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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第12章.対面
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第114話.幻想

 目を覚ますと、僕はある都市の領主になっていた。

 都市は平和だった。しかしある日、恐ろしい事件が起きた。住民たちは領主の僕に早い解決を要求してきた。だが証拠らしきものがあまりにも少なくて、調査は難関にぶつかった。

 そんな中、住民たちが集まって一人の男を告発した。評判が悪く、軽犯罪で逮捕されたこともある男だった。

 しかしいくら調査しても、その男が犯人だということは証明されなかった。疑わしいけど疑いが全部だった。だから僕はその男を釈放しようとした。

 住民たちは僕の決定に反発した。僕が犯罪者を野放しにしていると声を上げた。だがそれでも僕は決定を覆さなかった。

 そして数日後のことだった。一部の住民たちが、釈放された男に集団で暴力を加えた。加害者たちはそれが正義だと信じていた。僕は彼らを暴行罪で逮捕した。それで僕に対する住民たちの不満は爆発した。

 蜂起が起こった。住民たちと警備隊がぶつかった。血と涙が流れ、悲鳴が響き渡った。平和だった都市は一瞬で悲惨な場所に変わってしまった。

 主犯格の男が逮捕され、やっと蜂起が収まった。僕は主犯格の男と対面した。


「お前も同じじゃないか」


 主犯格の男は僕を睨みながらそう言った。


「お前も正義のために騎士を殺したじゃないか。同類のくせに偉そうな顔するなよ」


 処刑される直前まで、主犯格の男は僕を嘲笑し続けた。その顔が忘れられなくて……僕はお酒を飲んだ。


「僕は……」


 果たして正しかったのか?


---


「ここはひとまず周りを調査した方がいいと思います」


 いきなり女性の声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはレオノラさんが立っていた。レオノラさんだけではない。ギボン伯爵、ケイト卿、ヒルダさん、兵士たち……いつの間にかみんな僕の周りに戻っていた。

 サイモンは? 都市は? 蜂起は? いや、それは……全部幻想だ。僕は自分の体を見ろして安心した。僕は元羊飼いのアルビンだ。他の誰でもない。


「アルビン君? どうしたの?」


 レオノラさんが目を丸くして僕を見つめた。


「アルビン君は少し疲れたようだね。無理もない」


 ギボン伯爵が頷いた。


「では魔導士様の提案通り周りを調査しよう」


 ギボン伯爵は兵士たちを5人ずつ組ませた。レオノラさんが彼らに「何か怪しいものを見つけても、むやみに触れたりせず私に知らせてください」と注意した。兵士たちは一斉に「はっ!」と答えてから調査を始めた。


「レオノラさん」


 頃合いを見てこっそりレオノラさんに話しかけると、彼女は僕を凝視した。


「アルビン君、やっぱり何かあったんでしょう?」

「はい、実は……」


 僕はさっきの幻想をできるだけ詳しく説明した。


「なるほど……そういうことがあったのね」

「僕の妄想なのでしょうか」

「ううん、たぶん幻影魔法の一種だと思う。でも……」


 レオノラさんは口に手を当てて考え込んだ。


「……やっぱり近くにいるのかもしれない」

「はい?」

「アルビン君だけを狙って、あんな強力な幻影魔法を使った……つまり仮面の魔導士は私たちを監視できるほど近くにいるのかもしれない」


 最初からこの下水道は仮面の魔導士の罠だ。どこかにこっそり隠れてこちらを見ているのかも……そう考えると背筋がぞっとしてきた。


「そう言えば、仮面の魔導士は王子を襲撃した時もいきなり姿を現しました。その時のように何か魔法を使っているんでしょうか」

「仮に幻影で姿を隠しているんだとしても、私が探知できるけど……」


 レオノラさんが周りを見回した。


「でも魔力の気配はあっても、その根源である魔導士の気配はない。どういうことかしらね……」


 レオノラさんは眉をひそめた。


「とにかく、これで相手の狙いはアルビン君だと分かった」

「そうですね……」


 僕が仮面の魔導士を意識しているように、向こうも僕を意識している。一体……どういう人間なんだろう。


「魔導士様!」


 ケイト卿の声が聞こえてきた。僕たちは急いで彼女の方に向かった。


「何事ですか?」

「この壁を見てください」


 ケイト卿は右手でランタンを持ち、左手で近くの壁を指さした。


「これは……」


 手の跡だった。しかもホコリが溜まっていない。新しいものだ……!


「兵士たちが残したものなんでしょうか」


 周りには兵士たちの足跡でいっぱいだった。この手の跡も兵士たちのものかもしれない。しかしケイト卿は「いいえ」と答えた。


「痕跡の角度と高さに注目してください」


 ケイト卿が壁側にしゃがんだ。すると手の跡はちょうど彼女の傍だった。


「誰かがこうして壁側にしゃがんでいたが……私たちが近づいてくると、急いで壁に手をついて立ち上がった。これはその痕跡です」


 ケイト卿がその動作を再現した。するとまったく同じ手の跡ができた。


「なるほど、つまり……」

「はい、ついさっきまで誰かが私たちを覗いていました」


 いや、でも……こんな近くにいたのに誰にも知られないなんて。


「え?」


 その時、僕は妙な感覚を覚えた。ケイト卿の後ろの暗い空間が……動いた。


「どうした?」

「何か動いたような気がしまして……」


 ケイト卿は体を起こして、ランタンで周りを照らした。しかし何もない。やっぱり僕の錯覚だったのか?


「……誰だ!」


 次の瞬間、ケイト卿がいきなりランタンを投げ飛ばした。ランタンは反対側の壁にぶつかって地面に落ちたけど、光は消えなかった。おかげで僕たちは目撃した。


「煙……」


 そこに立っていたのは黒い煙だった。煙が……人のような形をしていた。そして僕たちが見つめると、煙は背を向けて逃げ出した……!


「追いかけましょう!」


 レオノラさんが声を上げた。それで僕とケイト卿とヒルダさん、そして周りにいた兵士たちははっと気づいて走り出した。


「くっ……!」


 僕は走りながらランタンで前方を照らした。ちらちらと煙の『足』が見える。一体何なのかは知らないが、僕たちの前を走っているのは確かだ!


「あ……!」


 煙を追いかけて数秒くらい走った時、僕は危うく壁にぶつかってしまいそうだった。そこは行き止まりだったのだ。


「こっちだ!」


 ケイト卿が壁の隅を指さした。穴が開いている。人一人がやっと通れそうな穴が。

 僕とケイト卿とヒルダさんは視線を交わした。敵は……この中で僕たちを待っている。

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