冒険者ギルド
城塞都市ドルトンは二つの城壁に囲まれており、外側と内側で用途が分かれる。
内側は住民たちの住む居住区。外側は鍛冶屋や市場といったものが並ぶ商業区だ。
カレンが今歩いているのは、商業区と居住区を結ぶ大通り、メインストリートだ。
メインストリートの幅はかなり広く、石畳で綺麗に舗装された道を馬車が行き交っている。
メインストリートの両側には情緒溢れる石造りの建物がずらりと並んでおり、中世ヨーロッパの街並みをおもわせる。
行き交う人々の表情は明るく、その数も膨大だ。流石は大都市といったところだろう。
歩いているのは人間だけではない。数こそ多くはないが、エルフやドワーフ、獣人もちらほら見かける。
『賑やかな街だな、人の数も多い』
『大きな都市には自然と人が集まるものじゃ、当然じゃろう』
『それもそうか。にしても武器屋の数が多いな。両側の建物の殆どが武器屋だぞ?』
『確かこの街は冒険者の街としても有名だったはずじゃ。故にそういった武器の需要も多いのじゃろうな』
『冒険者の街ねぇ……そういえば冒険者ギルドは何処にあるんだ? 城門の衛兵に聞くの忘れてたな』
目的地である冒険者ギルドの場所を聞きそびれていたことに気づき、カレンは近くを歩いていた女性に声をかける。
「すいません、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
突然、外套で全身を包み、顔を仮面で覆った怪しい男に声をかけられた女性は、ビクッと肩を跳ね上げ、少し怯えたように返事をする。
「は、はい、何でしょうか?」
「冒険者ギルドへの道を教えて頂けませんか?」
「ぼ、冒険者ギルドは」
女性はメインストリートの先へ指をさす。
「このメインストリートを真っ直ぐ行った先にある、中央広場の一番大きな建物です」
「そうですか、ありがとうございます」
カレンは道を教えてくれた女性に頭を下げて礼を言うと、懐から革袋を取り出し、女性にチップを渡す。
「これは教えていただいたお礼です。では、私はこれで」
「は、はい」
カレンがメインストリートを進み、冒険者ギルドへ向かうと、女性は半ばポカーンとする。
怪しい格好とは裏腹に、とても丁寧な口調で話し、お礼を言う際はわざわざ頭まで下げるというギャップに驚いたようだ。
女性は我に戻ると、受け取ったチップに視線を落とし、目を見開く。
「えっ? き、き、金貨?!!」
女性の手には金色に輝く硬貨があった。女性は驚きのあまり思わず大声をだしてしまい。周りの通行人がその声に驚き「うおっ?!」「な、何だ?!」と言ってビクッと肩を跳ね上げる。
一方、冒険者ギルドの場所を聞き出し、女性と別れたカレンは、メインストリートを歩いて中央広場を目指していた。
『なぁ紅姫、今更だがチップは金貨でよかったよな?』
『儂が知るわけなかろう! ラギウス殿に教えて貰った知識の中には、金の価値のことなど無かったのじゃ。儂は知らんぞ 』
『さっきも考えてた事だが。やっぱり金の価値や物価は早く覚えた方がいいな。金の価値が分からないとか、生活する上ではかなり致命的だぞ』
『そうじゃな、この世界で生きるには金というのは切っても切れんからのう』
カレンと紅姫が今後の課題について話し合っていると、大きくひらけた場所に出た。おそらく先程女性に聞いた中央広場だろう。
広場の中央には大きく立派な噴水があり、周りには石でできたベンチが噴水を囲うように配置されてある。
カレンは中央広場を真っ直ぐに進み、噴水の向こう側に大きな木造の建物を発見する。
『あれが冒険者ギルドっぽいな』
『うむ、出入りしておる者達もそれらしい格好をしておるし、間違いないじゃろう。ちゅうか、何故あの建物だけ木造なんじゃ?』
『さあな、とにかく行ってみ――』
『我が君、少々お時間よろしいでしょうか?』
『ギレンか、どうした?』
冒険者ギルドへ足を運ぼうとした瞬間、ギレンから〈念話〉が繋がる。
『はい、実は若様についてなのですが』
『何だ、エスタロッサがまた何かやらかしたのか?』
『いいえ、そうではなく、冒険者と思わしき三人組の男に発見され、現在対峙しております』
ギレンの報告にカレンは仮面の下で眉を寄せ、険しい表情になる。
エスタロッサと別れてまだ二時間と少し、発見されるのが余りにも早い。というか見つかってしまっている事が痛い。
森へと着陸する際にもしかしたら目撃されていたのかもしれない。カレンはエスタロッサの元へ戻るか考える。
『ギレン、現在の様子はどうなってる?』
『はい、今のところ若様が話し合いを提案され、戦闘をする様子はございません』
『そうか……何かあればすぐに連絡をくれ。それと、もし戦闘になった場合は遠慮なく殺れ。手加減はいらん』
『 畏まりました』
ギレンとの〈念話〉を切り、カレンは少し息を吐く。
「ふぅ……」
(仮に戦闘になったとしても、ギレンがいれば問題ないか。もしかしたらエスタロッサの背に乗っていたオレの姿も目撃されているかもしれんな。となると、警戒は必要か)
とりあえずエスタロッサの事はギレンに任せることにしたカレンは、冒険者ギルドへと歩を進める。
『お前様、エスタロッサの事は良いのか?』
『エスタロッサはお調子者だが馬鹿じゃねぇ。それに近くにはギレンが待機してる。心配ないだろう』
『ふむ、それなら良いのじゃが』
紅姫と話している内に冒険者ギルド前まで来たカレンは、扉を開いて中へと入った。
中へ入ると、無遠慮な冒険者たちの視線が一斉にカレンへと注がれる。初めて見る怪しげな男に、冒険者たちはまるで品定めするかようにじっと見つめる。
そんな視線にカレンは特に気にした様子もなく、真っ直ぐに正面のカウンターへと歩を進める。
受付カウンターには数人の受付嬢が対応しており、全員顔立ちはいい。
さぞ人気があるだろう。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが。よろしいでしょうか?」
声をかけられた受付嬢は一瞬怯えたそぶりを見せるが、次の瞬間にはニッコリと、それはもう完璧な営業スマイルを浮かべる。
受付嬢は手元から洋紙とペンを取り出すと、カウンターの上へ置く。
「かしこまりました。ではこちらの洋紙にお名前をお書き頂き、こちらに血印をお願いいたします」
カレンは言われた通り名前を洋紙へ書き、その横に血印を押す。そして、間違いがないか確認をすると、問題なしと判断し、受付嬢に渡す。
「レングリット様ですね。では冒険者プレートを発行いたしますので、少々お待ち下さい」
カレンは無言で頷くと、壁際に備えてあるベンチに腰掛け、隣に剣を立てかける。
カレンは仮面越しに周りを見渡し、苦笑いを浮かべる。冒険者ギルドへ入った直後に比べれば随分と減ったが、未だ無遠慮な視線がカレンへと刺さっていた。
『鬱陶しい視線じゃわい』
『同感だ』
『それにしてもなんじゃ、レングリットって?』
『偽名に決まってんだろ。流石に自分の名前をそのまま使うのは油断が過ぎる。それに、今後の事を考えれば、こうやって別の人物を作った方がメリットがあるだろうしな』
しばらくベンチで紅姫と雑談して休んでいると、先程の受付嬢から声がかかり、カレンは再びカウンターへと向かう。
「お待たせ致しました。此方が冒険者プレートになります」
手渡されたのは、ドッグタグのような物で、タグには灰色の縦のラインが入っている。
「この灰色のラインは?」
「そちらは冒険者のランクを表しております。レングリット様は今日登録されたばかりなので、一番下の灰ランクからのスタートとなります」
「なるほど。ランクはいくつありますか?」
「冒険者のランクは下の灰から最高ランクの黒まで全部で十二のランクがあります。
一般的には下から四番目の赤で一人前と言われております」
「分かりました、ありがとうございます」
「それでは、クエストの受注について説明させて頂きます」
受付嬢の説明では、クエストはカウンター横にあるクエストボードに貼ってある依頼書をカウンターに持って行くと受注できるようだ。ただし、クエストはランク分けされており、そのランクに見合った難度のクエストしか受けることは出来ないらしい。
なんでも冒険者を無駄死にさせないための対策だそうだ。
ランクを上げるにはただ実績あるのみとのこと。ただし、例外があり、自身のランクより上の魔物を倒せばランクは上がるそうだ。実際にこれで一気にランクが上がった者がいるらしい。ただこの方法、言うは簡単やるは難しで、殆どの冒険者は命を落とすそうだ。
カレン自身先程受付嬢から危険なことはしないようにと注意を受けた。
それと冒険者のランクはこのようになっている。
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灰 :駆け出し
黄:及第点
青:半人前
赤:一人前
緑:ベテラン
紫:玄人
銅:名人
銀:達人
金:超人
白金:英雄の領域
白:到達者
黒:人外の領域
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これが冒険者のランクだ。この中でも白と黒は人外と言われ、王国では合わせて経ったの二人しかいないそうだ。
ちなみに魔物にもランクがあるらしく、全部で十の階級に分かれるそうだ。そのランクは以下の通り。
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D級:駆け出し冒険者一人で対処可能。
C級:一人前冒険者一人で対処可能。
B級:ベテラン冒険者パーティで対処可能。
A級:街の脅威となる。銀ランクの冒険者パーティで対処可能
S級:街に甚大な被害が出る。白金ランクの冒険者パーティで対処可能
災害級:街が滅ぶ。白ランクの冒険者パーティで対処可能
厄災級:国に甚大な被害が出る。黒ランクの冒険者パーティで対処可能
災禍級:国が滅ぶ。国家総動員
天災級:いくつかの国が滅ぶ。周辺国家と協力のもと対処しなければならない
終末級:対処不可能
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とこんな感じで、魔物のランクを表している。
受付嬢の説明が終わり、カレンは早速クエストボードへ赴き、貼られている洋紙を一枚一枚確認する。
時間は昼過ぎと言うこともあって、クエストボードには依頼書が殆ど無く、これといって良い依頼書はなかった。
『面白そうな依頼が一つもないな』
『先の説明によれば、殆どのクエストは朝から昼の間に無くなるそうじゃのう』
『まぁ、今は簡単な依頼から始めるか』
そう言ってカレンはクエストボードに貼られていた依頼書を剥がし、受付カウンターへと持って行った。
受付まで来るとカレンは持っていた依頼書をカウンターに出し「この依頼を受けさせていただきます」と言って、オレンジ色の髪をした元気いっぱいという感じの受付嬢に渡す。
受付嬢は「はい、では確認を……」と言い、怪訝な表情を浮かべる。
カレンはどうしたのかと首を傾げ、受付嬢の言葉を待つ。
「あの、レングリット様は今日登録されたばかりですよね?」
「はいそうですが、それが何か?」
「この依頼書はベテランである緑ランクの冒険者から受注が可能でして、灰ランクのレングリット様はこの依頼を受ける事ができません」
「えっ? 鎌爪獣一体だけの討伐ですよね?」
驚いた様子のカレンに、受付嬢は少したじろぐ。
「は、はいそうです。ですが鎌爪獣はB級に該当されます。堅固な甲羅に身を包み、その名の通り巨大な鎌のような鋭い爪を持つ強力な魔物です。
故に鎌爪獣は経験を積んだベテラン冒険者でないと危険が大きいのです。ですから駆け出しであるレングリット様はまだこの依頼を受ける事が出来ません」
受付嬢の説明にカレンは呆然とする。カレンからすれば鎌爪獣程度の魔物片手間で倒せる相手だ。それがこの人間の世界ではかなり強力な魔物に部類され、ベテラン冒険者でしか対処出来ないと言われている。鎌爪獣ごときでB級の魔物と大騒ぎする人間に対し、カレンの頭に「人間てもしかして超弱い?」という考えが浮かぶ。
そんな事を考え、呆然と固まるカレンに、受付嬢がどうしたのかと声をかける。
「あの、レングリット様?」
「え、あ、はい、分かりました。では、灰ランクで受けられる依頼を見繕って頂けませんか?」
「かしこまりました。では少々お待ち下さい」
奥へ消えていく受付嬢を見送り、カレンは溜息をつく。
(鎌爪獣でB級って事は、今日倒した青毒蜥蜴は何級なんだ? そういえば査定員の爺さん、めちゃめちゃ目見開いてたな。もしかして殺しちゃいけない魔物じゃなくて、かなりランクの高い魔物を一人で倒したから驚いていたのか? あれ? じゃあ今日オレが貰った金貨十枚って……)
カレンはクエストボードへ視線を向け、依頼書に目を走らせる。そこには――
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ーーゴブリン六体の討伐依頼 ランク:D
ランク灰から受注可能
報酬額 銀貨1枚
ーー鎌爪獣一体の討伐依頼 ランク:B
ランク緑から受注可能
報酬額 銀貨五枚 大銅貨五枚
素材の状態により追加報酬有り
ーーリコス草の採集依頼 ランク:D
ランク灰から受注可能
報酬額 大銅貨七枚 銅貨五枚
採集量に応じて追加報酬有り
ーー白蛇獣三体の討伐依頼 ランク:C
ランク赤から受注可能
報酬額 銀貨二枚 大銅貨七枚 銅貨五枚
ーー濃霧の森調査依頼 ランク:D
ランク黄から受注可能
報酬額 銀貨一枚
ーー一眼鬼二体の討伐依頼 ランク:A
ランク銀から受注可能
報酬額 金貨三枚 大銀貨七枚 銀貨五枚
素材の状態により追加報酬有り
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「……………金貨十枚って、むっちゃ大金やん」
依頼書の報酬額を見たカレンは、今日自分が金持ちになったのを知ったのだった。
ご愛読ありがとうございます!
今回、銀貨や銀貨と言った硬貨が出てきました。
その相場がこちらです!
銅貨 100円
大銅貨 1.000円
銀貨 10.000円
大銀貨 100.000円
金貨 1.000.000円
白金貨 10.000.000円
こんな感じです。
カレンは金貨十枚貰っていますので、かなりお金持ちですね。
投稿が不定期となっていますが、これからも頑張っていきますので『転生して最強の悪魔に』をよろしくお願いします!!




