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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第12章.対面
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第118話.種明かし

 レオノラさんと仮面の魔導士を除いて、他の人々はみんな混乱に陥った。

 『古代エルフ』は本当に童話の中の存在だ。彼らの帝国はもう数百年前に滅び、彼らの文字や文化はほとんど忘れられた。今のエルフ族ですら古代エルフについてはよく知らない。それなのに……目の前の色白な美男子は自分が古代エルフだと言った。


「王室魔導士様……」


 ギボン伯爵がレオノラさんを呼んだ。


「本当にこの男が古代エルフだとお思いですか?」

「はい、その可能性が高いです」


 レオノラさんが迷わず答えた。


「最初から怪しいと思っていました。いくら優れた才能の持ち主だとしても、今の時代の魔導士が古代エルフの魔法を自由に使うのは無理ですから」


 確かに僕も姫様に会う前は、魔法なんか作り話だと思っていた。30年以上領主を務めていたギボン伯爵も魔法の効力について半信半疑だった。今の時代の魔法って、もう魔法というより理論や学問に近いのだ。


「しかしこの人は遠距離からの呪いや大量召喚など、古代エルフの魔法を完璧に再現しました。まるで古代エルフが現実に現れたかのように、ですね」


 レオノラさんは冷静な口調で説明を続けた。


「しかもこの人は下水道に隠されていた古代エルフの遺跡に忍び込んで、魔獣を操りました。もしこの人が自分で遺跡を調べ、魔獣を研究したのなら……少なくともある程度の痕跡を残したはずです。でもそういう報告は皆無です。そして最後に……」


 レオノラさんとセトの視線が交差した。


「これは私がエルフ族だからこそ感じることですが、この人……少し違和感があります」

「違和感……ですか?」

「はい。上手く説明はできませんが、エルフ族同士は耳の形とかで互いの出身が何となく分かることがあります。しかしこの人からは……ただただ違和感を感じます」

「なるほど……」


 ギボン伯爵が頷き、セトに向かって「おい、お前」と呼んだ。


「お前は本当に古代エルフなのか?」


 しかしセトはその質問を無視した。『もう答えたのに何故聞くんだ?』という態度だ。


「じゃ、お前が本当に古代エルフだとして……お前の目的は何だ?」


 セトはギボン伯爵を見上げたが、質問には答えなかった。


「セトさん」


 レオノラさんが口を挟んだ。


「もしかして貴方は……古代エルフの帝国を再建するつもりなんですか?」


 レオノラさんの質問を聞いて、セトの顔に少しだけ表情が浮かんだ。それは……笑いだった。


「ふふふ……」


 セトは声を出して笑った。ずっとお人形みたいだったのに、今は愉快に笑っている。


「……何が可笑しいんですか?」


 レオノラさんが聞くと、セトは口を黙った。どうやら答える気はないらしい。


「昨日の戦いで……貴方は意外にあっさりと降参しましたね」


 レオノラさんは別の方向から話を勧めた。


「脱出する自信があったからなんでしょう? でも……今貴方を囲んでいる結界は、魔法の力を完璧なまでに抑制するものです」


 セトの周りには、『結界の矢』から取り外した『結界石』が置かれていた。レオノラさんの研究と『世界樹の実』の力を合わせたものだ。


「どうですか? 脱出できそうですか?」


 それは挑発だった。挑発されたセトはレオノラさんを凝視しながら、ゆっくりと口を開く。


「この結界を作ったのは……君か?」

「はい」

「素晴らしい」

「……古代エルフから褒められるなんて、光栄です」


 レオノラさんは無表情でそう言った。


「それで、結局目的について話すつもりはありませんか?」

「ない」


 セトの短い答えを聞いて、レオノラさんもギボン伯爵も首を横に振った。


「重罪人に情けをかけ続けるほど、こっちも人好しではないんだよ」


 ギボン伯爵が兵士たちに合図した。兵士たちは拳を握ってセトに近づいた。


「あ、あの……!」


 思わず声を出してしまって、僕自身も驚いた。


「アルビン君?」

「あの……もうちょっと、話してみるのがよろしいと思います」


 僕は何をしているんだ? 伯爵のやることに口を出すなんて……。


「……アルビン君の気持ちも分かる。よし、もうちょっと話してみよう。実力行使は後でも遅くない」


 ギボン伯爵がそう言ってくれて、僕は内心ほっとした。

 もちろんセトは……『仮面の魔導士』は敵だ。それは分かっている。でも……人が一方的に殴られるのはあまり見たくない。

 僕はいつか目撃した場面を思い出した。エルフ族の男が兵士たちに殴られる場面だった。もちろん犯罪者なら罰せられて当然だけど……。


「なるほど」


 セトが僕を見つめながら呟いた。


「相変わらずだな」


 相変わらず……? どういう意味だ?


「セトさん」


 レオノラさんもその呟きを見逃さなかった。


「貴方、もしかしてアルビン君のことを知っているの?」

「いや」


 セトが首を横に振った。


「彼個人を知っているわけではない。ただ……」


 セトの顔の再び笑いが浮かんだ。


「その行動には見覚えがある」

「……もうちょっと詳しく話してくれませんか?」


 レオノラさんの要望にセトは頷いた。


「よかろう。彼は……」


 みんなが息を殺してセトの次の言葉を待っていた時、いきなり誰かが倉庫に入ってきた。


「失礼いたします」


 レベッカさんだった。彼女はいつも通り水差しとコップを持っていた。


「レベッカちゃん」


 ギボン伯爵は眉をひそめた。


「お水は後にしてくれないか。今はいい」


 ギボン伯爵が指示したが、レベッカさんは引き下がらなかった。


「伯爵様、これはお水ではありません」

「何? じゃ……」

「誠に申し訳ございません」


 僕を含めて、全員レベッカさんの行動が理解できなかった。彼女はゆっくりと手を動かして……水差しの内容物を床にぶちまけた。


「何を……!」


 最初に反応したのはケイト卿だった。しかし次の瞬間、彼女はふらついた。いや、ケイト卿だけではなく……倉庫の中の全員が……急に体の力が抜けたかのようにふらつき、地面に倒れた。


「うっ……」


 そして僕も異常を感じた。何か分からないけど……苦い匂いとともに目眩がして……体が動かない!

 僕は地面に膝をついた。そしてレベッカさんが兵士から鍵を奪い、セトを拘束している鎖を解くことを見つめた。


「あの人、まだ倒れていません」

「当然だ」


 レベッカさんとセトが会話した。この二人は……。

 自由になったセトは、周りに置かれている『結界石』を集めて自分の懐にしまった。そして兵士から剣を取り上げ……ギボン伯爵に近づいた。


「32年前」


 セトはギボン伯爵を見下ろして口を開いた。


「お前は濡れ衣を着せられたエルフの男を処刑した。それが濡れ衣だと分かっていたにもかかわらず、だ」


 僕は膝をついたまま……セトが剣でギボン伯爵の胸を刺す場面を見つめた。ギボン伯爵は……大量の血を流した。

 そしてセトは僕に近づいた。僕は必死に体を動かそうとしたが……セトはそんな僕の頭を剣の柄で容赦なく殴った。

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