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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第3章〜天空の巨獣〜
94/201

猛攻

「もう、容赦しないぞ!」


 その言葉だけを言い残し、シェイバは強く地を蹴り飛ばして城壁から飛び降りた。


「ちょ、シェイバさん一人じゃ危険です。戻って下さい!!」


 突如城壁から飛び降りたシェイバの行動に絶句したロリちゃんは、慌てて城壁に乗り出し、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。

 しかし、怒り心頭に達したシェイバは、ロリちゃんの制止の言葉を振り切ると、触手の雨を掻い潜って百メートルの距離を僅か三秒という驚異的な速度で潰す。


 "人喰い"の真下に辿り着いたシェイバは、最早魔力の温存という大切な事が頭からすっぽりと抜け落ち、脚へ〈身体強化〉の魔法を掛け、地面が爆ぜる勢いで地面をけって、自身を弾丸と化した。


 漆黒の弾丸となったシェイバへ、近づけさせまいと大量の触手が殺到する。

 目の前は触手によって遮られ、最早壁と化していた。

 触手と触手の間は限りなく無に近く、通り抜けるのは至難の業。回避もほぼ不可能と言っていいだろう。


 しかし、もとより今のシェイバのには、回避と言う二文字は存在しなかった。


「邪魔!!」


 シェイバは吠える様に怒声を飛ばすと、剣を持つ手に力を入れ、覆い尽くさんばかりの触手を片っ端から斬り伏せる。

 一本、また一本と触手はシェイバへ触れる前に全て断ち斬られ、血と斬り落とされた肉片だけが地に落ちてゆく。


 迫りくる敵を排除しようと迫りくる触手は、その全てが呆気なく斬り捨てられる。

 しかし、その無駄とも言える触手の雨は、弾丸とかしたシェイバの勢いを確実に殺していた。


 触手が近づけば剣を振るい斬り飛ばす。その度に体は()()、飛び上がった際の勢いは落ちる。


 少しづつ確実に速度が落ちるシェイバへ"人喰い"は更に触手を集中させる。


 破城槌が空気を押し除ける様に横から迫る。

 足場のない空中で直撃を受ければ、衝撃を受け流せずに食らう為、その際に受けるダメージは尋常ではない。

 例え〈魔力硬化〉や〈魔力障壁〉を使用したところで、大ダメージは免れないだろう。


 だから、シェイバは体を無理矢理捻り、破城槌の一撃をギリギリのところで躱す。

 途端、今度は真上から触手の剣が、文字通り雨の如く降り注ぐ。


 無理やり攻撃を躱した事で、体が泳いでいる今の状況では、剣の雨を避けるのは絶望的である。


 その光景を城壁の上から見ていたクラリス達は、もうダメだ、とシェイバが串刺しになるのを幻視し、思わず目を逸らす。


 誰もが、シェイバも殺される、そう思った瞬間、思いもよらない事態が起こる。


 身動きの取れない空中で、触手の剣が一斉に降り注ぐという絶体絶命のピンチの中、シェイバが()()()()()のだ。


「えっ!」


「何したんだ?!」


「ど、どゆこと?!」


 突如起きた理解不能なシェイバの動きに、口をあんぐりと開け、驚愕に目を見開く冒険者たち。


 どうして空中を自由自在に動けるのか、答えは至極簡単。

 魔法の中に〈天翔〉という空を飛ぶ魔法があり、シェイバはその魔法を使って(そら)()んでいるのだ。

 分かってしまえば他愛もない話である。


 しかし、冒険者(彼ら)は〈天翔〉という魔法を知らない。というより、そもそも空を飛べる魔法がある事自体を知らない。


 ギルドにて、シェイバが〈天翔〉の魔法を口にした際、ギルドいた殆どの者が、その魔法は唯の単純な移動魔法であると推測していた。

 現代において、空を飛ぶなど夢の話であり、物語の中での話である。


 だが、実際には数千年も前から存在している魔法である。


 しかしながら、この魔法は会得が非常に困難であった。故に、年月が経つにつれて使う者も減り、それに比例する様に、〈天翔〉という魔法を知る者も減っていった。

 その為、この魔法は少しづつその存在を消したのである。


 そして、数千年が経つ頃には〈天翔〉という言葉が完全にその姿を消し、物語の中で"空を飛ぶ魔法"という形で存在するのみとなったのだ。


 つまり、〈天翔〉という魔法を知らない彼らからすれば、この魔法は物語から抜き取った、ぶっ飛んだ魔法なのである。


「すげぇ、空飛んでらぁ……」


「あの魔法、教えてくれないかな?」


「いいなぁ、私も自由に空を飛びたい」


「夢があるよなぁ……」


 触手がシェイバに集中した為、いつのまにか攻撃が止んだ城壁の上では、ボロボロになりながらも数人の冒険者が空を飛ぶシェイバを見て、羨ましそうに呟く。

 人間誰でも一度は自由に空を飛びたいものなのだ。


 シェイバは縦横無尽に飛び回り、殺到する触手を片っ端から斬り落とす。

 しかし、いくら触手を斬ったところで、"人喰い"本体にはさほどのダメージも無い。ましてや、斬り落とされた所から再生が始まるのだ、寧ろダメージなどあって無いようなものである。


「このままではジリ貧だな、はぁ、はぁ……やはり直接本体へ攻撃しなければ!」


 触手の激しい攻撃を耐え抜ぬく全身は傷だらけ。

 着込んだ服が赤く染まった姿で、荒い呼吸を上げながら、ガルフォードは険しい表情で呟く。


 視線の先には、大量の触手をシェイバが次々と斬り飛ばしている。

 しかし、触手の勢いが止まる気配はない。寧ろ、増しているだろう。


「マズいな……!」


「ええ、シェイバが追い詰められております。それに、あの空を飛ぶ魔法、かなり魔力消費が激しいのでしょう。その証拠に、何度も不自然な落下を繰り返しています」


「大団長さんの言う通りです。シェイバさんは魔力を少しでも節約するために、魔法を切っては発動を繰り返しているんです!」


「あの触手の雨の中、器用な事するわよね。でも、あれもいつまで続くか分からないわ。ていうか、シェイバちゃんには"人喰い"にとどめを刺すっていう重大な役目があるんだけど、忘れているのかしら?」


「それにしても、見事なものだよ。まったく……!」


「はい、剣一本であの触手を捌ききってます!」


「魔法といい、剣技といい、どれも超が付く一流だと判断した」


 四人はシェイバのデタラメな戦いっぷりに瞠目する。そんな中、後ろからユルトが歩み寄ると、そこら辺に散歩にでもいくかの様な口調で、唐突に告げる。


「ここで見てるのもあれだから、僕も行ってくるよ」


 無駄に爽やかな笑顔でそう言うと、城壁から一歩を踏み出し、そのまま降りていく。


 あまりに唐突過ぎた言葉と行動に、状況の掴めない四人は暫く呆然とする。


 その間にも、ユルトはシェイバに加勢する為、大地を駆け抜けて"人喰い"へと迫る。


 未だ"人喰い"はシェイバに意識を向けており、ユルトの存在には気付いていない。いや、気付いているのかもしれないが、シェイバ一人に手一杯と言う様子である。  


「シェイバちゃん凄いね、あんな風に空を飛んで戦うなんて…… 僕はあんな魔法は使えないから少し羨ましいよ。だけど――」


 ユルトは"人喰い"の真下までやってくると、脚に力を込めて全力で跳躍する。


 そして、ある程度まで跳び上がると、自然と勢いが無くなり、あとは重力に引っ張られて下へ落ちていく。

 だが、ユルトは勢いが落ちて落下が始まる前に、自身の足元に限定的な〈魔力障壁〉を張る。そしてそれを足場に、もう一度勢いよく跳ぶ。


「――こんな事も出来る」


 何度もそれを繰り返し、空中を飛び跳ねながら、"人喰い"へと迫る。


 目の前を触手が通過すれば、邪魔だと言わんばかりに両断し、ごく自然と戦闘に参加する。


 空を飛べずとも、空を縦横無尽に跳びまわり、触手を斬り刻む。

 その度に蹴り飛ばされた〈魔力障壁〉は、ガラスが割れたような音を立てて砕け散り、空へ溶けて消えてゆく。


「シェイバちゃん、加勢しに来たよー!」


「ユルト殿、どうやってここまで……いや、今はそんな事より、援護を頼むぞ!!」


「うん、任せてよ!」


「では、これから"人喰い(やつ)"の()()に行くぞ!」


「了解。じゃあ道を作ればいいんだね。と言いたいところだけど、流石にこの数の触手を前に道を作るのはなかなか骨が折れるね、ましてや魔力に限りがある分、動きも制限されるし」


「む、確かに……」


 ユルトは次々に襲い来る触手を、空中を飛び跳ねながら斬り払い、話を続ける。


「それに、シェイバちゃんは"人喰い"にとどめを刺すって言う重要な役目がある。僕としては、これ以上の魔力の消費は避けて欲しいところなんだけど……」


 ユルトの話に耳を傾けるシェイバの背後から、隙ありとばかりに、周囲の空気を巻き込んで巨大な破城槌が迫る。だが、シェイバは後ろから攻撃が来ている事に当然にように気付いており、ユルトの話を聞きながら、破城槌の攻撃を避け、上から剣を振り下ろして斬り落とす。


「でも、魔力温存なんて言ってられる状況じゃ――」


「それでも、君はやらなきゃいけないんだよ」


 ユルトは鷹揚のない声で告げる。


「シェイバちゃんも分かってるはずだよ。このままズルズルと戦いが長引けば、負けるのは僕達だって……確かに、"人喰い"が攻撃に転じて死者が数え切れないほど出てしまっている。

 今こうして僕やシェイバちゃんが"人喰い"の注意を引き付けているおかげで、あっちの被害は無くなった。でも、それは良い様に見えて、その実状況の悪化を招いている」


 そう、今もこうして戦っている間にも、シェイバは〈天翔〉の魔法による魔力の消費を続けている。

 魔法を使えば使うほど、魔力は当然のように減り、"人喰い"を倒す為の切り札、〈神罰の炎(ウリエル)〉は十分な威力を出せすなってしまう。


 いくら〈神罰の炎(ウリエル)〉の魔法自体が超高威力であったとしても、少量の魔力で"人喰い"を倒せるとは到底思えないし、甘くはないだろう。それはシェイバ自身がよく理解している。


「じゃあ、目の前で救えるはずの命を見捨てろと言うのかっ?!


 シェイバが怒声を発する。そもそも、自分が今戦っているのは、その命を救う為だ。それなのに、その命を見捨てては本末転倒である。

 何より、ルミナスは()()()()が出来る人種ではないのだ。


 困っている人がいれば助け、無理を押し通す。そんなお人好しである。


「君は、甘いね……」


 ユルトは四方八方から銃弾の如く殺到する触手を、それを上回る速度で斬り捨てていく。


 夥しい数の触手と赤い血が下へ落ちてゆく中、ユルトは真顔のまま淡々と話す。


「シェイバちゃん、戦場ってあうのは死人が出て当然なんだよ。何故だか分かる? 単純な話さ。殺し合いをしているからだよ。だからシェイバちゃん、()()()()()()()と割り切るしかないんだ。

 ましてや相手は魔物だ。話が通じる相手じゃないのは、見ての通りだよ!」


 ユルトは視線だけを城壁へ向け、つられてシェイバもそちらへ向けた。


 城壁の上は冒険者や兵士が今も忙しなく走り回り、怪我人を運んでいた。

 足元にはつい先程まで()()()()()()()と真っ赤な血で埋め尽くされており、その光景は悲惨というにはあまりに酷過ぎた。


「っ!!!」


 百メートルほど離れているこの場からでさえ、その様子がはっきり見える。


 三万人もいた兵力は、"人喰い"により今はその数が激減。一万人以下にまで減っていた。

 ここ以外に"人喰い"が喰った人間を合わせると、尋常ではない数の犠牲がでている。


 それは"人喰い"を倒さない限りこの先も増続けるだろう。


 それはきっと、王国だけではない。自身が必要とする主食が無くなれば、"人喰い"はきっと別の餌場を求めて移動を開始する。

 他国にまで行く事は想像に難くない。

 そこでまた罪の無い人々を、ただの餌として喰らうだろう。だからこそ、これ以上の犠牲を出さない為にも、此処で確実に討たねばならない。そして、シェイバはその要とも言える存在であり、魔力は必須条件だ。

 これ以上魔力を使えば、"人喰い"は倒せず、待っているのは全滅という最悪の事態である。


 そしてユルトは、誰よりもそれを理解していた。


「シェイバちゃん、その甘さはこの先きっと、君を追い詰める事になる。

 情を捨てろては言わない。でも、非情にならなきゃこの世界では生きていけないよ……」


 シェイバは馬鹿ではない。今自分がすべき事をちゃんと理解している。


 それが例え、望まぬ事であったとしても。


 シェイバは〈天翔〉を解き、魔力を少しでも抑える為、ユルトと同じく〈魔力障壁〉を足場するスタイルへとシフトチェンジする。

 そして、〈魔導庫〉から適当な鉱石を取り出し、触手の壁に向かって〈電磁加速砲いた(レールガン)〉を放つ。


 青い槍は触手を(ことごと)く破壊して、壁に小さな穴を穿つ。


 その小さな穴へ、シェイバは迷わず突貫し、神技とも言うべき身のこなしをしてすり抜ける。


「わおっ! シェイバちゃん凄い、すり抜けちゃった!」


 邪魔な壁をすり抜けたシェイバは、足元に作った〈魔力障壁〉を蹴り、回り込む様に飛び跳ねて"人喰い"の正面へと躍り出る。


 "人喰い"の目が全てシェイバへと向けられる。


 途端、シェイバは見惚れるほど美しい、白金の魔力を纏う。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 自身の後方に〈魔力障壁〉を展開して、それを裂帛の気合いと共に蹴る。

 その数秒後、遅れて強烈な衝撃波が生まれ、空間を震わす。


 シェイバは自信を弾丸と化し、ギリギリ視認できる速度をもって、"人喰い"の顔面へ流星の如き飛び蹴りをぶち込んだ。


「ゴッ……ギッ………アガッ?!!!」


 強烈な衝撃波を生んだシェイバ渾身の飛び蹴りは、"人喰い"の顔面を大きく()()()、その巨体を後方へと飛ばす。


 〈身体強化〉と〈魔力硬化〉を限定的に脚へのみ使い、魔力を最小限に抑えた一撃は、"人喰い"の巨体をも吹っ飛ばす。しかも、威力を増大させる為、脚先に〈拡散魔導衝撃波(ゼルエル)〉を付与するという神技。

 そこには緻密で高度な魔力操作が行われており、並大抵のことではなし得ない戦闘技術である。それは、かの"七災の怪物"の一体。"神滅龍 ラギウス・ヘカートツヴェイン"ですら困難な技である。

 それをぶっつけ本番で成し遂げたシェイバの技量は、驚嘆に値する。


「………すご」


 百メートル以上吹っ飛ばしたシェイバの一撃に、思わず一言声が漏れたユルトは、珍しく苦笑いを浮かべ

地上に着地する。


 一方、飛び蹴りを放ったシェイバはというと――


(ぐあっ! 〜〜〜ッ!!)


 ――〈身体強化〉と〈魔力硬化〉を脚先に全開(フルパワー)でかけていたとは言え、そこへ〈拡散魔導衝撃波(ゼルエル)〉という破壊力抜群の魔法の重ねがけにより、全身の骨は呆気なく折れた。


 流星の如き一撃は、確かに凄まじい威力を誇った。

しかし、その強すぎる衝撃故に、肉体は当然のように耐えきれず、全身骨折というツケが回ってきたのだ。


 普通なら死んでいてもおかしくはないダメージなのだが、シェイバには特殊能力(スキル)【再生】がある。骨が折れたその瞬間から再生は始まり、折れた骨は元通りとなる。


特殊能力(スキル)が無ければどうなっていたか……それに全身骨折の痛みは尋常じゃなかったぞ。失神しなかったのは日頃の鍛錬の賜物だ……)


 全身の骨が元通りになると、シェイバは空中でくるり回り、重さを感じさせない軽やかな動きで着地する。


「凄いねシェイバちゃん、"人喰い"が百メートルぐらい吹っ飛んだよ」


「……できれば、もう百メートル吹っ飛んで欲しかったぞ!」


「いや十分だよ……」と一言呟くと、ユルトは後方へ首を回す。


 すると、王都の方角から二つの人影がこちらへ駆けてくる光景が目に映る。


「シェイバさん、銀王さん、ご無事ですか?!」


「二人共大丈夫?!」


「クラリス殿にロリちゃん先輩!」


「僕達は見ての通り大丈夫だよ。ていうかほぼ無傷だしね」


「そうですか、良かった……!」


「ところで王都の方はどうなってるの?」


「今は辺境伯様と大団長様が指示を出して、ケガ人の治療と態勢の立て直しを優先的にしているわ」


「はい、おそらくお二人はあちらに付きっきりになりますから、こちらには来れません!」


「そう、じゃあ後は僕達だけで"人喰い"と戦うわけだね」


「いえ、多分態勢立て直したら増援が来るはずだけど……貴方にそれを言っても無駄そうだから、この際それでいいわ」


 ユルトが割と真剣な顔でそう言うと、クラリスが半ば呆れたようにぼやく。


 ユルトは常識的ではあるが、こう言う戦闘に関しては頭のネジが一本飛んでおり、本人にその自覚はない。


 それをこの短い間で理解したクラリスは、ユルトに対してツッコム事をやめた。諦めたという方が正しい。


「それよりも、今のシェイバさんの一撃で"人喰い"が更に百メートル後退しました。目標まで残り百メートルです!

 シェイバさん、残存魔力はどれ程ですか?」


「さっきの独断行動で少し使ったけど、まだ半分あるぞ。これなら十分な威力の魔法を撃てる!」


「分かりました……」と呟くと、ロリちゃんは鞄に手を突っ込み、中から魔力回復薬を三本取り出して、シェイバに渡す。


「気休め程度ですが、使って下さい」


「……ロリちゃん先輩の分は?」


「心配しないでください。まだ三本あります!」


「そうか、なら遠慮なく頂く。ありがとう」


 シェイバはどうやって飲んでいるのか、兜を付けたまま魔力回復薬三本を一気に飲み干す。


 魔力がほんの少し回復する程度ではあるが、このほんの少しの違いが心に僅かな余裕を与える。


「……ユルト殿、クラリス殿、ロリちゃん先輩。おそらくここからは激戦になる。死ぬかもしれない。でも、あと百メートル、"人喰い"を倒す為に是非協力して欲しい!」


「良いよ、此処まで来たら、とことんやろう」


「冒険者になった時から、死ぬ覚悟は出来ています! 最後の最期までお付き合いしますよ!」


「そうよ、任せてちょうだい! オカマは最強なのよ! 死んだりしないわ、それに……」


 言葉を一度区切ると、クラリスは今は無き"ヨルズ山脈"の方向に顔を向け、不敵な笑みを浮かべた。


「やっと来たみたいだから」


 クラリスの向ける視線の先、そこには、こちらへ向かって駆ける、二つの影があった。

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