表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第13章.敵との旅
122/131

第122話.旅の途中

 『霧の森』は思ったよりも広かった。東に向かって数時間走ったのに、僕たちを乗せた馬車はまだ森の中だった。

 やがて馬車は小さな湖の傍で止まった。馬を休ませ、同時に僕たちも食事をするためだ。


「お前も手伝え」

「……分かりました」


 僕も食事の準備を手伝った。何もしないわけにもいかない。


「一つ聞いてもいいですか」


 食事の途中、僕はセトに話しかけた。


「何だ」

「僕たちはどこに向かっているんですか?」

「それを知ってどうする」

「知りたいです」


 セトは僕の質問を無視しようとしたが、僕は退かなかった。


「どうせ僕は反抗できないんでしょう? なら教えてくれても構わないと思いますが」

「ふっ……」


 セトが笑った。


「本当に一々似ているな」

「どういうことですか」

「弱者には強く出られないのに、強者の威嚇には屈服しない……もう瓜二つだ」

「だから、一体誰と比べているんですか?」

「あの女さ」

「あの女……?」


 僕は『あの女』について聞こうとしたが、セトはその隙を許さず話題を変えた。


「検問を避けるために遠回りしているが、私たちはパバラ地方に向かっている」

「……パバラ!?」


 パバラ地方は、僕の妹であるエリンが治めているところだ……!


「あなた、まさか……」


 僕は拳を握って席から立った。


「まさかまたエリン・ダビール女伯爵の命を狙うつもりですか……!?」

「ふっ……」


 セトは再び笑った。


「よせ。私に殺意を抱くとまた地獄を見るぞ」

「答えてください!」

「それが心配なのか? なら安心しろ。女伯爵の命は任務に含まれていない」


 セトの答えを聞いて、僕は一旦気持ちを落ち着かせて考えてみた。

 問題はセトの言葉をどこまで信用できるか、その点だ。確かに敵ではあるが……セトは妙に正直なところがある。『答えを回避する』ことはあったけど、『嘘で答える』ことはなかった。


「……パバラ地方に行って、どうするつもりですか?」

「情報収集をするつもり……そしてお見舞いに行くつもりだ」


 お見舞い? 僕はもっと詳しく聞こうとしたが、セトはそれ以上答えなかった。

 食事を終えて馬車での移動を再開した。本当にパバラに向かっているのなら、このまま一週くらい走らなければならない。

 パバラに行けば……アイナとエリンに会えるのだろうか。いや、それは無理だろうな。何せ今はセトの手から逃げることができない。それに妹たちの安全を考えると会わない方がいいだろう。

 僕は馬車の振動に身を任せていろいろ考えてみた。レベッカさんも僕の反対側に座って何かを考えていた。

 レベッカさんは……半年前から、つまり王都での襲撃事件の後からギボン伯爵の屋敷で働いた。その時からずっとセトに情報を流していたんだろう。そして僕に気があるような素振りをして、こっそり僕のことを監視した。もう本当に完璧な演技だった。僕を含めてみんな騙された。

 しかしレベッカさんの顔は明るくない。むしろ暗い顔をしている。僕はそれが何故なのか分かるような気がした。ギボン伯爵が死んだからだ。たぶん彼女はギボン伯爵のことを悪く思っていない。少なくともギボン伯爵は……レベッカさんの親友みたいな犠牲者が出ないように、領主として頑張ったのだ。

 レベッカさんはギボン伯爵の死に罪悪感を感じている。罪悪感を感じならもセトに従っている。そんな彼女の暗い顔が僕にはとても悲しく見えた。


---


 空が暗くなり始めた頃、馬車は『霧の森』を抜けて広い平原を走り出した。森を抜けてからも薄い霧はずっと続いていた。僕は荷台の天幕の隙間から風景を眺めた。


「ん……?」


 いきなり馬車が止まった。まだ休憩するには早い時間なのに……何かあったのか?


「アルビン、馬車から降りろ」


 運転席からセトの声が聞こえてきた。僕は疑問を感じながらも荷台から降りて、運転席に近づいた。


「どういうことですか?」

「前方に何かがある」


 セトも運転席から降りて、慎重に歩みを進めた。僕は彼の後を追った。


「あれは……」


 薄い霧に隠れていたのは……地面に倒れている人だった!


「屍だ」


 セトが呟いた。屍に近づいてみると、周りには馬車の車輪の跡や馬の足跡がいっぱいだった。


「……この人は商人だ」


 セトは中年男性の屍を見下ろしながらそう言った。屍の首筋には一本の矢が刺さっていた。


「盗賊たちが商人の馬車を襲撃したんだろう。まだそんなに時間は経っていない」

「生きたまま連れ去られた人がいるかもしれません」

「ああ、その可能性はある」


 僕たちは一旦馬車に戻り、レベッカさんに警告した。彼女は馬車を操って道から離れた。


「アルビン」

「はい」

「走るぞ」


 セトは盗賊たちの馬の足跡を追って走り出した。僕も全力で彼の後ろを走った。二人はそのまま20分くらい走り続けた。


「……ここだ」


 セトと僕は姿勢を低くした。そこは……沼地だった。背の高い草に覆われて、緑色の沼が広がっていた。一見馬が進入できなさそうな場所のようだが……草に隠された道があった。


「音を立てるな」

「はい」


 姿勢を低くしたまま、僕たちは道を辿って沼の奥に向かった。沼の奥には……3棟の小屋があった。盗賊たちの隠れ家だ。


「アルビン、やることは分かっているな?」

「はい」


 僕はこれから起きることを理解していた。商人を襲撃した盗賊たちを、今度は僕たちが襲撃するのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

▼クリックで応援よろしくお願いします! - 『書く猫』

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ