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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第13章.敵との旅
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第120話.烙印

 僕は拳を振るった。素手で戦った経験はないし、訓練もしたことないが……それでも全力で振るった。しかしセトはそんな僕の拳をいとも簡単にかわした。

 勝てないことは分かっている。しかしだからといって何もしないわけにはいかない。


「動作が大きすぎる」


 呟きとともに、セトの右拳が僕の横腹に刺さった。


「ぐっ……!」


 衝撃が全身に広がったが、僕は歯を食いしばって耐えた。そして拳を振るい続けた。でもその結果はセトに殴られ続けることだった。


「うぐっ……!」


 口から血の味がした。もう何度殴られたか数えられないほどだ。その反面、僕の拳は一度も当たらなかった。


「いくら『世界樹の実』があるとしても」


 セトが口を開いた。


「決して死なないわけではないぞ」


 やっぱり僕の世界樹の実について知っていた。そもそも世界樹の実は古代エルフの秘宝だ。セトが本当に古代エルフなら知っていてもおかしくない。

 それにレオノラさんの推測によると、セトも世界樹の実を持っている。しかも僕とは違ってその力を完全に制御している。強くて当然だ。


「お前は私が隙を見せるまで諦めずに戦うつもりだろう」


 セトが冷たい口調で言った。図星だ。


「でも私は隙なんか見せない。まだ分からないのか」

「だとしても……!」


 分かっている。セトはサイモンとは違う。サイモンは一秒でも早く僕を殺したくて、急いだせいで隙を見せた。でもセトはあくまでも冷静沈着で僕の動きに対応しているから……隙なんか生じない。しかし……だからといって諦めるわけにはいかない!

 僕は再び拳を握りしめて、痛みをこらえた。


「……本当に似ているな」


 何?


「捕虜にも優しくするくせに、いざとなったら諦めを知らない……まったく同じだ」

「何の話だ?」


 僕の質問に答えは返ってこなかった。


「やっぱりお前を制圧するためには、動けなくなるまで殴るしかないのだな」


 それからだった。今までは僕の動きに対応するだけだったセトが……積極的に攻撃してきた。


「ぐはっ……!」


 彼は拳と足を使い、急がずにじっくりと僕をぶち壊した。腕、足、首……僕の全身が壊れ続けた。そして数分後……僕はボロボロになって倒れた。もう痛みすら感じられなくなっていた。


「やっと終わったか」


 セトは倒れている僕に近づき、手を伸ばして僕の右手を握った。するとセトの全身から光が出てきた。


「見ろ」


 僕の右手の甲に……赤い円が描かれた。


「これは『奴隷の烙印』というものだ」


 烙印?


「もし逃げたり、反抗したりしたら……この烙印がお前の命を蝕む」


 何だと……?


「お前は世界樹の実を持っているから、すぐは死なない。だが苦痛が長くなるだけだ」

「セ、セト……」

「たとえ右手を切り落としても烙印は消えない。理解したか?」


 セトが僕の手を放した。


「レベッカ」

「はい」

「こいつを治療してやれ」

「分かりました」


 レベッカさんが薬草や包帯を持ってきて、僕の怪我の手当てをしてくれた。僕は彼女に何か言おうとしたが……いつの間にか気を失った。


---


 僕はある女性の前に立っていた。

 その女性はエルフ族だった。腰まで届く長い金髪と、布を巻いたような服装のおかげで神秘的な雰囲気だった。もうこの世の人というより……女神のような姿だ。


「申し訳ございません」


 エルフの女性が僕に謝った。何で謝るんだろう。


「あの子たちの争いに貴方を巻き込んでしまって……本当に申し訳ございません」


 あの子たち……?


「世界樹の実はただの道具にすぎません。道具をどう使うかはその人次第です」


 世界樹の実……思い出した。この人は……古代エルフの神殿で幻影として現れ、道を示してくれた人だ。


「だから私はアルビンさんに……」


 女性の声がだんだん小さくなり、やがて何も聞こえなくなった。僕の視野もだんだんぼやけ始め、やがて何も見えなくなった。


---


 どれだけ時間が経ったんだろうか。目の前に美しい星空が広がっていた。

 僕は自分が仰向けになっていることに気付いた。思わず体を動かそうとした途端、激しい痛みを感じた。


「うっ……!」


 全身に激痛が走った。また気を失いそうだった。


「動かないでください」


 傍から女性の声が聞こえてきた。目を向けるとレベッカさんが僕の傍に座っていた。


「生きているのが不思議なくらいです」


 僕は体中に包帯を巻かれて、焚き火の近くで仰向けになっていたのだ。レベッカさんがずっと看病してくれたんだろう。


「レ、レベッカさん……」


 僕はやっと言葉を発した。


「どうして……」


 激痛のせいでそれ以上は言えなかった。でも僕の言いたいことは彼女に伝わったはずだ。


「セトさんの話によると、アルビンさんも魔法の力をお持ちのようですね」


 レベッカさんは意図的に話を逸らした。


「どうやら魔法の力も……別に人を幸せにしてくれたりはしないようです」


 彼女は口を黙った。僕は美しい星空を見上げながら……夢の中で聞いた言葉を思い出した。

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