方針を語る
自身の作品を読んでいると、誤字、脱字などが沢山ありました。
それと以前、ん? あれってどうなったの? みたいなことをご指摘していただいたりもありました。
今後そういった事が多々あるかと思いますが、何卒温かい目で見守って下さい。
久保 雅 より
夜の繁華街。好ましい喧騒の中、笑いと怒号の響く酒屋の一角に、見るからに怪しい二人組が飲み交わしていた。
一人は女だろう、体のラインが分かりやすく出る服装をしており、出るとこは出る、実に良い体をしている。だが、その顔や髪は兜により遮られ、どういった素顔をしているかは分からない。
もう一人は男だ。どこにでもあるような地味な服を着ている。だが、服の上からでも分かるような引き締まった体をしていて、その佇まいに一切の隙がない。間違いなく只者ではないだろう。しかし、やはりと言うべきか、男も向かいの女と同じように仮面で顔を隠している。
髪は霞んだ金髪で、短く切り揃えられている。
そんな怪しい二人組がいる中、酒場の客は誰一人として二人を気にしない。
酒場はいつもの如く騒がしく、いつものように変わらない。
というのも、この街にはこう言った冒険者が何人もゴロゴロとしている。
いちいち気にしていればきりがないのだ。
そんな怪しい二人組は酒場の隅で、どうやって食べているのか、酒を片手に出された料理をどんどんと食べて行く。
料理を食べ終えると、二人は手元にあるジョッキを手に持ち一気に飲み干す。
「ぷはー! 美味しかった、お腹一杯だぞ!」
「そうですね」
「それにしてもレングリット、その仮面、幻術の魔法が付与されているのだな」
「ええ、知人に手伝ってもらいながら一緒に作りました。私は魔法が得意ではありませんから、作るのに苦労しましたよ」
「自作なのか?!」
レングリットはコクリと頷く。
「へぇ、すごいぞ!」
「すごいのは私ではなく、知人ですよ。彼女の知識にはいつも助けられてます」
「君がそれほど言う人か、是非あってみたいぞ!」
「その内、会えるかも知れませんね……」
レングリットはどこか寂しそうに、少し自信なさげにそう言った。が、目の前のシェイバはそれに気づくことなく元気に返事をする。いや、会えると信じているのだろう。
「うん、きっと会えるぞ!!」
レングリットはそんなシェイバの返事に少しキョトンとして、次の瞬間には肩を揺らしてくすくすと笑う。
女は首を傾げ「何が可笑しんだ?」と尋ねる。
「いいえ、別になんでもありません。 ただ少し嬉しくなっただけです。気にしないでください。
ところでシェイバ、言葉遣いが素に戻ってますよ?」
シェイバは、むっ、と唸りスイッチを切り替える。
「ふっ、すまない。我とした事がつい迂闊だった!だがもう心配はない! 我はこの通りだ!!」
だんっ! と椅子の上に立ち、片足をテーブルに乗せてまるで演劇でもしているかのようなポーズを取る。
その様子にレングリットは「いえ、寧ろ心配です」と心の中で呟き、シェイバではないがスイッチを切り替え、今後の方針を話す。
「それでは食事も済みましたし、今後の方針を決めていきましょう」
「今後の方針とな?」
「ええ……まず、宿屋でも言った通り、シェイバには強くなってもらうため、私が鍛えに鍛えます。目標魔力値は三十万です。これはあくまでも最低ラインですので、行けそうならどんどん行きます。
そして、修行をしつつ冒険者としてもしっかり活動し、名を売ってお金を稼ぐ。他にも細々とした事はありますが、大雑把な方針はこんな感じです。何か意見は?」
シェイバはぴん、と手をあげて挙手する。レングリットが「はい、シェイバさん」とあてる。
「強くなるよう修行をしてくれるのは有り難いのだが、そんなに強くなる必要はあるのか?」
シェイバはそれが疑問だった、何故そこまで強さを求めるのか。
パーティを組む以上、実力が近くなければバランスが悪い上にメンバーの足を引っ張る恐れがある。
レングリットはそれを懸念してそう提案したのだと思った。しかし、彼の様子や話し方からしてどうやら違うようだと感じ取った。
「ありますよ。シェイバ、あなたは生きたいですか?」
「なんだ、藪から棒に……それは、もちろん生きたいさ。それが強くなる事とどう関係があるのだ?」
「シェイバ、この世界で生きたいのであれば強くなくてはなりません。
何故なら、この世界の唯一絶対のルールは"弱肉強食"だからです。あなたもそう言ってたでしょう」
「……!」
「もはや常識と言うべき事ですが、この世界には魔物が存在します。それは、弱者にとってはまさに死神にも等しい存在です。
それに魔族。彼らはこの世界で上位種に入る強力な種族です。
そこで質問ですが、そんな魔族や魔物が攻めてくれば、弱い貴方はどうなりますか?」
シェイバはなるほど、とレングリットの言いたい事に納得した。
"弱肉強食"。強いものが生き、弱いものが死ぬ。つまりレングリットはこう言いいたいのだ「死にたくなければ、生きたいのであれば、強くなれ」と。
弱ければ何もできずにただ死を待つだけ。
いつか鳥籠の中で知った筈だ。だが、シェイバはそこから目を背けていた。
冒険者として魔物と戦い生活しているうち、自分が強くなる事など無理だと諦め、ただ悠々自適に生きていければ良いと、いつしかそう思うようになっていた。
最初の頃の想いはどうしたのか、レングリットの言う通り、強くなって生きたいのではなかったのか。
シェイバ、いやルミナスは恥ずかしさのあまり兜の下で顔を真っ赤に、言葉を詰まらせる。
「……!!」
「その様子だと私が何を言いたいか分かったと思いますが、貴方は私に言いましたね。死にたくない、生きたいと。シェイバ、生きたいのであれば強くなりなさい。それを踏まえた上で聞きます………。ルミナス、お前は強くなりたいか?」
強くなりたい、いや、なれる。
目の前の男はたった一人で災害級クラスの竜を倒した悪魔だ。
それに、ルミナスの見解ではまだまだ余力を残している様子だった。
彼は強い。彼に師事をこえば、ルミナスは確実に強くなれる。
逆に言えば、今このチャンスを逃せば、ルミナスは一生強くなれない。その確信があった。
ならば迷うことはない、答えは一つ。
「私は、強くなりたいぞ!!」
「……決まりですね」
レングリットは腕を組むと、ルミナスに対し、愉快なものを見るような雰囲気を出す。
「では、明日から早速始めましょう」
「了解したぞ。それと、パーティの方針についてたが、私に異論はないぞ」
レングリットは「分かりました、ではこの方針で」と頷く。
レングリットもといカレンは特殊能力【紅姫】を発動し、自身の中にいる、紅姫に話しかける。
『さて、ここまでは順調だ、あとはエスタロッサとギレンに会わせる予定だが……どう思う、紅姫?』
『どう思うと言われてものう……お前様が其奴を信用しておるのなら儂は何も言うまい。ただ、固く口止めをした上である程度の説明はした方が良いじゃろう。
結論を言えば、儂はお前様に任せる。意見としては会わせても問題はないと思うがの』
『そんじゃ、問題なしという事で明日にでも会わせるか』
カレンは意識を切り替える。
明日の予定を改めて確認する。
まず、明日は早朝にギルドへ赴き適当な依頼を受ける。その途中でエスタロッサとギレンに会わせる。
そして、依頼終了後はギルドに訓練所があるそうなのでそこを借りてルミナスを鍛える。
とこんな感じだ。
当分は依頼を受けて鍛えるというのを繰り返す予定だ。ただ、その中でしっかりと目立ち、売名するつもりでいる事も視野に入れている。
カレンの目的は、とにかく目立って名を売り、色々な情報を仕入れること。
だから、カレンの予定では三ヶ月で冒険者の上位ランカーになるつもりだ。最低でも"白金"ランクを考えている。
ランクを上げると色々メリットが多い。例えば高い報酬の依頼を受けられたり、美味い耳寄りの情報が多く入って来たり、ギルドで優遇してくれたりと良いことがある。中でも上位ランクになると他では聞けないような情報が入ることもある。
情報とは命を繋ぐのに重要なピースだ。これ無くして生きる事など出来はしない。特に冒険者という職業は命の危険が伴うため尚更だ。
だが、カレンの場合、冒険者の職業が、というよりこの世界そのものに危険が溢れているという考えでいる。
だからこそ、短期間で高ランクの冒険者になり、情報を多く集め、生きる糧とするのだ。
ただ、余りにも早くランクを上げていくと、周囲の冒険者からは何かズルをしてるのではないかと噂される場合もある。別段気にする事でもないが、時には身に覚えのない悪い噂を流される場合もある。そうなれば少々面倒になってしまう。人間というのはとにかく嫉妬深い生き物なのだ。
勿論、カレンはそんな事をするつもりは無いし、する必要もないが。
まぁ、とにかくカレンの明日の予定は決まった。あとは宿に帰って寝るだけだ。
閑話休題
カレンとルミナスは食事が終わり、お金を払うと宿屋へと帰って行った。
その道中、〈念話〉を使って明日エスタロッサとギレンに会わせる事を伝えた。勿論二体が魔物である事もしっかりと教えてある。
ちなみに、魔物である事は伝えたがエスタロッサが竜王種である事は教えていない。当然ギレンもどのような魔物かは知らせていない。お楽しみは会ってからという事だ。
宿に着いたカレンとルミナスは部屋へと戻り、風呂に入る。順番はルミナス、カレンの順である。レディファーストだ。
風呂は部屋に備え付けられたシャワーだけのもので、石鹸などが置かれている。
「じゃあ、遠慮なく先に入らせてもらうぞ!」
「ああ」
そう言って、兜を付けたままのルミナスは、上機嫌で鼻歌を歌いながら風呂場へと行った。
どうやらここ数日、濡れた布で体を拭いていただけだったようで、シャワーを浴びるのは久々だそうだ。
職業柄汗臭くなるのは仕方がないとは思ってはいても、流石に何日もシャワーを浴びれないのは女として辛いらしい。
カレンはソファーの背もたれに深く体を沈めるとルミナスが出て来るまでぼーっとする。勿論仮面は付けたままだ。
ソファーで寛ぎ、しばらくして視線をだけを窓の外に向け目を細める。
「………」
『お前様……』
『分かってるよ。ギルドからずっと付けてきてる。数は六人。まぁ、監視だろうな』
『排除せんで良いのか?』
『前々から思ってたが、お前物騒だな。……必要ない、どうせギルドの使いっ走りだろしな』
『何故ギルドの者だと?』
『昼間ギルドで"災害級"クラスの竜の死体であれだけ騒ぎになったんだ。
"災害級"クラスの魔物を倒すことができるのは冒険者の中では上から数えて二番目の"白"ランク。にも関わらず、竜の死体を持ってきたのはその日登録したばかりの駆け出し冒険者。さぞ衝撃的だっただろうな。
それに、〈魔導庫〉を使用していた事も後押ししている』
『ふむ、〈魔導庫〉は魔力を消費して物体を亜空間に保管する魔法じゃ。じゃが、ラギウス殿曰く〈魔導庫〉を使用する者は殆どおらん。
それは単純な話、魔力の消費が激しいためじゃからじゃ。そんな魔力の消費が激しい〈魔導庫〉から平然と竜の死体を出したら、そら周りも驚くわい』
『そこだ。竜の死体を〈魔導庫〉に保管していた、それも疲労した様子もなく平然とだ。となるとそいつの魔力量はとんでもないことになる。
竜を倒し、尚且つそれを長時間〈魔導庫〉に保管できるほどの魔力量。
ギルドが興味を持っても、何ら不思議じゃねぇ』
『なるほど、じゃからギルドの手先だと』
『そういう事だ。というか説明しなくても分かってただろ?』
『まぁの、ただお前様がどういう見解か知りたかっただけじゃ。他意はない』
『そうかよ』
カレンは立ち上がると窓へと歩き、戸を閉める。そして、魔法などで室内を見られないために、部屋全体に〈魔力障壁〉を張る。
(これで中を見られることはないだろう……)
カレンは内心でそう呟きつつ、仮面を外す。
「やっと気を張らなくて済む」
カレンは首を左右に振って音を鳴らして軽く体を伸ばす。
レングリットである間は常に周囲を警戒していたため、身体が知らず知らずのうちに硬くなっていたのだ。
『お前様も大変じゃのう』と紅姫が呟く中、風呂場の扉が開く。
「カレン、上がったぞ」
「………」
「ん? なんだ?」
ルミナスが寝巻きに着替え、タオルを首に回して出て来る。
お風呂上がりのお姉さんの色気に、少し変な気持ちになるが、紅姫の『お前様!』という怒鳴り声で我に戻る。
「い、いやなんでもない。 じゃあオレも入らせてもらうから、もう先に寝てて良いぞ」
カレンはルミナスの「うん、分かった。遠慮なくそうさせてもらう」という言葉を聞いて、シャワーを浴びに風呂場へと向かう。
その前に、言っておかなくてはならない事を思い出し立ち止まって肩越しに振り返る。
「ルミナス、分かってると思うが、窓は開けるなよ」
食事が終わって宿に着いた時、窓は閉めて置くように言っておいた。しかし、念には念だ。
窓の外には監視している者たちがいる。うっかり窓を開けて素顔を見られるのは避けたい。
特にカレンが魔族である事は絶対だ。
「うん、分かってるぞ!」
ルミナスはニカッ! と笑い、サムズアップする。
カレンは苦笑いを浮かべると、今度こそシャワーを浴びに風呂場へと向かった。
風呂場へと入ったカレンは「そういえばルミナスの入った後だ!」と鼻を鳴らして匂いを嗅ぐというお約束をしつつ、紅姫から凍えるような静音で怒られる。
そこからカレンは無心でシャワーを浴び、すぐさまその場から離脱した。
カレンが部屋へと戻ると、ルミナスはすでにベットですやすやと眠りについていた。
寝相が悪く服がはだける、なんていう事はなく。少なくない期待をしていたカレンは少しがっかりする。
そんなくだらない事を考えつつ、カレンは〈魔導庫〉から"根滅剣 紅姫"を取り出し、鞘から刀を抜く。
刀は美しく、刀身は薄っすらと淡い紅色を放っている。
カレンは刀をーー魔石を使用したーーランプの光に当て、汚れがないか確認する。
魔剣は錆びることもなく、折れることもないが、カレンはこの魔剣を使うと毎度手入れをする。
この"根滅剣 紅姫"がまだ、ただの鋼の刀だった頃の名残りで、寝る前はいつも手入れをしないと気が済まないのだ。もはや、癖と言ってもいい。
手入れが終わると、カレンは刀を鞘へと戻し、〈魔導庫〉へしまう。
カレンはランプの光を消すと、ソファーに寝転び、目を閉じる。
そして、明日の事を考えながら、いつしか深い眠りにつくのだった。




