗賊たちが姿の見えない僕に向かって威嚇した。よし、このまま僕に気を取られていろ……!


「一体何事だ!?」


 右と左の小屋からも盗賊たちが出てきた。彼らは状況を把握し、盾を手にして周りを警戒し始めた。まあ、全員で僕を探してくれると尚更好都合だ。この隙にセトが人々を救出できるだろう。


「出てこい!」


 もちろん僕が出てやるわけがない。このまま時間を稼げばそれでいい。


「がはっ……!」


 いきなり盗賊の一人が絶叫した。捕らわれていた人々の安全を確保したセトが、音もなくそいつに近づいて……後ろから剣を差し込んだのだ。


「このやろう!」

「殺せ!」


 盗賊たちはセトに向かって一斉に突進した。だがセトは稲妻のように動き、一瞬で3人を斬った。遠くで見ていた僕でさえ彼の動きが把握できないほど……速すぎる。


「う、うわああああっ!」


 仲間たちが瞬く間にやられると、残り3人の盗賊は戦意を失った。そのうち一人は恐怖に陥って尻もちをつき、二人は武器を捨てて逃げ出そうとした。もちろん逃走を許すつもりはない。僕は逃げ出そうとしている二人の盗賊の足に矢を打ち込んだ。やつらも絶叫と共に倒れた。


「あ……」


 戦いが終わったと思った瞬間だった。セトが再び剣を振るって……倒れている盗賊たちを全員殺した。もう無力化されていたのに……。

 驚いている僕を置き去りにして、セトは捕らわれていた人々を安心させた。


「もう終わった。安心していい」

「あ、ありがとうございます……!」


 2人の中年男性は両手を胸の前で合わせて、何度も何度も頭を下げた。


「あなた方二人は……軍隊関係者なんですか?」


 中年男性が質問すると、セトは「まあ、そんなところだ」と答えた。


「秘密任務を遂行中なので正体を明かすことはできない。君たちも私たちについては他言無用だ」

「分かりました」


 中年男性たちは小屋の隣に止まっていた小型の馬車に乗り、「あなた方二人にエイドリアの祝福があらんことを……!」という言葉を残して沼地を去った。


「ふっ……『エイドリアの祝福』か」


 商人たちが去った後、セトは笑った。


「アルビン」

「はい」

「使えそうなものを探そう」


 僕たちは盗賊の隠れ家を探索して、食料や毛布などを取り上げた。他人の物を略奪してきた盗賊たちを今度は僕たちが略奪したのだ。

 数分後……両手いっぱいに革袋を持ち、僕たちも沼地を去った。そして沈黙の中で歩き続けた。


「アルビン」


 ふとセトが話しかけてきた。


「お前が今何を考えているのか、大体分かっている」

「……そうですか」

「ああ、『倒れていたやつまで殺す必要はなかったのに』と思っているんだろう?」


 図星だ。


「敵に対しても人間の心を忘れないのは、立派なことかもしれないが……」


 セトは冷静な口調で話を続けた。


「だから負け続けるんだよ。お前も、あの女も」


 僕は口を黙った。


「多くの人間は、敵に対してなら限りなく残酷になれる。極端な話、敵に残酷なことをすればするほど正しいと思う人々も少なくない」


 それは……そうかもしれない。


「平和な時ならまだいいかもしれん。だが戦争のような非常時には…… お前みたいな態度では人望を失う」

「まるで経験したことがあるかのような発言ですね」

「ああ、経験したさ」


 セトの声から何故か悲しみが感じられた。だがフードのせいで表情は見えない。


「……だから僕にあんな幻想を見せたんですか」


 僕は淡々とした口調で聞いた。

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