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悪魔がカレンにわらうとき  作者: 久保 雅
第1章〜最強への道〜
33/201

〜エピローグ〜

 予定より長くなりましたがとうとう第一章も終わりを迎えました。


 ほとんど大森海での話でしたが、私自身ちょっと楽しく書けました。


 特に主人公のカレンは楽しく書けました。

 カレンは強いと言っても、それはまだ発展途上な強さです。これからの成長が楽しみな所です!!


 それにひきかえエスタロッサの出番は少ないと感じましたね。それに関して言えばごめんねとしか言えません!


 さぁ、ということで第三十三話〜エピローグ〜どうぞ!!



 オレの放った渾身の一刀は、あの神速黒皇(オニキス)の装甲を見事に切り裂いた。


 緑の鮮血が飛び散る。


 オレは刀に付着した緑血を振り払い、後ろを振り向く。

 神速黒皇(オニキス)が膝をつき、その傷口からはどくどくと深い緑の血が流れ出している。

 特殊能力(スキル)もいつのまにか解除され、緑刃に纏わりついていた風が消え去っていた。


 神速黒皇(オニキス)は震える脚に力を入れ、ゆっくり立ち上がると、傷口に手を添えながらこちらに振り向く。斬り裂かれた傷はかなり深い。未だ血は止まらず、粘性のある緑の血がボタボタと地面を濡らしていく。


 神速黒皇(オニキス)にはオレのように特殊能力(スキル)【再生】がないため、傷が短時間で癒えることはない。

 数日もあれば綺麗に元通りになるだろうが。その頃には大量出血で死んでいるだろう。ここで大人しく退いて、絶対安静にしていれば助かる道はある。寧ろ、そうしてくれ。


 オレ自身、もう魔力が残り僅かだ。正直神速黒皇(オニキス)には退いて欲しいと思っている。しかし――


「ギ……ギギィ……ギ!!」


 ――神速黒皇(オニキス)は傷口を抑えている手とは反対の緑刃を構え、オレを睨みつける。


 どうやらまだ殺り合うらしい。退く気配すらない。迷惑な話、戦意は消えていない様子だ。


 オレは内心で舌打ちをすると、刀に魔力を送る。


「お前ちょっとは頭が回るんだろ? だったら、もうお前に勝ち目が無ぇ事ぐらい分かるはずだ。その鉄壁の甲殻だって、今のオレには何の意味もねぇ。風刃だってそうだ。風を刃に纏わせる事で、防御不可能な斬れ味にする特殊能力(スキル)。実際〈魔力硬化〉と〈魔力障壁〉はなんの役にも立たなかったしな。大した特殊能力(スキル)だ。だが……」


 オレが話を区切った直後、神速黒皇(オニキス)は力強く踏み込むと同時に、特殊能力(スキル)を発動して再び風刃を纏うと、オレに斬りかかる。


「ギシャャャャャン!!」


 しかし、遅い。明らかに神速黒皇(オニキス)の動きは鈍っており、まるでキレがない。神速とは程遠い速度だ。

 少しずつ神速に対応出来るようになっているオレからすれば、止まって見えるほど。避ける事など造作もない。


 神速黒皇(オニキス)は風刃を横に斬り払うが、それをいとも容易く躱し、〈魔力硬化〉さした脚で容赦のない回し蹴りを放り込む。


「おらぁっ!」


「ガッ!!」


 キレイに回し蹴りの直撃を受けた神速黒皇(オニキス)は、倒れはしなかったものの、三メートル程地面を削りながら吹き飛んだ。


 オレは神速黒皇(オニキス)を蹴り飛ばした瞬間、吹き飛ぶと同時に追いかけ、魔力を纏わせた刀で両脚を深々と斬り裂く。


「ふっ!」


「ギシャャャャッ!!」


 最早立つ事すらままならない神速黒皇(オニキス)は、その場で前のめりに倒れて、オレを見上げるように視線を向ける。

 その眼からはどう言った感情を抱いているのか、読み取りにくいが。何となく、負けたという悔しさが伝わってきた気がした。

 そんな神速黒皇(オニキス)に向かって、オレは静かに告げる。


「もう分かっただろ? お前の負けだ!」


 オレは刀を肩に乗せ、神速黒皇(オニキス)を見下ろす。


 すると、返ってくるはずのない返事が返ってくる。


「………どうやら、その様ですね」


 ………。


「………………………えっ? お前喋れんの?」


「はい、一応話せます」


 まさか話せるは思はなかったオレは、いきなり流暢に話す神速黒皇(オニキス)に目が点になって、ポカーンとした表情になる。


 え? 何こいつ、めっちゃ渋い声で普通に喋ってんだけど?!

 取り敢えず何話せば良いんだ?!


 いきなりの展開で内心パニックに陥ったオレに、紅姫がオレを落ち着けようと冷静に話しかける。


『落ち着かんかお前様、(ドラゴン)のラギウス殿が言葉を話せるのじゃぞ。其奴(そやつ)が話せたとしてもなんら不思議ではなかろう』


『い、言われて見ればそうか……』


『少しは落ち着いたか? というかお前様、このままだと其奴死んでしまうぞ、取り敢えず傷を癒した方が良くないかのう』


『そ、それもそうだな』


 少しの冷静さを取り戻したオレは、このままだと死んでしまうであろう神速黒皇(オニキス)に治癒魔法をかけてやる事にした。


「えーと、じゃあ、傷治そうか?」


「お願いします。まだ、死にたくはありませんので」


「分かった。それと先に言っておくが、傷が治った瞬間襲うとか無しだからな!」


「はい、誓ってその様な真似は致しません」


「よし、そのままじっとしていろ」


 オレは神速黒皇(オニキス)に向かって手をかざし、治癒魔法〈光生〉をかける。

 青白いキラキラした光が神速黒皇(オニキス)へと流れ、優しく包み込む。すると、光は一層輝きを増し、みるみる内に傷を癒していく。

 大きく斬られた胴や脚の傷は完全に塞がったようで、神速黒皇(オニキス)はゆっくりと立ち上がり、確かめる様に身体を動かす。


 身体に異常がない事を確認すると、神速黒皇(オニキス)はオレに振り向き、頭を下げた。


「ありがとうございます。敗者である私にこれだけの慈悲を掛けて頂くとは、このご恩は必ずお返しいたします」


 誠実さがこもった声で礼を言う神速黒皇(オニキス)に対して、オレは苦笑いを浮かべる。

 そもそもコイツが死にかけたのはオレが原因なわけで、礼を言われる様な事ない。


 どこか()る瀬無い気持ちでいっぱいだ。


「気にするな、個人的に死なれちゃ後味が悪かっただけだ。他意はねぇよ」


「左様ですか。しかし、何か礼はせねばなりますまいて!」


「いらねぇよ、これ以上オレを罪悪感で押しつぶすな!」


「我が絶対なる忠義、御身に捧げます!!」


 清々しいほどに人の話を聞かない上に、見事なまでの臣下の礼をして(ひざまず)神速黒皇(オニキス)に、オレは顔を引きつらせると、同時に額に青筋を浮かべる。


「人の話聞いてる?! いらねぇつってんだろ! なんだよコイツ、さっきまで殺し合いしてたよね?! 忠義ってなんだ?!  捨ててこいそんなもん、いらねぇっつの!!」


 申し出を一蹴したものの、まるで「聞こえてません!」とでも言う様に、神速黒皇(オニキス)はピクリとも反応しない。


 コイツ聞こえてないフリでもしてるつもりかっ!!

 ついさっきまで殺し合いしてた筈だろうが! なんだこの展開?!


「おい!  何聞こえないフリしてんだ! 頭上げろ、ぶっ飛ばすぞボケ!!」


 それでも頭を上げない神速黒皇(オニキス)の態度に、呆れた声で紅姫がオレに話しかける。


『お前様、もう何を言っても無駄じゃ。ここはおとなしく此奴(こやつ)の忠義を受け取ったらどうじゃ? これだけ強力な魔物が臣下になるなど、そうそうある事ではないぞ? 寧ろ得じゃ。お得物件じゃ!』


『忠義を受け取ったらどうじゃ?  じゃねぇよ、こんな奴臣下にしてどうすんだ?  扱いに困るだろうが!』


 オレもずっとこのムエルト大森海にいるわけではない、いつかは人間達のいる領域に行く時が来るだろう。そんな時、ただでさえ悪魔(魔族)であるオレは目立つのに、そこへ神速黒皇(オニキス)なんて言う化物クラスの魔物がいたら目立つどころの騒ぎじゃない。最早事件だ。

 いや別に忠義を受け取ったからと言って、連れて歩く必要はないのだが。いざという時に、コイツの存在を知られるのはまずい。確実に面倒ごとコースに一直線だ。


 あれ? それならエスタロッサも同じじゃね? なんならコイツより目立つし。 じゃあコイツがいてもいなくても同じなんじゃね?

 え? じゃあコイツを臣下にした方が得って事だよな?


『お前様、どうするんじゃ?  このままだと話が進まんうえに、此奴ずっとこの状態じゃぞ』


 紅姫の言う事に「だよなぁ……」と小さく呟き、遠い目をする。

 オレは覚悟を決めると、深く溜息をつく。そして、仕方ないとばかりに、目の前で未だ微動だにせずに跪く神速黒皇(オニキス)に向き直る。


 まぁ、コイツが臣下になればデメリットよりメリットが勝るし、ここはありがたく受け取っとくか。


「はぁ〜……分かった。お前の忠義、受け取ろう」


「おぉ! ありがたき幸せにございます! 何なりとお申し付け下さい、我が君! 」


「なんで自分の都合の良いとこだけ聞こえてんだよ! というか"我が君"ってやめろ。恥ずかしいだろうが!」


「ところで我が君、失礼ながら私は我が君の御名を存じません。なにとぞお教え頂けますでしょうか?」


 見事にツッコミをスルーされ、オレの中で紅姫が『くふふふふっ! 無視されとるわい!』と大笑いし、再び額に青筋を浮かべる。

 怒鳴り散らしたい気持ちになるが、コイツに何か言ったところで、またスルーされるのが目に見えているために、ここは努めてぐっと堪える。


「……カレン。カレン・アレイスターだ」


「カレン・アレイスター様。しかとその御名、我が身に刻みました!」


 これまた惚れ惚れする様な臣下の礼をとる神速黒皇(オニキス)


 ああ、もうなんか頭痛くなりそうだ。


『何というか、此奴は我が道を行くって感じじゃのう』


『……そうだな』


 オレは神速黒皇(オニキス)を立ち上がらせると、遠くに避難させたエスタロッサと合流する。

 神速黒皇(オニキス)の姿を見た瞬間、エスタロッサはギョッとして、いきなり竜砲撃(ブレス)を放つなんていう一幕があったりしたが。別段気にすることでもない。ちゃんと一発殴って止めたし。


 そんな一幕のあと、オレたちはラギウスのいる拠点へと戻る。道中魔物が出るが、全て神速黒皇(オニキス)が相手をした。オレが戦おうとすると「我が君の手を煩わせる訳にはゆきません。ここは私が()りましょう」と言って襲い来る魔物達を刹那の内に片付けてしまった。


 まぁ、そんな事があって、オレたちはラギウスの待つ拠点に戻った。


 夕刻、拠点に戻ったオレは、取り敢えずラギウスに事の説明をした。深層域でこの神速黒皇(オニキス)と出会い、死闘を繰り広げた事、何故かオレの臣下になった事だ。


 説明を受けたラギウスは疲れた声で「もうお前の好きにせよ」と言って呆れた視線をオレに向ける。


 そんな視線をスルーして腕を組むと、後ろで待機している神速黒皇(オニキス)に顔を向け口を開く。


「さて、取り敢えずお前の名前を決めるか。無いよりはあった方が良いだろうしな」


「おお! 謹んでお受けいたします!!」


 神速黒皇(オニキス)は感激した様に身を震わせ、臣下の礼をとる。

 オレは苦笑いを浮かべ、顎に手を添えると、どんな名前にするか考える。


「……どんな名がいいか」


 少しの時間が流れ、とうとうオレの中で名が決まる。

 オレは神速黒皇(オニキス)に向き直ると、その名を口にする。


「今日よりお前の名は……」






 ーー"ギレン・バール・ゼブル"だ。





「はっ! 有り難く頂戴致します!」


 そして、名を貰った事により、神速黒皇(オニキス)もといギレンの進化が始まる。


 淡い緑色の魔力が風の様に渦を巻き、ギレンに集まっていく。

 その光景はまるで小さな竜巻。恐ろしさや禍々しさなどは一切なく、ただ美しい。

 緑の魔力がより一層輝きを増してゆき、そして、カッと光ったと思うと、今までの勢いが嘘だったかの様に霧散する。


 進化が成功したのだ。


 ギレンはゆっくり立ち上がり、進化した自分の体を確かめる。

 その様子を見ていたオレは、盛大に顔を引き攣らせ、エスタロッサはオレの後ろに隠れる。ラギウスは身を乗り出し、食い入る様に見つめる。


 見た目は少しスリムになったぐらいで、さほど変わっていない。そう、見た目だけは。


 ギレンから放たれる尋常ではない気配に額から冷や汗が流れる。


『……お前様、これはマズくないかのう』


「……ははっ、とんでもねぇ魔力だ」


「……!」


 進化した事で、ギレンの魔力は以前の二倍近くになっていた。正直なところ、今戦えば片手間で()られるだろう。それ程までにギレンは強くなっている。


「ふむ、これが進化というものですか。急激な変化に少し戸惑いますが、許容範囲でしょう。なんとも貴重な体験です」


 調子を確認し終わったギレンは、オレの前まで来ると、やはりゆっくりと跪き、臣下の礼とる。


「御身より賜りしこの名、生涯の宝とし、より一層の忠義を捧げます!」


「ああ、もう好きにしてくれ……」


「はっ!」


 オレはラギウスに顔を向け「やっちゃった!」という表情をする。

 ラギウスは大きくため息をすると、次の瞬間には真剣な雰囲気でオレたちを見回し、これまた真剣な声で話し出す。


「カレンよ。以前より考えていた事だが、いい機会だ話しておく。明日の朝、ワシはこの場所を去るつもりだ」


「……随分急な話だな?!」


『……』


「もともと、無茶をするお前が心配で残っていたわけだが、その心配も無くなった。ギレンがいれば問題なかろう」


 急な話で正直驚いたが、それは一瞬で、オレはラギウスにこれからの事を聞く。


「……ここを去った後どうすんだ?」


「また世界を旅しようかと考えている。この数千年ですべて知り尽くしたと思っていたが、存外世界は未だ未知に溢れている。お前や紅姫の存在がいい例だ」


「そうか」


「カレン、そういうお前はこれからはどうするのだ?」


「そうだな、数年はここにいるつもりだ。オレ自身まだ納得がいく強さじゃねぇしな」


「そうか、無茶だけはするなよ」


 そう言ったラギウスに、オレは眉を八の字にしすると困ったような微笑を浮かべる。


 ほんと心配性な奴だ。


「分かってるよ」


『ラギウス殿、旦那様の事は儂とエスタロッサとギレンに任せよ!』


「ギャウッ!!」


「紅姫様の仰る通りにございます。我が君の事は我々が必ずお守りします」


 一人と二体の言葉にラギウスは頷くと、乾いた笑みを浮かべるオレに視線を向け、ニヤリと笑う。あれは多分、笑っている。


「ふっ、数年後が楽しみだな」


「目ん玉飛び出すぐらい強くなってやるよ!」


「期待して待っているぞ」


 オレは口元を吊り上げ、自信に満ちた表情で宣言する。


「ああ、期待してろ!  オレは誰にも負けねぇ世界最強の悪魔になってやる!!」


 オレの宣言にラギウスはいい意味で笑い。エスタロッサはオレに同調するように雄叫びを上げ。ギレンは背後で「私も負けては要られませんな!!」と言って拳を握りしめている。紅姫はどこか慈愛に満ちた声で「子供じゃのう」と言っていた。


 いや紅姫、忘れてるかもしれないがオレはまだ十歳だから子供だぞ。

 まぁ、確かに世界最強になるとか中二病みたいだが、この世界で生きるにはいい目標だと個人的には思ってる。そう思う事にする。


 オレはラギウスに顔を向けるとニカっと笑う。


「さて、明日の朝にはラギウスが旅立っちまうわけだし、今夜はパーっとしよう!!」


『おお! それは良いのじゃ!!』


「ギャンッ!!」


「では、今夜は精一杯盛り上げましょう!」


 それからオレ達は朝まで騒ぎ、忘れられぬ夜を過ごすのだった。




 ♢♢♢♢


 翌日、朝日が昇り始める頃、とうとうラギウスが旅立つ時が来た。


「では、ワシはそろそろ行くとする」


「そうか、色々世話になったなラギウス」


『うむ、本当に感謝するラギウス殿!』


「ギャウンッ!!」


「また会える日を心待ちにしております。神滅龍様」


 ラギウスはゆっくりと頷くと、巨大な漆黒の翼を広げはばたかせる。


 巨体が少しずつ宙に浮き、高度を増す。そして十分な高さになると、ラギウスは雄叫びを上げる。


 朝日が昇る中、空の彼方へと消えて行った。


『行ってしもうたのう』


「ああ、いなくなると寂しいもんだな」


 ラギウスが飛んで行った方向を見つめると腰に手を当て、微笑む。


「また会おう、ラギウス」


 オレは後ろにいるエスタロッサとギレンに振り返り、歩き出す。


「さて、昨日言った通りオレは最強を目指す。もちろん協力してくれるよな?」


『うむ、任せよお前様!』


「ギャウ!」


「勿論でございます!」


 オレ不敵な笑みを浮かべ、手を太陽に伸ばしてぐっと握りしめる。


「よしっ!  なってやろうじゃねぇか! 世界最強にな!!」









 ♢♢♢♢♢


 ……五年後


 あれから五年が経った。オレは十五歳になり、身長も一六〇センチぐらいまで伸びた。心なしか顔付きも少し大人っぽくなり、当然髪も伸びた。

 他に変わった事と言えば、新たな特殊能力(スキル)が二つ追加されて合計で七つになったのと、特殊能力(スキル)【再生】と【威圧】が進化した。

【再生】は【高速再生】へと、【威圧】は【悪魔の気】へと至った。

 それと特殊能力(スキル)とは違うが、もう一つ進化したものがある。


 それはオレが持つ刀だ。ある日突然、魔剣になった。

 魔剣へと進化した瞬間「え?  何これ?」「進化しちゃったけど?」みたいな微妙な空気が流れたのを覚えている。

 魔剣の名前は"根滅剣(こんめつけん) 紅姫(べにひめ)"と名付けた。この名前を付けて紅姫がデレたのは言うまでもない。


 ちなみに紅姫はなんら変わっていないとだけ言っておく。


 変わったと言えば、エスタロッサは随分変わった。

 何が変わったって、まず単純に大きくなった。体長約十メートル程まで成長した。それと話せるようになったな。以前は「ギャウッ!」とか「ギャウン」とか「ギャウ」とかしか言えなかったが、今では随分流暢に話せるようになった。

 ただお調子乗りの所は相変わらずで、そこだけが悩みの種と言える。


 続いてギレンだが、コイツの成長速度はえげつない。追いつくどころか離されてしまった。

 本人は「私などまだまだです」とか言っているが。その実オレは一度も勝てていない。このまま行けばオレより先に世界最強になりそうな勢いだ。


 さて近状報告はこれぐらいにしよう。朝日も昇り始めたし、そろそろ出発の時間だ。


「よし、そろそろ行くか!」


『うむ、お前様よ!』


「とうとうこの日がやってまいりましたな父上! 我輩胸が高鳴っておりますぞ!!」


「我が君が行かれるなら、何処へなりともお供致します!」


 オレは根滅剣 紅姫を片手に持つと、エスタロッサの背に飛び乗る。続いてギレンも軽い動きで飛び乗る。

 オレは胡座をかいて座り、ギレンは何故か正座で座る。


 その見た目で正座とかシュールだ。


 オレとギレンが背に乗ったことを確認すると、エスタロッサは翼をはためかせ、空高く飛び上がった。


 そして雄叫びを上げ、凄まじい速度で飛び立つ。


 オレは不敵な笑みを浮かべ、これから起こるであろう未知に想いを馳せる。


「ここからが始まりだ……!」



 この日、理不尽という名の悪魔が、野に放たれた。



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