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羊飼いと亡国のお姫様  作者: 書く猫
第11章.追跡
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第105話.調査

 僕とレオノラさん、そしてケイト卿とヒルダさんは一緒にギボン伯爵の屋敷を出た。冬の昼間は本当に短くて、もう空が少し暗くなっていた。

 外に出てから一旦僕たちが乗ってきた馬車に戻った。追跡と逮捕に必要な装備を備えるためだ。


「魔導士様、アルビン君。これを」


 ヒルダさんが僕とレオノラさんに何かを渡してくれた。受け取ってみると、それは革でできた兜と鎧だった。


「万が一のため、身に付けてください」


 僕とレオノラさんは素直に兜を被り、普段着の上に鎧を着た。

 兜や鎧を身に付けるのは初めてだ。王立軍の装備なだけに軽くて頑丈で、刃物などに対しては確かに役に立ちそうだ。


「アルビン君」


 レオノラさんが普段とは違う真面目な態度で僕を呼んだ。


「これを持ってね」

「はい」


 僕がレオノラさんからもらったのは……10本の矢が入った矢筒だった。


「作戦は分かっているよね? 私が魔法を発動させると、アルビン君が射撃すればいい」

「はい」

「別に相手に当てる必要はないわ。足下を狙うのが最善よ」

「分かりました」


 この10本の矢こそが、仮面の魔導士を捕まえるための手段である『結界の矢』だ。その名の通り、小さい結界を発生させて魔法を無力化する力がある。これはレオノラさんの何ヶ月に渡る研究の成果であり……最終的には僕の弓術に合わせて矢の形となったのだ。


「もちろんの話だけど、絶対私から離れないで」

「はい」


 この『結界の矢』を発動させるためには、僕の体内の『世界樹の実』の力をレオノラさんが引き出す必要がある。だから作戦中はレオノラさんの傍から離れてはいけない。


「皆さん、準備は終わりましたか」


 声量のある声が聞こえてきた。振り向いたら、僕たちと同じく革の兜と鎧を身に付けたギボン伯爵が近づいてきた。


「伯爵様……?」


 レオノラさんが怪訝そうな顔で口を開くと、ギボン伯爵は笑顔になった。


「私が皆さんの道案内を務めさせていただこうと思いまして」

「でも伯爵様自らが……」

「ご心配には及びません。こう見えても自分の身は自分で守られますし、兵士たちも連れて行きますから」


 ギボン伯爵は手に持っていたものを僕たちに見せた。それは……洋弓銃クロスボウだった。王立軍の兵士たちが訓練で使っていたものを見たことがある。


「さあ、私についてきてください」


 ギボン伯爵が屋敷の庭園を横切って、外へ向かった。僕たちと約30名の兵士たちがその後を追った。


「本当にいいんでしょうか。領主のギボン伯爵の身に何かあったら……」


 ちょっと心配になった僕が小声でレオノラさんに聞くと、彼女は苦笑した。


「まあ、ケイト卿もいるし……問題はないと思うけどね。でもあの伯爵……ちょっと変な人だね」

「レオノラさんから変な人だと言われるなんて……何か凄いですね」

「アルビン君、それ何の意味?」

「何でもありません」


 やがてギボン伯爵率いる一行が複雑な街の中に進入した。街の人々は手を止めてこちらを見つめた。僕は彼らの眼差しから……尊敬と恐れを感じた。ギボン伯爵は思ったよりもいい領主なんだろうか。

 それから1時間くらい南に進むと、港が近づいてきた。海が……見えて来る。


「寒い」


 レオノラさんが呟いた。確かに海の方から吹いてくる風のせいで寒い。しかし僕は寒さ以上に感動を感じた。

 近くで見ると、青い海は底が見えなかった。やっぱり恐ろしくて……美しい。そしてそんな美しい海の上を船たちが走っていた。どれもびっくりするほど大きい船だけど、海が広すぎて……まるで平原を走っている小さな羊のように見える。


「ここです」


 ギボン伯爵の声が聞こえてきた。僕は気を引き締め直して、任務に集中した。


「ここの倉庫たちのほとんどは私の所有物です」


 ギボン伯爵が港の隅に建てられている大きな木造建物たちを指さした。


「8割くらい、商人たちに賃貸していますが……使われていないものもあって、たまに密航者たちが潜み込むこともあります」

「なるほど。では、これから調査を始めますので、この周りを封鎖してください」


 レオノラさんが言うと、ギボン伯爵は「分かりました」と答えて兵士たちに指示を出した。


「アルビン君」

「はい」

「警戒を怠らないように」

「はい」


 僕とレオノラさんは一緒に倉庫たちやその周辺を歩き回りながら調査を進めた。ケイト卿とヒルダさん、そして兵士たちは一歩後ろを歩いた。

 歩いている内に空が完全に暗くなった。兵士たちが僕にランタンを渡してくれた。僕たちは暗い港の中を小さな光に頼って歩いた。


「そう言えばさ」


 ふとレオノラさんが小さい声で言った。


「密航者たちから聞き出した、仮面の魔導士の目撃情報……ちょっと変だと思わない?」

「はい、実は僕もちょっと変だと思っていました」

「そう?」

「はい。そもそもどうして……仮面の魔導士は密航する時もわざわざ仮面をつけていたんでしょうか」


 僕の言葉にレオノラさんが頷いた。


「アルビン君も気付いていたんだね。そう、その点が変なのよ」


 僕たちは仮面の魔導士についてほとんど何も知らない。男なのか女なのかすら知らない。つまり、もし仮面の魔導士が仮面を外して密航したら、僕たちはそれが仮面の魔導士か否かすら知る方法がなかった。しかし彼の者がわざわざ仮面をつけて密航してくれたおかげで……僕たちはここまできた。


「考えられる可能性は二つね」


 レオノラさんはランタンで周りを照らしながら話を続けた。


「まず一つは……仮面をつけていた密航者が、実は仮面の魔導士とは別の人物だった可能性ね」

「もう一つは?」

「もう一つは、密航する時も仮面をつけなければならない理由がある可能性」


 仮面をつけなければならない理由って、一体何があるんだろうか。


「まあ、顔に大きな傷があったり……とにかく何か特徴があって、仮面をつけなければすぐ正体がばれるのかもしれないね」

「なるほど……あり得る話ですね」


 僕は頷いた。


「皆さん」


 その時だった。ギボン伯爵が近づいてきた。


「何か見つけましたか?」

「いいえ、まだ何も……」


 レオノラさんが首を横に振ると、ギボン伯爵は残念そうな顔をした。


「もうちょっと調べてみましょうか」


 僕たちはギボン伯爵と合流して調査を続けた。しかし港の隅々まで調査しても……結局何も見つけられなかった。


「……今日はこの辺にしましょう」


 やがてケイト卿が宣言した。


「王室魔導士様もお疲れの様子ですし……明日別のところを探してみましょう」


 皆頷いた。結局僕たちは何の成果も得られず、暗い海を後にした。

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