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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第12章.対面
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第117話.尋問

 下水道での戦いは、僕たちの勝ちで終わった。

 僕たちは仮面の魔導士を連れてギボン伯爵の屋敷に戻った。そして屋敷地下の倉庫に仮面の魔導士を閉じ込めた。これで一息つける……のならいいけど、そうはいかなかった。

 仮面の魔導士は古代エルフの魔法が使える危険な存在だ。故に24時間ずっと結界を張って警戒しなければならない。そしてそれができるのはレオノラさんと僕だけだ。

 結局レオノラさんと僕は交代して体を洗った後……倉庫のテーブルに座って眠気と戦いながら、手足を鎖に縛られている仮面の魔導士を見張った。しかしそれもそろそろ限界だ。


「レオノラさん」

「ん?」

「僕がちゃんと見張りますから、少し休んでください」

「いや、でも……」

「兵士の方々もいますし、数時間くらいなら一人で結構です」


 薄暗い倉庫の中には、僕とレオノラさん以外にも2人の兵士がいた。一度作動させた結界は数時間くらい持つから、たとえ仮面の魔導士が暴れたりしても3人で制圧できるだろう。


「……確かにこのままずっと起きているわけにもいかないわね」

「そうですよ。レオノラさんが倒れたら大変ですから」

「じゃ、少し横になるから……何かあったら起こしてね」

「はい」


 レオノラさんは倉庫の入り口の近くまで行き、ギボン伯爵が用意してくれた毛布を被って横になった。そして数秒後、彼女は眠りについた。相当疲れていたんだろう。

 僕は仮面の魔導士の方を振り向いた。彼は壁に背中をつけて座り、ずっとこちらを見つめていた。彼の色白な顔には相変わらず何の表情もなく、口も黙ったまま何も言わない。これでは本当にお人形を拘束しているようなものだ。

 ……この静かな美男子が、本当にエリンとエルナンの命を狙っている人なんだろうか。本当に我が王国を危機に陥れようとしている人なんだろうか。彼の色白な顔を見ていると、不思議にも悲しい気持ちがして……あんな恐ろしい事件の張本人とはにわかには信じがたい。


「失礼いたします」


 誰かが倉庫に入ってきた。振り向くと……それはレベッカさんだった。


「アルビンさん、どうぞこれを」

「ありがとうございます」


 レベッカさんは暖かい飲み物とお菓子を持ってきてくれた。本当にありがたい話だ。僕の分だけではなくレオノラさんや兵士たちの分もあったけど、レオノラさんは寝ているし兵士たちは任務中だからと遠慮したので……結局僕は一人で4人分の飲み物とお菓子を処理しなければならなくなった。

 僕はふと席から立って、飲み物とお菓子を持って仮面の魔導士に近づき……無言で彼に渡した。


「……ありがとう」


 やっと仮面の魔導士が口を開いて一言言った。そして僕と仮面の魔導士は沈黙の中で飲み物を飲み、お菓子を食べた。


---


 レオノラさんと交代して、僕も少し休んだ。いくら『世界樹の実』があってもやっぱり全然休まないのは無理だ。

 そして次の日の正午……僕とレオノラさん、ケイト卿とヒルダさん、そしてギボン伯爵が倉庫に集まった。これから仮面の魔導士を……『尋問』するのだ。

 僕は少し複雑な気持ちだった。数ヶ月前、僕は『尋問される側』だった。しかし今は『尋問する側』だ。これも運命なんだろうか。

 皆が注目している中、ギボン伯爵が後ろ手を組んで仮面の魔導士に近づいた。そして彼を見下ろしながらゆっくりと口を開く。


「私はこのグレーポートの領主、ギボン伯爵だ」


 それが尋問の始まりだった。他の人々は少し離れてギボン伯爵と仮面の魔導士を見守った。


「既に宣言した通り、お前には国家反逆の容疑がある」


 仮面の魔導士は何の反応も見せなかった。


「国家反逆は重罪だ。だがお前が素直に協力してくれれば、私も手荒な真似をするつもりはない」


 他の領主だったら問答無用で拷問にかけたかもしれない。ギボン伯爵は比較的に温和なんだろう。


「じゃ、最初の質問だ。お前の名前は?」


 仮面の魔導士は虚ろな目で、少し間を置いてから口を開く。


「セト」

「セト? それがお前の名前か」


 僕を含めて、みんな少し驚いた。仮面の魔導士が素直に答えるとは予想外だった。


「セト、お前はどこの出身だ?」


 その質問には何の答えも返ってこなかった。


「どこで魔法を学んだ? カルテア王国か?」


 仮面の魔導士……いや、『セト』は沈黙するだけだった。


「……尋問に協力しなければ、私もやり方を変えるしかない」


 ギボン伯爵が兵士たちを見つめた。兵士たちはセトの腕を掴んで起こした。これから……殴るんだろうか。


「お待ちください」


 僕の傍からレオノラさんが声を上げた。


「伯爵様、私に質問させてください」

「……分かりました」


 ギボン伯爵は後ろに下がった。レオノラさんなら何か妙案があるかもしれないと判断したんだろう。レオノラさんはギボン伯爵に「ありがとうございます」と言ってから前に出た。


「私はラべリア王国の王室魔導士、レオノラです」


 兵士たちに両脇を抱えられたまま、セトはレオノラさんを見つめた。


「セトさん、単刀直入に聞きますが……」


 レオノラさんはセトの顔を凝視した。


「貴方は古代エルフですか?」


 予想外の質問に、皆の視線が交差した。僕も驚いて息を呑んだ。


「……そうだ」


 そしてセトが無表情で答えた。

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